万物再生の能力⑥ 「ほぼ無能力者vs能力者」
祐雅対爆破能力者の回です。
――爆発が烈火を放散する。
唸る轟音に連鎖して、屋外で伸びていた廊下は破壊された。屋根と壁から崩れた瓦礫が落ちていく。がらがら、と小さな破片を積み上げていった。
「…………ど……こ……?」
すかさず、爆破能力を持った男子生徒の背後で声が返った。
「こっちだ、バーカ」
オレンジ色の球体を引き連れた生徒が振り返る。
「どっかん、どっかん爆破しやがって。そこら辺が滅茶苦茶じゃねーか。後できちんと弁償しとけよ?」
その先には不敵な笑みを携えた古崎祐雅が立っていた。左手には大量の小石や破片を握り締めている。右手は空。全身を生徒の前に晒しながら、仁王立ちで向かい合っていた。
「…………」
追っていた方角とは真逆の場所に現れた祐雅を、生徒が無言で見つめる。爆発を起こす球体だけがゆっくりと周りを飛び交っていた。
「反応薄いな。もしかして精神系に操られてたりする?」
「………………」
「ちょ! 無言で爆弾差し向けるな!」
霧状の膜で出来た球が祐雅の元へと飛んでいく。精神系の下りは適当だったのだが、案外的を射ているのかもしれない。祐雅は相手の表情に注意しながら、大きく横にずれた。
「っと!」
予想で十分な距離を取り、予め持っていた破片を投げる。びゅん、と風を切ってオレンジ色の表面に刺さった。
そして、爆発が起きる。炎と音が勢いよく溢れ出した。
「触れたらアウトか。つか、任意で爆破出来そうだな」
意外と規模は狭いな、と心で付け加える。
祐雅は初めに能力の観察から始めた。本格的な相対はこれが二度目である。前回の経験もあってか、気持ちは大分落ち着いていた。
「……ぁ……!」
男子生徒の瞳が赤く輝く。周辺で球体が補充された。宙を舞っているのは三つ。それが留めておける最大数なのだろう。全てを誘導で爆破させてやれば、相手は無防備となる。祐雅は手の中にある破片を軽く転がした。
確認から攻撃へ。祐雅は一つの小石を右手で投げた。宣言した通り、男子生徒の急所へ直行させていく。
開いた距離を埋める分、投げた小石は浮遊する爆弾よりも遅かった。外側だけの球を模った物体に軌道を遮られる。祐雅と男子生徒の中間で接触し合い、二つは爆散してしまった。
祐雅は舌打ちし、すぐに立ち位置を移す。
(そんぐらいの威力はやっぱあるよな。……視認して能力を使うタイプか。接触してからの爆破より、操作できる爆弾が能力の重点か?)
「おりゃ! おりゃ!」
情報を多く集めようと小石を連続で投擲する。容易に爆破されてしまった。だが、自分の考えが合っていたと確信する。自動とは思えない不定期な動きをしていた。あの爆弾は男子生徒の思考に沿って移動しているのだ。
間髪入れず、また走り出す。先の爆破で大体の規模を予測した。爆弾のそれぞれは大きさが変わっていないので、遠慮なく近づける。
(――ここら辺、だ)
安全な間合いを見極め、祐雅が再び破片を振り投げる。
「…………っ!」
飛んできた欠片に刺され、球体が破裂する。限界まで近寄っても防御された。
「くそ! これでも駄目か!」
煩いを吐き、一気にその場から跳ね飛ぶ。距離を縮めただけ球体の接近も考慮しなければいけなかった。祐雅は男子生徒の周辺を円環状に駆ける。原始的な飛び道具が掌の中で少なくなっていたのを感じた。
――隙を見つけて補充しよう。
次の作戦を決め、祐雅は残っていた残弾を全て放り投げた。
「っ……!」
幾つもの小石が爆破能力者の上空に踊る。放物線を描き、無造作に降り注いでいった。勿論、視線は真上だけに向いている。正に隙が出来た瞬間だった。
「えっと、これと……!」
低く腰を落とし、破片や小石を地面から選んでいく。なるべく角が尖っている物を祐雅は好んだ。警戒心を引き付けたいからだ。
――ばん、ばんっ、ばんっ!
「早えよ、おい」
男子生徒が爆弾を上昇させて、あらゆる破片を粉砕した。一つの範囲が小さくても、最大の三つ同時だったら話は違ってくる。祐雅は武器を拾っていたので攻撃される心配もない。素早い判断だった。相手の冷静さが嫌になって来る。
(…………本当にそうか?)
祐雅は両目を瞬かせた。考えを改めようとした。
(……あいつ、さっきから全く動いてないぞ? 今の小石の雨は避けようと思えば避けられた筈だ。なのに、何で……)
「制限があるって言うのか? いや、それもないな」
能力の使用に関わる制限を踏まえているなら、尚更使用を控える筈だ。祐雅は気味が悪いと思う。祗蓮を襲っている時点で共感は出来ないが、冷静かどうかさえ疑わしくなってきた。
「まさか、本当に操られてんのか……!?」
今更になって笑えない冗談になってきた。頬が引き攣る。祐雅は限界まで抱えた破片を投げながら、必死に脳内の混乱を押し留める。
どのみち、倒す事を祗蓮と約束した。
やるんだ。動かない事を、逆手に取れ。
「……邪、魔……だ」
物切れになった物言いの男子生徒が祐雅を狙う。オレンジ色の爆弾がすぐさま近寄って来た。
「うりゃ!」
逃げずに、祐雅が球体へ小石を投げた。少し離れた正面で小さな爆発が起きる。生暖かい風が頬を撫でた。轟音に耳が痛くなった。でも、無傷だった。
「いけるな、これ」
にやり、と祐雅は笑う。
爆弾による防御を見て思いついたのだ。近くに引き付けて、小石で爆発を誘導する。これで当面の防御は可能となった。手持ちの武器が無くなれば、すぐに不可能になってしまうが。
(まあ、そう長くはかけない)
地面を力強く踏みつけ、前へと身を乗り出す。祐雅は男子生徒の元へ一直線に駆け始めた。
「近くに寄れば、爆弾は使えないはずだ!」
男子生徒は目が紅く薄らと光っている。視界からの情報を基点に能力を発動させている証だ。つまり、近距離での爆破は考えられていない。
裏を返せば、本人の間近では使えない能力なのだ。恐らくダメージが自身にも伝わるのだろう。祐雅はその間合いまで距離を詰めようとしていた。後は肉弾戦。何処か虚ろな顔面に拳を叩きこんでやるつもりだった。
「――んのぉ!」
投石で次々と爆弾を消していく。熱い煙幕が祐雅の目の前に立ち込めた。なるべく腰を低くして掻い潜った。残り、大幅で五歩。
「…………邪、魔だああああ!」
ゆらゆらと漂っていた球体の速度が増した。オレンジ色の爆弾が真っ向から駆け寄って来る。
「一つ」
手首のばねを利用して石を突き上げる。びゅん、と風を切って霧状の表面を貫通した。撃ち抜かれた幕が瞬時にして赤く染まり、爆発を起こす。
(――あっつ!)
熱と光に両目を細めながら、祐雅はもう一段階踏み込んだ。
相手もただでは近づけさせない。周辺で泳がせていた二つの爆弾を同時に動かしていった。祐雅を狙い、飛んで来る。
一つなら大丈夫だと思ったが、二つ一緒だと僅かに命の危険を覚えた。だが、躊躇する暇はない。
「どりゃっ!」
なので、祐雅は再び持っていた小石を全てばらまいた。両手を振り上げ、目前を複数の欠片で塞いでやる。両方とも慎重に狙えないし、時間がない。そこで、自分でも予測出来ない投擲に賭けてみたのだ。
幾つもの小石が静かに落ちていくのを、祐雅ははっきりと目にした。
――ばんっ、ばんっ!
作戦は成功した。二つの爆発が祐雅の前方で起きる。小さな破片が頬を掠った。爆風で飛んできたのだろう。
「二つ三つ…………って、何!?」
もっと相手に接近しようと、祐雅が重心を倒す。だが、思いがけない光景を目撃して声を出してしまった。
棒立ちの男子生徒が、自分の目と鼻の先に爆弾を生み出したのだ。一歩でも動けばオレンジ色の表面に触れてしまう。それ以前に、そこでの爆破は本人が最大のダメージを受ける。一個だけだが、明らかに愚策だった。
(――何考えてんだ、こいつ!?)
祐雅は得体の知れない思考に恐怖を覚えた。操られているとしても、正常な判断が全く下せていない。まるで狂乱している様だった。
「爆破」
止める暇も無く、男子生徒は自分の顔面近くで爆発を命じる。祐雅は上半身を深く倒して衝撃から逃げた。片手を地面に突き、転倒だけは防ぐ。
ぼんっ!
空中の時とは違う、嫌な音がした。
反動によって男子生徒の全身が僅かに遠ざかった。顔の反面から黒い煙が揺らいでいる。火傷を負ったのは間違いない。だが、結果的に祐雅の拳から逃げていた。
「…………っ」
相手の顔に笑みが浮かぶ。軽傷である残りの半面を使い、唇を吊り上げた。瞳の発光が不気味に滲む。しかも、まだ輝いている。能力を解除していない。爆弾を再び精製しようとしているのだ。
あまりの執念に祐雅は寒気を覚えた。自分の危険も把握する。懐の傍まで足を踏み入れていたので、爆発に巻き込まれるのは必須だ。
やばい。
曖昧に悟っては、咄嗟に手が閃く。
「ぐっ……!?」
祐雅の振り上げた掌から細かな屑が振り撒かれた。先程の爆破を避けた時、地面に溜まっていた破片や砂を握り締めたのだ。
男子生徒が瞼を強く閉ざす。視界は防いだ。予想外の幸運が招き入れた好機。ここぞとばかりに奮起し、祐雅は全てをかけた。
「おりゃぁぁぁあああああ!」
素人丸出しの動作で腕を大きく振りかぶり、砂だらけになった拳を打ち出す。
がん!
ついに念願の一撃を当てた。鼻頭に正面から拳骨をぶつけてやった。硬い感触が祐雅の拳に広がる。込めていた腕力が、相手の頭を奥へと飛ばしていった。人の頭は思ったより硬くて重い。男子生徒の顔面は少ししか動かなかったのだ。
殴られた相手が勢いに呑まれて倒れていく。気絶したかどうかは分からない。ただ、確かな手応えを拳で感じていた。そして、確認する気力も残っていなかった。
伸ばし切った腕の先を見つめながら、爆破能力者に勝利した古崎祐雅は心の中で激しく叫ぶ。
(殴っても凄え痛ええええ!)
泣き言だった。
何とか祐雅が勝ちました。股間に石は当てられませんでした。話自体はまだまだ続きます。




