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魔女のいらない空  作者: 週休七日


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2/8

弟子になれなかった子

 それから私は、しばしば修理屋へ顔を出すようになった。


 監視のためだった。


 あの馬鹿が死んだら、私の勝ち逃げになってしまう。


 エドの研究は、驚くほど地味だった。


 小さな翼の角度を変える。風を当てる。重りを載せる。同じことを何度もする。


 昨日も見た、と言うと、昨日とは曲がり方が違う、と言う。


 どこが、と訊くと、ここが、と爪の先で示す。


「こんな違いで飛ぶようになるの?」

「わからない」

「わからないものを作ってるの?」

「わかっていたら、調べなくていいだろう」


 私は退屈すると、天井近くまで浮かんで、作業台を見下ろした。


 そこから眺めると、どの翼も似ていた。


 けれど、床に降りて顔を近づければ、少しずつ違っていた。


 その違いを、彼は全部、紙に残していた。



 修理屋には、ネリーという九歳の女の子が出入りしていた。


 近所のパン屋の娘で、焼きすぎたパンを届ける代わりに、エドから小さな玩具を作ってもらっていた。


 ある日、私は棚の上にある瓶を取ろうとして、うっかり彼女の前で浮いてしまった。


 ネリーは息をのんだ。


 私は慌てて床に降りた。


 彼女は、私の靴と床のあいだを、もう一度確かめるように見た。


「私にも、できる?」


 その訊き方が、あまりに真剣だったので。


 私は、いつものようには笑えなかった。


「……やってみないと、わからないわね」


 魔法を使う素質は、生まれつきのものだ。


 親が魔女だからといって、子もそうなるとは限らない。反対に、何代も途絶えていた家から、突然生まれることもある。


 けれど私は、誰かの素質を確かめる方法を知らなかった。


 自分は幼いころ、椅子から落ちかけて、落ちなかった。それだけだった。


 だからネリーにも、体が軽くなる感じを思い浮かべて、と教えた。


 彼女は目を閉じた。


 両手を握った。


 靴底は、床を離れなかった。


「もう一回」


 翌日も、彼女は来た。


 その次の日も。


 飛べたら最初に何を見るか、ネリーは毎回、違う話をした。


 教会の屋根。

 海の向こう。

 自分の家の煙突。


「お父さん、サンタさんが通れるように掃除したって言うけど、絶対してないと思うの」


 私は笑って、それなら確かめなきゃね、と言った。


 言ってしまった。



 一週間ほど経った夕方、ネリーは片方の靴を脱いだ。


 次に、もう片方も。


「重いから、だめなのかな」


 私は答えられなかった。


 彼女は裸足で立ち、また目を閉じた。


 小さな足の指が、床板をつかむように曲がっていた。


「もっと、一生懸命やればいい?」


 そのとき初めて、私は自分が何をしていたか、わかった。


 飛べるかどうかもわからない子供に、飛べない責任を背負わせていた。


 私は彼女の前に膝をついた。


「ネリー。あなたが下手なんじゃないの」

「でも」

「私が、あなたを飛ばす方法を知らないの」


 彼女の目が、ゆっくり開いた。


「……先生なのに?」


「ええ」


 その日の私は、空を飛べること以外、何もできなかった。



 帰り際、ネリーは作業台の模型を指さした。


「これは、魔法がなくても乗れるの?」

「そのつもりだよ」


 エドが答えた。


「私も?」

「乗れる大きさにする」

「靴を履いたまま?」

「もちろん」

「コートも?」

「寒いだろうからね」


 ネリーはしばらく考えてから、言った。


「じゃあ、私、そのほうがいい」


 戸口の鈴が鳴った。


 女の子が帰ったあとも、私は床に座ったままだった。


 エドは何も言わず、私の隣に腰を下ろした。


 手には、木の翼を持っていた。


「ほら」


 彼がそれを差し出す。


「削りすぎた。失敗作だ」


「慰めのつもり?」


「いや。手伝ってほしい。次のを作るから」


 私は木片を受け取った。


 軽かった。


 こんなものなら、いくらでも飛ばせる。


 私が手を離さなければ。

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