01-26
「ウォーは、鳥さんだよ?」
その声は、雨音の響く孤児院の庭中で一際大きく響いた。ローバに悪気が無かったのは良くわかる。だが状況は、さらに悪い方へと傾いていた。
「……は?鳥って……昨日言ってた?」
「そう!ウォーが鳥さんなの!!」
シム少年はこのままでは埒が明かないと思ったのか、こちらへと近づいてくる。ローバの顔は無邪気さで溢れ、しかし私は緊張でまともに息も吸えないほどだった。
雨足が強くなってくる。
同時にシムの足音。
「なあ?お前、ウォーだっけか。なんで顔隠してんだよ、おい」
詰め寄ってくるシム。
当然私は人類種語を話せない為、返事を返せない。
遠くで老シスターが、こちらの異様な空気感を感じたのかこちらに寄ってくるのが見える。
室内に入ろうとしていた参拝客や、敷地を後にあとにしようとしていた人も、いつの間にかこちらを注目していた。
少年の手が伸びてきて、動悸が激しくなる。
「 」
雷音。
シムが何を言ったのかはかき消され聞こえない。
しかし直後、彼の手が私のローブを脱ぎ取り、
「……え?」
そして世界は硬直した。
最初に動きだしたのは、周囲を取り巻いていた人のうちの誰かだった。
おそらく笛を吹いたのだろう、ピーッという音が街に響く。
その笛が合図だった。直後、時間が戻ったかのように一斉に時が動き出す。
シムは、茫然自失に半歩後ずさる。
ローバは、さすがに状況に気付いたかこちらへ寄ってくる。
老シスターは、何やらこちらを見て動き出す。
人々は逃げ出す人、牽制のためかにじり寄ってくる人、叫び声をあげる人、まさに阿鼻叫喚と形容する他無いほど。
そしてそれらすべの人から立ち上る赤や青や黄やらの色、色、色……。
周囲の動きに半歩遅れ私も動き出す。
逃走一択だった。
本当ならローバを置いていきたかったが、バーバラさんに頼まれたのだ、見殺しにする訳にはいかなかった。
「ローバ!逃げるぞ!!」
思わず声を発する。だがそれは悪手だった。
亜人種語を聞きなれない街人達は、未知の音の羅列により一層警戒する。
ローバは言葉のニュアンスは汲み取れたのか、こくこくと頷きながら着いてきた。
入ってきた方向には逃げられない。
人の包囲が薄い方を目指し、手を繋いでひた走る。
「あっ!」
小さな叫び声。同時に右腕に違和感。同時に身体が骨格から変えられるような激痛。
見れば、躓いたのか転んでしまったローバの手に、人化の腕輪が握られていた。
必死に動こうとするが激痛でままならない。
後ろから叫び声。だが確認している余裕は無い。
懸命に足を動かす。
少しでも前へ、前へ、前へ!!!
「其の力、神に代わりて行使せん。【バインド】!」
突然光が身をつつみ、1歩も前へ進むことが出来なくなる。
拘束系の魔法を使われたらしい。
ゲーム脳がどこか他人事のようにそう考える。後ろを確認することすら不可能。
多数の足音が近づいてくる。詠唱が唱え終わったのか、火が、氷が、風が、土が、殺意の塊となって襲ってくる。
見えないHPバーが限りなくゼロに近づいている。
逃げられない。
救いの手は無い。
打開できるなにかもなかった。
――いや、一つだけあるかもしれない。
激痛で歪む思考の中、一つだけ残された可能性を思い出す。
コントロールの方法どころか、使用方法すら定かではないスキルの名を。GMが変換を申し出る程の鬼札らしいスキルの名を。
残された時間は少なく、自力でどうにかできる手段は残されていない。
ならばと、一筋の光を信じそのスキル名を唱える。
「……【狂化】」
雨音は変わらず響いていた。
Tips.詠唱
特定一部のスキルと魔法を扱うには詠唱が必要とされる。しかし、詠唱がなぜ必要とされるかは現代ではわかっていない。
now loading ……
お久しぶりです、石食みです。
リアルの多忙故約一ヶ月半ほど更新が止まっていましたが、ある程度一段落したので更新再開致します。相変わらず稚拙な文章ですが、読んで頂けたら幸いです。(毎日投稿は厳しい、多分……)




