「恩人を探そう」
胡乱な小説なので楽しいですよ
第二話「恩人を探そう」
2
ボブッティブとジョナサンは廃病院に突入した。二人の最終的な目的は『エイリアンを倒すこと』。だが当面の目的はというと、彼らを救ったとある人物を廃病院にて見つけるというものだった。
エイリアンに捕まったジョナサンを救い、間接的にボブッティブを救った(第一話参照)人物。政府直属の特殊部隊に所属する彼——ジョナサン曰く、男性とのこと——。
とにかく二人は、まずはその、単身で廃病院に潜入した彼を探し出し協力したいと考えたのだった。あとついでに、ちゃんと名前(コードネームあたり)を聞いておきたかった。今のままではやたらと長い言い回しになるからだ。
「しかしよジョナサン。その……政府直属の特殊部隊に所属する人は何しにここに来てんだ? マジにエイリアン退治なのかよ?」
「わざわざ政府直属の特殊部隊に所属する人が来てんだからそうだろうぜ。そもそも俺を助けてくれた時もエイリアンに対しては別に驚いている素振りもなかったしな」
そういうものなのか、とボブッティブは思った。
「……ところで、これは俺の見立てだが」
ジョナサンが新たな話題を切り出した。
「エイリアンはまず、ここヤババシティの住民を機械製のニセモノとそっくりそのまま取り替えようとしているんじゃないかな」
「……確かにニセモノのジョナサン、ヤローはマジにジョナサン、お前そっくりだったぜ。記憶までコピーしてるのも信じられる」
ボブッティブは先刻の戦いを思い出しながら答えた。
「ああ……ムカつくことにあのクソッタレは、俺へ完璧に成り代われるって感じだった」
苛立ちを隠すことなくジョナサンは言った。無理もない。自分に成り代わろうとするニセモノに嫌悪感を持つことは別におかしな話ではないだろうから。
「個人レベルで始める侵略作戦ってことかよ。やることがみみっちいぜ! ……まあその分、堅実でもあるがよ」
二人はエイリアンに悪態をつきつつ、廃病院を進んでいった。
「キェーーーーーーッ」
その時、触手まみれの二足歩行クリーチャーが天井を破壊し降ってきた。とにかくウネウネしていて気色悪い。
「ジョナサン! こいつがエイリアンか!?」
大口径自動拳銃をクリーチャーの各部位目がけて発砲しながらボブッティブは訊いた。
「こいつもエイリアンだろうが俺を捕まえたやつらはもっとインテリジェンスだった! こいつは多分番犬的なアレだ!!」
答えながらジョナサンはクリーチャーに散弾をぶちかました。
「グエエエエエ!!」
触手まみれのクリーチャーは緑色の血液らしきものを撒き散らしながら尚も二人に迫って来た。その速度は実際犬に近い。全然犬ではないにせよ、このクリーチャーはエイリアンの放った番犬的なポジションなのだろう。
クリーチャーは触手を器用に展開・伸縮させ二人に襲いかかった。
「冷静に打ち抜けボブッティブ!」
「お前は構わずぶっ放せジョナサン!」
二人は慌てることなく弾丸を触手にぶちかました。
「ギエエエエエエ!!!」
触手の大部分を失い、クリーチャーは絶叫した。隙だらけだ。
「今だボブッティブ!」
「ぶっ飛べ……!」
ボブッティブはすかさずクリーチャーの頭部めがけて弾丸を直撃させた!
「グオオオオオオオオ」
クリーチャーはそのまま絶命した。
「……チッ、弾のストックはまだあるにはあるが、遭遇戦は旨くねえなこれ」
ボブッティブは理性的に分析した。
「今のクリーチャー、複数で来たらヤバイぞ。攻撃を喰らえば俺たちはすかさずミンチだ……」
ジョナサンは冷静に脅威を認識した。
「……ボブッティブ、当面はこっそりひっそり忍び足作戦でいこう」
「ああ、俺もそれに賛成だ。なるべく戦闘は避けるべきだぜ」
ボブッティブはジョナサンの提案に乗った。
こっそりひっそり忍び足作戦を開始した二人は、密やかに廃病院の探索を進めていった。
何度かパトロール中のクリーチャーに遭遇したが、発見される前に背後から迷うことなく即座に始末したので特に問題は起こらなかった。
そして二人はエレベーターの前にたどり着いた。どうもエレベーターは稼働しているようだ。
「……ジョナサン、どう思う」
「どうってそりゃ……」
言い終わる前にエレベーターの扉が開いた。
エイリアンが乗っていた。人型ではあるが、特殊なスーツを着ているのか全身銀色タイツマンといった趣の風貌だった。
「…………ナゼ、ココニ地球人ガイル?」
エイリアンは混乱している。それもそのはず、ジョナサンが逃げたのは数時間前。まだ情報が拡散されていなかったのだ。連絡係は政府直属(以下略)の人が始末していたのだから尚更である。
「ボブッティブ、仕方ないから倒すぞ」
「そうするぜ」
ボブッティブは問答無用で発砲した。エイリアンはなすすべなく倒れた。
「ギャアアアアア! ナニスンダオマエ!!」
血液……ではなくオイルを胸から流しながら、エイリアンはブチギレた。
そう、血液ではなくオイルだった。彼らの体はサイボーグだったのだ。
「やべえってジョナサン! これは流石に!」
「分かってるが撃ちまくれ!」
散弾をエイリアンに撒き散らしながらジョナサンが叫んだ。
程なくしてエイリアンは沈黙した。二人は勝利したのだ。
……人類間での大戦が終わって久しいが、よもやここで新たな戦いが始まろうとは誰も考えてはいなかっただろう。それも戦っている青年の片割れが肝試しの下見に来た人物であるなど、予想外にもほどがある。
「とにかく、エレベーターは良くない。……階段から行くぞボブッティブ」
「そうしよう」
ジョナサンが先頭になり、二人は近くにあった階段から二階に進むことにした。
二階に進むと、目の前には凄惨な光景が広がっていた。
……壁という壁にオイルが撒き散らされていたのだ。
そう、血ではなくオイルが。
「なんだってんだ? まさかジョナサンを助けたっつー人がやったのか?」
「あの人はきっとめちゃくちゃ強いだろうが、ここまで派手なことができるほどの武器は持っていなかったと思う。だからこれは恐らく別の人物がやったんだろう」
別の人物と言われてもピンとこないボブッティブ。何せここまでの無双っぷりは人の手によるものとは思えないからだ。
その時。三階から誰かが降りて来た。
「「誰だ!」」
二人が叫び、振り返る。そこには一人の屈強な男がいた。右腕は何故か巨大なカタナだった。筋骨隆々で出てもいないのに二人は殺気が見えたような気がした。
もしかしたら既にエイリアンの手で改造されてしまったのかもしれない……そう思った二人は武器を構えた。
すると屈強なカタナマンは慌てて喋り出した。
「ちょっと待ってよお兄さんたち! 私ってば怪しいものじゃないのよ! 確かにこのエクスカタナは元々付いてたけど、だからむしろエイリアンとは関係ないっていうか!」
屈強なカタナマンの心は乙女だった。そしてカタナもといエクスカタナは自前だった。
今、新たな波乱が幕を開けようとしていた。
胡乱胡乱言いすぎて胡乱ってなんだっけってなりそうですが元気です