賭け1
つむぐは飾りつけしたケーキと紅茶をテーブルの元へと持っていく。
あ、そうだあの子のコーヒーのおかわり持ってきてあげないと。
「その必要はないよ、つむぐ」そう言ってイリオモテヤマネコは自分から席を立って散歩に出た。
きっと気を使ってくれたんだろう。こういうところがなかなか憎めない。
つむぐはマキの前に腰掛ける。「おまたせ」
「いえいえ。美味しそうですねケーキ」
「にゃんにゃん王国のイチゴはとびきり美味しいのよ!」
「楽しみです」
「「いただきまーす」」
二人はケーキを口へ運んだ。
マキの顔が喜びの表情になった。
「え!?まじウマ!」
「ほんと~?よかった~」
つむぐはマキがふと視線を横目にしているのに気が付いた。さてはあのイケオジ、余計なこと言ったな、、、? まあいい。この少女、なかなか勘が鋭そうだ。気を付けて取り扱わねば。そもそもどうしてにゃんにゃん王国に入って来れた? まさか坂下くんとなにか関係があるんじゃないでしょうね?
「あなた名前はなんて言うの?」
「マキです」
「そう、マキちゃん」ええい聞いてしまえ。「単刀直入に聞くんだけど、坂下くんのこと何か知ってる?」
「一応、心当たりはあります。29歳の男性の坂下さんで合ってますか?」
「ビンゴ」やっぱり坂下くんと関係あるのね。「坂下くん調子どう?」
「なんか精神障害にかかったみたいです。私もですが。坂下さんとは精神病院で知り合ったんです」
「坂下くんが精神障害、、、?」
「はい」
「躁鬱?」
「統合失調症です」
つむぐは脳内の記憶の引き出しから情報を引き出した。たしか本で読んだ内容は妄想、幻覚だったはず。そんな私の中の坂下くんはもう記憶の中の存在なの?
「幻覚が見えるって?」
「いえ。薬をちゃんと飲めば、何の問題もないみたいです」
「そう。ホッとしたわ」
「それで、つむぐさんは坂下さんと知り合いなんですか?」
「まあ、知り合いと言ったところね」
「坂下さんってどんな方なんですか。なんだかつかみどころのない方で」
「坂下くんはね、誰よりも綺麗に3ポイントシュートを打つの」
「バスケットボールをやっているんですか?」
「小中高とやってたみたいよ。今はもうやってないのかしら」
「結構知ってますね。わかった!坂下さんの彼女さん?」
「彼女なんてものじゃないわよ」
つむぐは胸に優しく手を当てる。
「ただのバスケットボール仲間よ」
「だからバスケットボールの服着てるんですね。つむぐさん」
「これから、真剣な話になるけどいい?」
「はい」
「ぶっちゃけた話、私にはもう時間がない」
「はい」
「そこで、マキちゃん、あなたに手伝って欲しいことがあるの」
「私にですか?」
「そうよ」
「具体的に何をすればいいんですか?」
「そうね。あなたの身近な人の死を無かったことにしてあげる」
「誰か死ぬんですか?」
「あなたの記憶は後で消さしてもらうけど、教えてあげるわ。古沢さんと杉原さんを生き返らせてあげる」
マキは頭に疑問符が浮かんだ。
「古沢さんと杉原さんが未来で死ぬってことですか?」
「そうよ」
「信じられない」
「ま、信じられないのも無理はないわ。人生はチョコレートの箱、開けてみるまで分からない」
「急にフォレストガンプ。しかも私が嫌いな言葉」
そうか、マキちゃんはあの方が言っていた運命を結ぶ子に違いないわ。どうして気づかなかったんだろう。あの方が夢の中でさんざん説明してくれたじゃない。この子をうまく操って、私は坂下くんに再会できる可能性があるんだわ。なんとか慎重に、だけれども勇敢に運命を歩んで行くしかない。坂下くんに会うための最後の希望。それがマキちゃん。




