乗せて
そこから先も、簡単ではなかった。
世の中に飛べる機械があることと、自分たちの機械が飛べることは、違っていた。
エンジンは重かった。
部品は壊れた。
修理の依頼を片づけなければ、材料を買う金がなかった。
私は、魔女なのに工具の名前を覚えた。
エドは、発明家なのに何年たっても上着の肘を繕えなかった。
ネリーは背が伸び、私たちが口論を始めると、黙って必要な寸法を測ってくれるようになった。
そして、あるよく晴れた日に。
私は、完成した二人乗りの機体の前に立っていた。
後ろの席には、これまで私より重い砂袋が載せられ、何度も試験に使われていた。
その砂袋が、地面へ下ろされていた。
ネリーが最後の確認を終えた。
「次は私だからね」
私に向かって、そう言った。
「私、まだ乗るとは」
「朝から三回、髪を結び直してる」
エドが吹き出した。
私は彼を睨んだ。
「何?」
「いや。別に」
「落としたら承知しないわよ」
「落とすつもりで作ってない」
彼は私に近づき、座席への足の掛け方を説明した。
私が浮いて乗ろうとすると、待った、と言った。
「普通に乗れるか、確かめたい」
私はため息をついて、教わったとおりに足をかけた。
手すりをつかみ、体を持ち上げ、座る。
たったそれだけのことに、ずいぶん手間がかかった。
けれど、魔法は使わなかった。
座席の縁を、指で撫でた。
木の手触りがした。
古い図面の小さな四角が、私の体を支えていた。
エドが、前の席に乗り込もうとした。
私は袖をつかんだ。
「エド」
「何?」
長いこと、言わないつもりだった言葉を。
私は、ようやく口にした。
「乗せて」
エドは目を細めた。
勝った、とも。
ほら見ろ、とも言わなかった。
「うん」
それだけ言った。
エンジンが回った。
うるさかった。
とても、うるさかった。
機体が揺れた。
草地が後ろへ流れた。
私は反射的に、体を浮かせようとした。
けれど、やめた。
足を床へ置き、背中を座席へ預けた。
何も持ち上げない。
何も支えない。
私自身さえ。
地面が、離れた。
私は息を止めた。
体の内側では、何も起きていなかった。
力を使っていない。
それなのに、高くなっていく。
修理屋の屋根が見えた。
ネリーが両手を振っていた。
町へ続く道が、細く伸びていた。
いつもと同じ景色だった。
何度も、何度も、自分の力で見てきた景色。
なのに私は、うまく息ができなかった。
前の席で、エドが振り返った。
何か言った。
エンジンがうるさくて、聞こえなかった。
私は顔を寄せ、叫んだ。
「何て?」
彼も、叫び返した。
「どうだ!」
私は少し考えた。
それから、正直に答えた。
「うるさい!」
エドが笑った。
私は、もう一度叫んだ。
「寒い!」
彼はまた笑った。
最後の言葉は、叫ばなかった。
彼に聞こえたかどうか、わからない。
「……楽ね」
私は、両手を膝の上に置いた。




