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しまの口から出た言葉に、貞夫は動揺した。映画で衝撃的な告白を受けた役者のように表情はこわばる。
「今、何て?」
反射的に、もう一度確認をする。少しずつ心臓の音が大きくなるのが分かる。しまは両指を組んで肘をつきながら真剣な表情で貞夫を見つめている。
「監禁したんだよ、人を」
貞夫は、乾いていく口内を舌で舐めながら、もう一度聞き直した。
「監禁?は……?待てよ、本当か?」
「ああ。したんだよ。嘘じゃない」
馬鹿な冗談を、と一瞬は思った。だが、貞夫にとって、しまの言う言葉が嘘だとは思えなかった。
その時、貞夫の心にはある二文字が浮かんだ。もしもこの話が本当なら、しまを通報するのが人としての常識だ。カップへ伸ばす手に緊張が走る。
「それが本当という証拠はあるのか?」
1ミリの好奇心と、本当は何事もなくおふざけであってくれという思いが交互に血の中を駆け巡った。
店内には他にも客がいるはずなのに、自分の耳にはしまの声しか入ってこなかった。
すると、しまはソファに折りたたんでいたジャケットの中からスマートフォン取り出し、指で操作をし始める。ここを出るなら今がチャンスに違いない。そうして、警察に電話をするか、あるいは知らん顔を突き通して二度と会わなければいい。
だが、貞夫の体は石のように重くその場を離れられずにいた。しまがスマートフォンの画面を貞夫に向かって見せると、貞夫は目を見開き、一気に呼吸が荒くなった。
「これは、監禁して一週間目の写真だ。だから衰弱しているけど、生きてるよ」
画面の中の人物はサラリーマンだろうか。ポマードで固めているように見える髪は乱れ、中肉中背、清潔そうなYシャツとスーツのズボンとは裏腹に、縄で縛られたその身は小さく丸まって薄汚れている。
貞夫は、咄嗟に叫び上がりそうになったのを喉で抑えた。あまりの悲惨な現実に、さっきまで懐かしかった目の前の旧友が、今は赤の他人に思え、恐怖を覚えた。
「これ、本物か?」
唇が震えているのが分かった。緊張を解そうと、口元をお絞りで拭った。しまは、また笑顔を浮かべて頷くとスマートフォンをジャケットにしまった。
「もちろん。本物だ。じゃなきゃわざわざ見せたりしないだろう」
しまは、当たり前のように話していた。まるで、天気の会話でもするように、その顔は日常的だった。
「それで、どうするんだ。その男を、どうするつもりなんだ」
酔ってもいないのに頭の中がぐるぐると回っていく。言葉も整理されずじまいだ。
「面白い事をしようと思ってな。俺達、昔はよく盛り上がってただろ?」
しまの言葉を聞いて、貞夫は立ち上がった。
「悪いが、俺は関わるのはごめんだね」
傍に置いた上着を取り、店から出ようとした途端、しまはテーブルの上に何かを置いた。貞夫はそれを見下ろす。貞夫のよく知っているものだった。