第8話 レイダーランク
(自己修復機構かぁ……)
リヒトは懐を温める大金の重みを感じながら、通信端末片手に家に向かっていた。
通信端末の画面には『自動修復機構』に関しての詳細な記事が載っている。自動修復機構は色々な形をしており、それは時に建物や生物、柱の姿であること。それから、自動修復機構がある付近は草原だったり雪山だったり、異次元の空間が広がっていることなど、記事にはそれなりに詳しいことが載っていた。
記事はレイダーズフロントと関係のある公的な機関が発表しているもので、信頼度は高い。もし書いてあることが本当だとするのならば、リヒトが今日迷い込んだ場所は――というより、座標に書かれていた場所は、自動修復機構が稼働していた場所になる。
いや。
(……おれの……せいか?)
リヒトはすでに、レイダーズフロントが発表した『第七保護区にて自動修復機構が再稼働した』という通達を見ている。通信端末はレイダーズフロントからのメールを受信できるようにはなっていないので、自動修復機構を調べる中で偶然知った形だ。
リヒトはレイダーズフロントが出した事の詳細を読んで、まず、責任逃れから始めた。
レイダーズフロントが出している『自動修復機構が機能する範囲』の中心が、座標の場所だった。そして座標の場所で草原に迷い込み、明らかに異質な柱と出会っている。
説明文を見る限り『再稼働した』ということは、元々止まっていたということだ。
そして今日のことを思い返すと、色々とやらかしているかもしれない。
バックパックを引き抜いて柱に刺激を与えてしまったし、草原は崩れてしまったし、機械型マガツモノは破壊してしまった。これだけの刺激を与えれば自動修復機構が『再稼働』してもおかしくはない。
つまり、自動修復機構が再稼働したのはリヒトのせい、ということだ。
「いや……いやいやいや……おれじゃないでしょ」
決定的な証拠が揃っておきながら、リヒトは現実を逃避した。
(そもそも、だからってなんだよ)
自動修復機構が再稼働したからといって、責められる筋合いはない。そして『自動修復機構を再稼働させたら裁く』という法律もない。
(俺は悪くねぇな)
リヒトはそう自分を納得させると、自宅のある廃ビルの階段を上がる。都市開発AIが数十年前に作ったビルということもあり、そこかしこに劣化の跡がある。
階段は欠けているし、床に穴が空いている場所もある。だが仕方ない。廃都市にある綺麗な建物というのは、ほとんどが奪われているため、リヒトは中心場から離れた場所に住むしかなかった。基本的に家賃というものはこの『第七保護区外縁』には存在せず、建物というのは先に占領した者の物で、それが納得できないなら力で奪えばいい、という価値観だ。
そのため、良い物件に住んでいる者は大抵、力を持つ組織や傭兵団に家賃を払って守ってもらっている。
だからリヒトの住んでいる場所は家賃がないが少し中心分の方に近づけば、大抵どこかの組織が管理しているせいで、金を取られる。
当然、取られたくなければ実力で奪えばいい。
長年そうしてきた。
ただリヒトは傭兵団を相手にできるだけの力はないし、家賃を払いたいとも思わなかった。そしてそのせいでリヒトの家にはよく盗人が侵入する。
「うわ、またかよ」
家に帰ると中が荒らされていた。リヒトが廃都市の探索に行っている途中に、誰かが入ってきたのだろう。ドアには一応鍵をかけていたはずだが、傭兵団などの抑止力がなければ、破壊して入ってくる。
帰ってきたら家が誰かに荒らされていることはこれまでにも多々あったので、リヒトは特別驚かず、家の中に誰もいないことを確認してから盗まれたものを確認する。
盗まれたもの……とはいっても、リヒトは家に大切なものは置いてかずに持ち歩くので、基本的には何を盗まれてもいい。
「……まあ、こんなもんか」
盗まれたのは買取屋で買い取ってもらえなかった金にもならない『残留物』ぐらいなもの。重要なものは全て、背負ったバックパックに詰まっている。
(とはいっても……そろそろか)
今までは家に誰かが入ってきても、大切なものをが何一つとしてなかったため、問題がなかった。しかしここ最近は本や片手斧、それから18万リムという大金を手に入れた。
さすがにこれら全てを持ち歩くのは大変なため、家に置いておきたい。特に18万リムの大金を持って歩くのは生きた心地がしないので、早急に保管したい。
「ああーー俺も銀行持ってればなー」
身分証がないリヒトは銀行を開設することができない。本当なら今すぐに銀行に18万リムを預けたいのだが、それができない。
かといって家賃を払って防犯面が少し手厚い場所に住む……というのも、金の無駄な気がした。
(どうしよっかなー)
地べたに座って通信端末に目を傾ける。具体的な解決策を探しているのではなく、ただ何も考えず流れて来る情報を目で追う。ただどれだけスクロールしても、自動修復機構の話題ばかり。
『第七保護区』だけでなく、他の保護区でもかなり話題になっているようで、遠征に来るレイダーもいるらしい。
(遠征って……)
どの保護区の周りにもマガツモノがいるというのに、わざわざ、『第七保護区』まで来てレイダー活動をする意味が分からない。あるとすれば、企業所属のレイダーが本拠地以外の場所で自社武器の宣伝のために来るぐらいなもの。
自動修復機構の再稼働はレイダーズフロントや保護区、企業側からすると頭を悩ませる問題であったり、武器を宣伝する絶好の機会であったりするのだろうが、リヒトには関係ない。
そうやって、目に入る情報を意味も無く、適当に精査しながら眺めていると、ふと、リヒトは思い出す。
「身分証の役割……確か」
今度はちゃんと目的を持って通信端末に目を向けて、調べる。
レイダーズフロントの『レイダーランク』制度に関してのことだった。
『レイダーランク』の上昇に伴って、レイダーは様々な恩恵を受ける。それは提携企業での割引であったり、特定の施設使用にかかる料金を割引、あるいは無料化したりなど。
その中に、直接明記されていないものの、存在する恩恵があった。
「やっぱそうだ」
レイダーランク『3』になるとレイダー証が身分証の役割を果たすというもの。
リヒトが最初に渡されたレイダー証はペラペラの紙一枚だが、レイダーランク『3』になれば、再発行という形で正式なレイダー証が支給される。それに伴って、レイダーズフロントと提携している銀行で口座を開けるようになる。
つまり、レイダーランク『3』になれば銀行口座を持てるということ。その上、一部の飯屋チェーン店で割り引きが効くようになるおまけつきだ。
(ただめんどくせぇ)
レイダーランク『3』にするために求められる貢献度はかなり高い。ほとんどのレイダーは短期的に達成することができないほどだ。企業所属のレイダーならば話は別だが、個人のレイダーでレイダーランク『3』というのは高い壁になる。
「うーんな……」
声にもならないうめき声をあげて悩む。
レイダーランク『3』にするためにはきちんとレイダー活動をしなくてはならない。その上、レイダーズフロントに認可されていない買取屋でマガツモノの素材を売っても、貢献度には反映されないため、企業に売却しなくてはならない。
色々と面倒だ。
しかしこれからのことを考えるとレイダーランク『3』にするメリットも確かにある。
「んー……まあしゃあねぇか」
マガツモノを討伐すること自体は、理論上はできる装備を持っている。
レイダーランク『3』になるための辛抱だと思って、リヒトは前向きに考えることにした。




