弟子になれなかった子
それから私は、しばしば修理屋へ顔を出すようになった。
監視のためだった。
あの馬鹿が死んだら、私の勝ち逃げになってしまう。
エドの研究は、驚くほど地味だった。
小さな翼の角度を変える。風を当てる。重りを載せる。同じことを何度もする。
昨日も見た、と言うと、昨日とは曲がり方が違う、と言う。
どこが、と訊くと、ここが、と爪の先で示す。
「こんな違いで飛ぶようになるの?」
「わからない」
「わからないものを作ってるの?」
「わかっていたら、調べなくていいだろう」
私は退屈すると、天井近くまで浮かんで、作業台を見下ろした。
そこから眺めると、どの翼も似ていた。
けれど、床に降りて顔を近づければ、少しずつ違っていた。
その違いを、彼は全部、紙に残していた。
修理屋には、ネリーという九歳の女の子が出入りしていた。
近所のパン屋の娘で、焼きすぎたパンを届ける代わりに、エドから小さな玩具を作ってもらっていた。
ある日、私は棚の上にある瓶を取ろうとして、うっかり彼女の前で浮いてしまった。
ネリーは息をのんだ。
私は慌てて床に降りた。
彼女は、私の靴と床のあいだを、もう一度確かめるように見た。
「私にも、できる?」
その訊き方が、あまりに真剣だったので。
私は、いつものようには笑えなかった。
「……やってみないと、わからないわね」
魔法を使う素質は、生まれつきのものだ。
親が魔女だからといって、子もそうなるとは限らない。反対に、何代も途絶えていた家から、突然生まれることもある。
けれど私は、誰かの素質を確かめる方法を知らなかった。
自分は幼いころ、椅子から落ちかけて、落ちなかった。それだけだった。
だからネリーにも、体が軽くなる感じを思い浮かべて、と教えた。
彼女は目を閉じた。
両手を握った。
靴底は、床を離れなかった。
「もう一回」
翌日も、彼女は来た。
その次の日も。
飛べたら最初に何を見るか、ネリーは毎回、違う話をした。
教会の屋根。
海の向こう。
自分の家の煙突。
「お父さん、サンタさんが通れるように掃除したって言うけど、絶対してないと思うの」
私は笑って、それなら確かめなきゃね、と言った。
言ってしまった。
一週間ほど経った夕方、ネリーは片方の靴を脱いだ。
次に、もう片方も。
「重いから、だめなのかな」
私は答えられなかった。
彼女は裸足で立ち、また目を閉じた。
小さな足の指が、床板をつかむように曲がっていた。
「もっと、一生懸命やればいい?」
そのとき初めて、私は自分が何をしていたか、わかった。
飛べるかどうかもわからない子供に、飛べない責任を背負わせていた。
私は彼女の前に膝をついた。
「ネリー。あなたが下手なんじゃないの」
「でも」
「私が、あなたを飛ばす方法を知らないの」
彼女の目が、ゆっくり開いた。
「……先生なのに?」
「ええ」
その日の私は、空を飛べること以外、何もできなかった。
帰り際、ネリーは作業台の模型を指さした。
「これは、魔法がなくても乗れるの?」
「そのつもりだよ」
エドが答えた。
「私も?」
「乗れる大きさにする」
「靴を履いたまま?」
「もちろん」
「コートも?」
「寒いだろうからね」
ネリーはしばらく考えてから、言った。
「じゃあ、私、そのほうがいい」
戸口の鈴が鳴った。
女の子が帰ったあとも、私は床に座ったままだった。
エドは何も言わず、私の隣に腰を下ろした。
手には、木の翼を持っていた。
「ほら」
彼がそれを差し出す。
「削りすぎた。失敗作だ」
「慰めのつもり?」
「いや。手伝ってほしい。次のを作るから」
私は木片を受け取った。
軽かった。
こんなものなら、いくらでも飛ばせる。
私が手を離さなければ。




