表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大天才だった幼馴染に久しぶりに会ったら、見る影もないくらい心身ボロボロになっていた件  作者: 平元桜央
第一章 太陽と月

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/35

11歳の夏

天才の隣に立つという行為が、凡人にとってどれほどの偉業か――想像できるだろうか。


特別なことなど何もしていない。

それなのに、勝手に集まる周囲の視線。


称えるような眼差し。

落胆の色を帯びた瞳。

そして――嫉妬。


妬み、嫌がらせ。

『なぜお前が隣にいるのか』と、無言で突きつけられる問い。


それでもなお、あなたは隣に立ち続けられるだろうか。







サイ・クロスフィールド。

それが僕の名前だ。


片田舎のパン屋に生まれ、両親の手伝いをしながら穏やかに過ごしてきた、ごく普通の少年。


11歳の夏。


あの夏の日を思い返すたび、胸の奥がじんと痛む。


思えばここが、『僕たち』の人生の分岐点だったのかもしれない。


「サーイー! あーそーぼー!!」


昼下がり。お昼ご飯後の心地よい眠気を破るように、外から元気な声が響く。

母さんがノックもせず扉を開けた。


「ユノちゃんが来たわよ! 店を手伝わないなら外へ行ってきなさい!」


「……うん、今行くよ」


部屋から出て、荷物をとってお客さんに挨拶をしながら家を出る。

店の前には、声の主。


「あ、来た! おはようサイ!」


「うん、おはようユノ……」


彼女の名前は、ユノ・ロックウェル。

誰もが振り返る黄金の髪を腰まで伸ばし、純白のワンピースによく映えていた。スカーレット色の瞳をきらきらと輝かせる。


近くに住んでいた――ただそれだけの理由で仲良くなった、底抜けに元気な女の子。その手には釣り道具一式。釣りに行く気満々の格好だ。


「今日も釣り?」


「もちろん! 魚釣り対決、今日こそ勝たせてもらうわ!」


「うん……でも、魔法の練習は終わったの……?」


「もちろんよ! 私を誰だと思ってるの? 大人達に与えられた課題なんて、午前中にチョチョイって終わらせちゃうんだから!」


「……そっか、流石だね。じゃあ行こうか。あんまり店の前で話すとお客さんに迷惑だし」


「うん!」


僕は荷物を受け取り、川へ向かって歩き出した。








真夏の陽射しに、砂利道が白く輝く。

鼻歌まじりで上機嫌なユノの横顔を横目に、僕はなるべく人とすれ違わないことを願っていた。


「あ、ちょっと迂回していきましょ」


「……うん」


このまま進めば、ユノの家の前を通る道だ。


遠目に見える彼女の家の前には、王都の『魔法協会』の人々が集まっていた。


「このままだと捕まっちゃうから」


「話、聞かなくていいの?」


「ママが対応してるからいいの。おべっかばかりで退屈だし……それから……」


「……?」


「ううん、なんでもない」


ユノは口ごもり、先を歩き出す。


魔法協会と彼女の家が何を話しているのか、僕は知らない。

けれどきっと、ユノの夢を叶えるために大事なことなのだろう。


彼女は魔法の天才だった。


3歳にして習得困難な魔法を何個も使えるようになり、11歳の今では50種を超える魔法を操る。

普通の人間なら、1年に1つ覚えられれば上出来とされるのに。


さらに、彼女の魔力量は常人の何倍にも及ぶときた。


『将来は国一番の大魔導士になってやるわ!!』


それが、ユノの口癖であり、夢だった。


大魔導士は、魔法使いの中でもとてつもない偉業を成し遂げた者にのみ与えられる称号。


『魔法文明を築いた始祖』


『魔王を討伐した魔法使い』


『不老不死の魔法を発動させた魔女』


歴史上、大魔導士の称号を得た者は、たった3人しかいない。


僕から見れば、まさに雲の上の存在。

それでも――ユノならきっと、なれると思っていた。


僕とは、違って。









「釣った魚は5匹対2匹……僕の勝ちだね」


「あーっ、また負けたぁ!」


河川敷での釣り勝負。

勝敗がつくと、ユノは大きく仰向けに倒れ込んだ。


基本的に、何をしても僕がユノに勝てることはない。

かけっこも、勉強も――ましてや魔法なんてもってのほかだ。


でも、この魚釣りだけは、僕が唯一ユノに勝てる勝負だった。


「今度こそ勝てると思ったのにぃ!」


「あはは……惜しかったね。でも僕が追い上げると、ユノ焦っちゃうから……」


「もう一回!」


「え?」


「もう一回やろ!」


ユノは両手を腰に当て、夕陽に照らされた顔を真っ赤にして叫ぶ。

その目は真剣そのものだった。


「で、でもこれ以上釣っても食べきれないよ……」


「じゃあこの子たちは逃がすから! ね? お願い……」


ユノが必死にお願いしてきた、その時


「まーたユノがサイと一緒にいやがる!」


河川敷に野太い声が響いた。


振り返ると、同い年くらいの大柄な少年――街で知られた乱暴者と、その取り巻き2人が立っていた。


彼らが視界に入ると、ユノの表情がわずかに歪む。『またか……』とでも言いたげに。


「誰と一緒にいようが私たちの勝手でしょ? なんであなたたちに文句を言われなきゃならないのよ」


身体の大きさなど気にも留めず、ユノは堂々とした口調で返す。


「そんな奴と一緒にいたら、お前の才能が腐るって言ってんの」


「そうだそうだ。『ユノの威を借りる腰巾着』だって、皆が言ってるぞ」


「……」


こんなふうに、僕らはよく彼らに絡まれていた。

……けれど、言っていることは正しいのかもしれない。


「ユノもこんな奴ほっといて、俺たちと――」


乱暴者がユノの肩に手を伸ばす。


バヂィン!


その手を、ユノは虫でも払うように、勢いよく弾いた。


「いってぇ! てめぇ、何しや――」


「あなたたち……!」


「……!」


ユノの黄金の髪が、怒りで逆立つように見えた。


「それ以上サイの悪口を言ったら、許さないわよ!」


「な、なんだよ! 事実じゃねぇか! サイなんてユノの腰巾着だ! 何の取り柄もないクズが!」


ブチッ――。


ユノの中で、何かが切れた音がした気がした。


「へぇ……アッタマきちゃった」


彼女がガキ大将に指を向け、くいっと空へ掲げる。


「え? お、おい……うわぁ!!」


次の瞬間、3人の身体がふわりと宙に浮いた。


「うわああああああああ!!!」


ヒュン、ヒュン!


まるで空を舞う鳥のように、3人はぐるぐると旋回する。


「どう? 空を飛ぶ気分は?」


「て、てめぇ! 離しやがれ!」


「あら、まだ元気ねぇ」


ユノは回転をさらに速める。


「や、やめ――うわああああああ!!」


「あははは! 楽しそうで何より!」


「ユ、ユノ!」


僕が裾を掴むと、ユノはぴたりと動きを止めた。


「……ダメだよ、それ以上は」


「……」


しばし黙った後、彼女は肩をすくめてため息をつく。


「仕方ないわね」


そしてニコッと笑い――


「じゃあ、離してあげるわ♪」


魔法の効力が解け、3人は川へと落ちた。


「「「うわあああああ!!!」」」


どぱぁん!


情けない悲鳴と水しぶきがあがる。


「サイの優しさに感謝して、さっさと帰りなさい」


「……くそっ! 覚えてろよ!」


逃げていく背中に、ユノは手をひらひら振った。


「はいはい。こっちは1秒でも早く忘れたいわよ。……まったく、せっかくの午後が台無しね」


そう言ってサンダルを脱ぎ、足先だけ川に浸す。

透明な水が、白い足をきらきらと濡らした。


「ねぇ、サイ?」


「……うん」


「私、大魔導士を目指すから、サイも何かすごいことを目指してよ」


不意に告げられ、胸がきゅっと締めつけられる。


「でも……僕には、ユノみたいな才能はないし……」


「なにいってるの! 私と比べちゃダメよ!」


――そこを否定しないのが、ユノらしい。


「でも、サイにはサイの素敵なところがいっぱいあるわ!」


「……僕の、素敵なところ……?」


「料理が上手でしょ? 魚釣りもうまいし……それに――」


「それに?」


「……ううん! なんでもない!」


お菓子作りも魚釣りも、ただ家の手伝いでやっているだけ。

目の前の彼女に比べたら、僕はあまりにも平凡だ。


「……まぁいいわ! サイ! 気分転換におやつにしましょ!」


「あ、う、うん……」


僕は河原にシートを広げ、持ってきた荷物から箱を取り出す。


「はやく! はやく!」


「だ、大丈夫だよ……おやつは逃げないから」


箱を開くと、ユノのスカーレットの瞳がより一層輝きを増した。


「やったー! 今日はクッキーを持ってきたのね!」


箱の中に入っていたのは、クッキーだった。チョコチップやジャムサンド、ラングドジャ、ヴィエノワなど、多くの種類のクッキー。


「い、いっぱい作ってきたから、焦らず食べてね」


「うん! いただきまーす」


ユノはチョコチップクッキーを手に取り、一口齧った。


「おいしー!! また一段と腕を上げたわね!」


「そ、そうかな……? まだ全然、お母さんたちが作ったお菓子には及ばないけど……」


「そんなことないわ! 甘くて、綺麗で、お店に売っててもおかしくないくらいよ!」


ユノはあっという間に持っているクッキーを平らげ、次のクッキーへ手を伸ばす。


「うーん! おいし〜!」


「……」


ユノは頰に手を当てて、本当に美味しそうに食べる。


ユノと一緒にいると、さっきみたいに嫌なことはたくさんある。


それでもこの時間は好きだった。

僕のお菓子を食べるユノの笑顔が、あまりにも素敵だったから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ