遺言書にかえて、非魔術師諸氏への手紙
本書は安全規定機構規則94条1に基づく文書の開示ならびに周知に伴う非安全文による翻訳規定に基づき、同規定補足書に則って訳され、公開を許可されたものであることをここに示す。
安全規定機構審査部非安全文審査・監視室【EA-1】担当官 徳松国吉
同規則94条3による情報開示
訳者 城島なざら
訳者所属 城島機構
訳語 日本語【EA-1】
安全管理水準 N1安全規定に基づく
許可種別 制限付き公開
エルズワース・エバンスより
エイブリー・エバンス代筆 魔術印省略
この手紙が皆様の元に届いているということは、安全規定審査の結果が翻り、公開が認められたということでしょうから、まずはそのことを嬉しく思います。
私は、その半生を魔術理論の研究に費やし、(恐れ多い話ですが)情報素魔術の第一人者と呼ばれ、魔術師として仕事をしながらも、長らく教鞭を執り、いくつかの指南書を書いてきました。
忙しなく働いてる内はそれで満足していましたが、やがて、私が社会に貢献できる範囲の狭さに虚しさを覚えるようになりました。
当然のことながら、魔術の教育は魔術師にしか行われず、従って私が貢献できるのは、私が直接教え、あるいは指南書を読んだ魔術師に限られます。全世界の人数と比べても、その魔術が生み出す影響範囲を考慮しても、私が関われる範囲のなんと微々たるものか!
そして幾度とない思考の末に、一つ社会に貢献する方法に思いあたりました。
情報素魔術の理論を全世界の人々に広めるのはどうだろうか、と。
おそらく、指南書を読んだだけで魔術が使えるようになるものはほとんどないでしょう。
しかし、数学の理論が科学分野に導入されたように、情報素魔術の理論も諸分野に、あるいはそのまま導入されずとも、活用できるアイデアを生み出すヒント足りうるのではないか、とそう思ったわけです。
しかしながら、安全規定審査はそれを許しませんでした。曰く、そのまま情報を公開した際に与える影響が大きすぎると。私はそうは思いませんでした、魔術指南書が外に出ようと、所詮はフィクションの産物としか思われないだろうと、私は今でも考えています。
しかし、正しい手続きと審査手法に則って行われた結果に恨みはありません。私の手元には無力感が残りました。
その後もしばらくの間、後進を育てるため教鞭を執り、ようやく引退したある日。残り時間の少ない私は思いがけない出会いを果たします。
その東洋人の少年(後から知りましたが、見た目より一回り年を取っていたようです)との他愛ない会話の中で、彼の発言の中に、情報素魔術の基本にも近しい内容が含まれていたのです。
ハッとしました。私の考えは、感じたものは間違っていなかった。同時に諦めていた指南書の公開にも光が差しました。十数年の経過と非魔術社会の目まぐるしい発展により、かつての結果、影響範囲に変動を与えているのではないか。
私は再び筆を取りました。彼や私の弟子と相談を重ね、その多大なる協力により、長い指南書の編集・改訂を経て、いま再度、公開のための手続きを開始しました。
私の残り時間を考えると、結果を知る頃にはここにはいられないでしょう。もはや筆を取ることすら許されません。ですから、先んじてメッセージを皆様に送りました。本当は結果を知ってから祝いたかったのですが、うまくいくことを信じ、それを希望として、最後の言葉にしたいと思います。
最後に、私が再び立ち上がるきっかけをくれた城島なざらと、私が心残りのないように協力してくれた一番弟子にして最愛の息子であるエイブリー・エバンス、そして審査を再び行ってくれるであろう安全規定機構の諸氏に改めて感謝を。
そしてこれを読む諸氏らに神の言葉が、ひらめきがあらんことを。
エルズワース・エバンスより、遺言に代えて。




