その14
翔太は華織の問いに答えた。
「西園寺と反西園寺の間での出来事は、西園寺が“命”であり続け、この国を守るためです。つまり、華織はんと天の契約の末、起きていることやないかと」
笑いながら肩をすくめる華織。
「私がそれを認めると思っているのかしら」
「はい。僕のほうが物理的に、華織はんたちの大切なものを守れる時間が長いですから。認めて、お任せいただけるのではないかと」
「時間…そうね…」ふと、目を反らす華織。
「実のお孫の中でも、龍や華音ちゃんは自分で何とかなります。でも、あーくんはそうじゃないです。これから力が出る可能性も高いですが、極めて状況が不安定。
そして、龍はあの性格です。あーくんが西園寺にとって足かせになると判断したら、切り捨てるでしょうなあ」
「…私以上に龍のことがわかっているのね」
「僕は、わかるために努力してきました。華織はんのように、能力ゆえに、ただわかる、というのとは違います」
「能力というのは不自由なものなのね…」腕組みする華織。
「問題は能力ではありまへん。ただの祖母として龍とどう向き合うてきたかです」
「どういう意味かしら」
「失礼を承知で言わせてもらいます。華織はんは、龍のばっちゃんでいることより、“命”であることを優先されて来た」
「…そうかもしれないわね」
「そして、だからこそ、この国の平和は保たれ、皆が幸せに暮らせています」
「褒められているのかしら。叱られているのかしら」
「あーくんは、普通の子やったから、普通に祖母の愛情を受けることができた。
盲目的なばーちゃんの愛情ゆうやつです。俺が弥生ちゃんや、なみちゃんから受けているような。
でも龍は…ずば抜けた能力の持ち主だったがゆえに、継承者としての立ち位置がメインになってたんです」
「あーくんと、そこまで差別したつもりはなくてよ」
「それを決めるのは龍です」
「龍がそう言ったのかしら?」
「いいえ。龍はもう割り切っているのでしょう、頭では。
ただ…龍を大切に思っている他の人間たちが、彼の本心を受け取って、少々恨めしく思っているかもしれません。俺とか、紗由とか、奏子ちゃんとか」
「どうやら主要メンバーを敵に回してしまったようね」
「ですから、味方にするために、お認め下さい、西園寺が今なぜこうなっているかを」
華織が、空になったティーカップを見つめていた時、躍太郎が部屋に入って来た。
「華織、素直に認めて、後をお願いしよう」
「躍太郎さん…」
「私たちには、もう、さほど時間がない」
「そうね…」
華織は覚悟を決めたように話し始めた。
「最初に神様がお役目を申し付けたのは保ちゃんだった。
でも、私は母と祖母の仕事の様子を知っていたから、そんな苦しい仕事を保ちゃんにさせたくなかった。
私が代わりますからと何度も神様にお願いしたわ。
そして願いは届けられた。天と契約を結んだの。
西園寺を維持するために、西園寺を危機に陥れ、皆でそれを救う」
華織は席を立つと、壁の棚を開き、龍が彫り込まれた木箱を取り出した。
「この箱は、私の弱さと強さの象徴。そしてあななたちへの愛情の証。
ここに西園寺と清流旅館の未来が詰まっています」
華織は微笑みながら、上を向いた。
翔太は、その頬に伝わる涙を見ながら思った。美しい涙だと。
「これは、やがて紗由がいったん受け取り、実際に開くのは、あなたがたより先の世代になるでしょう。でも、覚えていてほしいの。あーくんだけじゃない。皆のことを愛しているわ」
「わかっています。華織はんの判断は正しかった思います。
保先生はまつりごとを全うされ、この国の幸せに貢献なされています」
「ありがとう…どうか、この先のことを…」
「承知しました。僕が、この先、全部お受けして、全部お守りします。何があろうと」
翔太が華織に頭を下げると、華織と躍太郎は、さらに深く頭を下げた。
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紗由・翔太之巻 その2 終 続いて 青龍之巻3 その1へ




