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第1話 森、焼かれた

 先祖代々住んできた森が、オークの手によって焼かれた。


 富裕層向けのタワダン(タワーダンジョン)を建設するらしい。



「あーあ全焼だよ、まったくよー」



 エルフ族の若き700歳の族長は、燃え盛る森を眺めた。


 共に育った樹木が倒れ、故郷は灰に変わる。

 森は資本主義の炎に焼かれた。


「俺達、なんかやっちゃいました?」


「しいて言うなら、土地の価格上がること予想せずに定住したことかなー」


「何百年前のこと言ってんのよ?」


「ついこの前じゃん」


 エルフの時間感覚で社会に適応などできない。

 赤子に道路交通法を暗唱させる方が早い。


「で、住むとこどうする?」


「その前に飯でしょ。これから必要だし」


「考えてなかったわ。どうすんの?」


 皆が今後の生活を案じていた。

 だが不安はすぐに思考から押し出される。



「なあ、それよりコレ……」


「ええ……」


 エルフ一族が流したのは血でも涙でもない。



「なんだこの、美味そうな匂いは……!」



 ヨダレだった。

 誰しもがヨダレを滴らせていた。


「これ、食いもんの匂い、だよな……?」


「ああ、思い出した……人族がやってた飯屋の匂いだ!」


 焼けゆく森から香ばしい匂いが漂ってきていたのだ。



「これは、間違いない……肉の焼ける香りっ!」


「肉、だとッ……!?」


「忘れてたけどこれ肉の匂いだ! 森に来る前に一度嗅いだことがある」



 この森のエルフは木の実や植物を主食として生きてきた。

 殺生することもなく、動物と共存した集落。


 そもそも彼らは食事の頻度が少ない。



『婆さんや、飯はまだかえ?』


『去年食べたばかりでしょう』



 なんて会話も彼らは日常茶飯事だ。



「肉の匂い……これが……この火が生んでるのか」


 この森のエルフは火を使わない。



 そもそも家がなく、森のその辺で寝転んで暮らしている。

 家が無ければ照らす必要もなくなる。


 夜でも星の光だけで十分明るい。

 地方開発の進んでいない森の空は澄んでいる。


 彼らはノーファイアーライフを送る種族だった。



「知らなかった……」



 文明に置き去りにされていた森は今日、初めて火と焼肉を知った。



「森を焼いたら、こんな匂いがすんのか……!」



 エルフの食欲が刺激されるまでに時間は要さなかった。


 火が収まった場所を見極め、彼らは燃える森に踏み入れる。


「こ、これが、焼けた肉か……!」


 そこにはこんがり焼けた動物たちが転がっていた。


「真っ黒にならないで焼けてる! なんで?」


「コイツらも魔力多いし、炎耐性ついてたんじゃね?」


「そっか! それと側近、さっきから敬語!」


「あ、森焼けた拍子に忘れてましたわ。スマソ」


 やがてエルフ達は肉に鼻を近付け、湯気を胸の奥まで吸い込んだ。

 ヨダレが黒い土に滴る。


「こ、こんな良い匂いのものがマズいわけがねぇ……」


「く、食ってみる?」


「そうするしかねーだろ!」


 迷わず彼らは肉を手に取り、一斉に齧りついた。



 ガブリッ――――



「うんめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


「びゃああああうまぁいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」


 脳天まで突き抜ける暴力的な味がエルフ達に


「美味い、美味いぞ、なんだこれは!」


「カリッとした表面、中の柔らかで瑞々しい感触、濃厚でガツンとしたしょっぱさッ」


「一緒に暮らしてたリスも、鹿も、猪も、こんな美味い味してたのか~!」


「この味に比べたら今までの食いモンは全てカスだ。いや、この焦げカスも美味い!」


「肉うっめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっ」


 森が焼けたことを嘆く者は、もう誰もいなかった。


 生涯初めての焼いた肉をエルフ一同、堪能する。



「こりゃオークに感謝だなぁ」


「森焼いてくれてありがとうってか? アッハハハ」


「――なあ、一つ思ったんだけどよ」


 あるエルフの一人が口にする。



「オークって見た目、ほぼ猪だよな?」



 エルフに衝撃走る。


 禁忌の一線を踏みしめようとする感覚をエルフ達は共有していた。

 だが、腹の虫が本能の警報を遮る。



「アイツら、美味いんじゃね?」



 ゴクリっ――



 かつてないほど大きく、エルフ達は喉を鳴らした。

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タワダンとかいう概念は初
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