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徳しまとの久しぶりの再会で言われた言葉が頭から離れない。貞夫は、コンビニで買った安いバーボンを水で割りながら、一人パソコンの画面で顔を照らしている。ネットの普及により、当時入手困難だった曰く付きの映像ですら検索すれば見れるようになっていた。
二人の出会いは、一本の映画だった。その映画のタイトルは『紫の傘の美女』である。尺の短い短編映画で、タイトルに出ている通り、紫の傘の美女が登場する。紫の傘の美女は、男を誘惑し、一途に愛するものの、その愛は狂気に満ちており、残酷なまでに愛で殺すのだ。貞夫としまは小学六年生の頃に、二人でその映画を何度も観た。紫の傘の美女はとてつもなく異常であったが、不思議と魅了された。白い肌に男の血を浴び、目には恍惚の表情を浮かべる。素晴らしく謎に満ちた精神世界がそこには存在した。半ズボンの少年二人は、両親がほとんど留守である、しまの部屋に寄って夢中になって画面に張り付いた。
「ねぇ、こんな事されたら痛いのかな」
貞夫は、聞いた。
「痛いんじゃない?でも、何でだろう。嫌な感じしないね」
しまは、そう答えた。貞夫は思わず、しまの横顔を覗き見した。食い入るように見つめていたしまの瞳は輝いていたが、涙を浮かべているようだった。その意味が、当時は分からなかったが、今になって、その映像の美しさに感動をしていたのだと分かる。
「人を殺してみたい?」
今度はしまが聞いてきた。
「いいや、ぼくは見てるだけでいい」
何も考えずに、思ったことを答えた。
「ふうん、そうなんだ」
しまは、淡々とそう返事だけをすると、再び画面の中を見つめた。
「ぼくは殺してみたいって、思う」