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Mercenaries Garden   作者: ゆーやミント
ガーデン生活 ガーデン兵編
66/87

〜人工物の少女〜

あれから更に一週間も療養生活を強いられた。

今も残る酔った様な不快感に困りながらも、何とか一人でも立って歩けるまでには回復している。


そして更に三日後の現在、俺たち旧104班の一同は、新たに支給された正規兵用の第一種正装でディアナ先輩の葬儀に参列していた。

棺を挟んで、左右に白と黒のガーデン兵数千人が敬礼する姿は圧巻の一言と言えよう。

隊列の中心には、ディアナ先輩が純白の棺の中で一杯の青薔薇と共に葬られている。

没後約二週間が経過しているにも関わらず、冷凍保存された遺体に腐敗は一切無く、ただ静かに眠っているようだった。


「歴代最高にして最年少の守備艦隊長官が逝った。この姫君の死は悲しむべき非常であると同時に、これが我々ガーデンの日常だ。・・・一同敬礼!小銃隊、英霊に礼砲...()てッ!」


小銃から五発の礼砲が上空に放たれると、続いて沖合から戦艦隊の主砲が一斉に空砲を放つ。

轟音とともに振動した空気に数名が眉をひそめたが、それでも凛と敬礼は崩さない。


棺は閉じられると、正面港に停泊した一隻の巡洋艦へと運び込まれた。

しばらくしてラッパの音と共に錨が巻き上げられると、(ふね)は曳舟に引かれてゆっくりと岸壁を離れていく。

転舵した巡洋艦が自力航行を始め、沖合の戦艦隊の側を抜けると同時に汽笛を鳴らす。

再び礼砲と空砲が放たれた後に艦は増速し、吹き上がる排煙のみを残してあっという間に水平線の彼方へと姿を落とした。


「ディアナ艦長の故郷は、あの(ふね)で二日ほどの城塞都市...問題なく航海が進めば明後日の昼までには入港できるでしょう」


先日ディアナ先輩と行動を共にしていた先輩の一人は静かにそう言う。


「あの巡洋艦は、艦長が初めて艦長になった艦なんだ。いつか作戦行動以外で国の連中にこの艦を見せたい見せたいとよく言っておられたが・・・」

「美しい艦でした。先輩にぴったりです」

「・・・君は、コヨミ...だったかな?」

「はい」


しばらく間を空けた後に、彼は剣帯に直接差していた長袋から中身を取り出して見せた。

出てきたのは俺の刀だった。


「シラギ先輩が預かっていると聞いていましたが?」

「討伐隊長に無理を言って預かってきたんだ。一通りは手入れしたつもりだが、もしも不具合があればこちらで費用を出せるよう手筈は打ってある」

「いいえ、お気持ちだけで結構です。それに、刃の状態は後ほど確認しますが拵えにはガタつき一つありません。ありがとうございます」


血で傷んだ柄の拵えは元と同一の素材で作り直され、目釘も新しい物が打ち込まれている。

あまり他人(ひと)に自分の武器を弄られるのは好きではないが、ここまで丁寧に仕上げてもらっては文句も言えない。


「艦長の遺言でね、折れてないからこれで許してくれとさ」

「立派にしてもらってコイツも喜んでいますよ。鞘も新調したかったので助かりました」

「そいつは良かった。じゃあ、僕は失礼するよ。何か困ったことがあったらいつでも艦隊参謀部に来てくれ、多少のご法度なら協力してやるよ新兵(ルーキー)くん」


最後に悪戯っぽい笑みを浮かべた先輩は手を振りながら踵を返して去って行った。


新しい鞘には、剣帯に吊り下げられるように小さな金具が取り付けられていた。それを新しく支給された剣帯にかけてみると、石突きが前面になる、いわゆる軍刀吊りになった。


「慣れるのに少し時間がかかりそうだなぁ」

「む、心配か?」


思わず漏れた呟きにスピエンが眉を上げる。


「いいや、心配って程じゃないよ。ただ抜刀の勝手が変わるから注意しないとなってさ」

「お兄ちゃんは居合が得意だったからねぇ」

「要、練習...私なら....いつでも付き合う...よ」

「あ、じゃあ私も私も!新調したばっかりだから慣れなくって」


芋ずる式にどんどんと話が進んでいく。

葬儀後の暗い雰囲気を吹き飛ばすために空元気を使っているのか知れないけれど、まあ命を預ける武器が、不慣れだったせいで死んでは元も子もない。

訓練そのものには異論は無いのだが...


「しばらくは先だな。俺も本調子じゃないし、そもそも俺は礼服以外の制服はまだ支給されていないからさ」


この葬儀に参列するために礼服だけは急ぎで届いたのだが、申請が遅れた為にその他の制服はまだ届いていなかった。

当分部屋着は私服を引っ張り出さざるを得ない。


ーーーふと、何か神経に障る奇妙で懐かしい感覚が走った。


「そうだ、ちょっと用事があったから皆んなは先に行っててくれ」

「お兄ちゃん、大丈夫なの?まだ本調子じゃないんだから変にウロウロしてると倒れちゃうよ」

「そうだな、じゃあ手早く済ませて来るよ。経過観察は部屋で頼むから」


ポンポンと紗季の頭に手を置いてから背中を押した。


不審がる級友たちを立ち退かせると、ゆっくりと感覚に従って歩みを進めた。

いくつかの角を曲がり、ある一室の前に辿り着く。


「入ってください」


部屋の中から声がする。

どうやらこちらに気づいているようなので、後手に鯉口を切りつつ扉を開いた。

寝具と机程度しか置かれていない、質素な室内には同邦(とうようじん)の少女が椅子に鎮座していた。


「君は...人じゃないね?」


開口一番にそんな言葉が漏れてしまった。

それに、彼女は中身と外見が一致していない。直視すると二つの輪郭が重なったようにボヤけて酔いそうになる。


「初めましてファーザー。ご推察の通り、(わたしたち)は人ではありません」


・・・更にいろいろと突っ込みを入れたい。

何故、一人称が"たち"なのか。

何故、俺が父親(ファーザー)なのか。

と、そこで漸く先日のやり取りを思い出した。

なるほど、この子が俺から作ったという人造人間(ホムンクルス)なのか。

それならいろいろと合点がいく。が、いかんせんこの感覚は不快だ。


「兎も角、お加減は如何ですか?(わたしたち)だけの妖気ではとてもファーザーを満たせたとは思えませんが」

「・・・体調はそこそこかな。激しい戦闘でもなければ生活に支障は無いよ。ありがとう」


しばらく静寂が続いた。

俺は何から話そうかと悩み、彼女は反応を待っているようだった。


なんというか、エレンとは違った意味で自我の薄い娘だ。

エレンが感情を押し込め続けて放出が少なくなった事例だとすれば、彼女は与えられた知識に沿った定型で話している。まるで機械だ。


「そう言えば聞き忘れていたけど、君の名前を教えてくれないか?」

「申し遅れました。(わたしたち)の名前はスズナと申します」

「すずな、か。体に良さそうな名前だね」

「?」


鈴菜(すずな)の知識は無いみたいだ。

良い薬草なんだけどな。


「君の噂は聞いた事があるよ。なんでも、あのシラギ先輩をずぶ濡れにさせたとか」

「はい、トップシークレットに触れた為制裁を行いました」


確かに、ガーデン最強の座から引きずり降ろした事実の衝撃は大きい。

・・・主にガーデンの運営にだけれど。


「ファーザーにはレベル4までのシークレット解禁が許可されていますので、素性まででしたらお答えできます」

「じゃあ、君の身の上話を頼もうかな」

「了解しました。私は対モンスター戦闘用ホムンクルス:試製1型 個体識別名(シリアルナンバー)スズナです。水上 暦に体細胞から精製された精子とエルメス=サンドリヨンの卵子を掛け合わせて製造されました」


話を聞けば聞くほど、この娘は兵器として以外の知識をそれほど与えられていないのだなと推察される。

よくもまあ、ここまで人道から外れた行為ができたものだと、怒りを超えて笑いが出る。


「君は...再生能力はどれだけあるんだい?」

「頭部と心臓の全損以外は即時再生が可能です。ただし、ファーザーの回復に持ち前の妖気をほぼ使い切ってしまいましたので、この個体は通常の人間程度の回復力しか保持していません」

「妖気の回復はできないのかい?」

「はい、ガーデンにとって妖気とは未知数のエネルギーです。それの無限生産は現状不可能となっています」


それはそうだろう。

人類が輸血に使えるまで完璧な人工血液が作れない様に、妖気もまた人工的には作れないはずだ。

何故なら、どちらも糧を得ることで体内で自然精製されるものであって、電力とはワケが違うのだ。


仮に、そんなものを実現させる方法があるとすれば、それは彼女(スズナ)が俺に対してやって見せた様に個体から個体への妖気の譲渡のみ。

彼女(スズナ)たちを大量に生み出して、その大半が保有する妖気を残った個体に余さず譲渡するという共食いに近い惨状を生み出す他ない。


「如何しましたか?」

「え?」


知らず知らずの内に歯を食いしばっていたようだった。

何でもないよと誤魔化して、話の続きをさせる。


「レベルは400で、筋力はおおよそ200馬力。ただし、耐久性は回復力依存ですので(ヒットポイント)そのものはレベル相応です」

「変身は?」

(わたしたち)はファーザーの様には変身できません。理由はまだ判明していません」

「君たちは何人作られるんだい?」


ツラツラと出されてきた回答が、この問いかけではピタリと止まった。


権限超越(レベルオーバー)です。その質問はこの個体以上の問いとなるため答えられません」

「そうか、じゃあ仕方ない。・・・最後に、君に...スズナに感情はあるのかい?」


今度もすぐには返事が来ない。

だが、今回は拒絶というより熟考といった間の空き方だ。


「・・・自我はあります」


しばらくして、彼女はそう答えた。


「わかった。ありがとう」


礼を言って立ち上がる。


今現在に感情が薄くとも、自我があるならばいずれ心は生まれるのだ。

彼女が心を手に入れたらどんなことを言うだろうか?


生命への歓喜か。

或いは絶望か。


人類との親睦か。

或いは敵対か。


何もわからないが、それでも機械人形よりはマシだ。


「もう行かれるのですか、ファーザー」

「ああ、あんまり道草を食っていると紗季に小突かれるしね」

「ミス サキ。先日お会いしました。強い少女です」

「ははっ、君にまで言われるようならうちの妹はガーデン最高峰だ。じゃあ、またいつか」

「さようならファーザー」


扉が閉まりきるまで、彼女はずっと頭を下げて礼をしていた。


「・・・明日も空いてるし、シラギ先輩の所に行く帰りにでも寄ってあげるか」


彼女がどう芽吹くのか、不思議それが自分の事のように楽しく思えた。

----------------------M.G.メモ----------------------


【ガーデン正規兵服(ガーデン兵服)】


正規兵服は

・第1種正装

・第2種正装

・簡易正装

の3つの正装と、

・重戦闘服(防寒防暑の2種類)

・軽戦闘服(同上)

・海上戦闘服

の5つの戦闘服が存在する。


訓練生時代との相違点は、正装と重戦闘服の追加と戦闘服への紋章刻印の有無。


[第1種正装]

通常は黒のロングコートに銀細工の装飾が施された礼装。

隊長格か否かの見分け方は剣帯が肩掛け式かベルト式かで区別できる。

[第2種正装]

基本的な仕様は第1種と同じだが、装甲に見立てたプレートが貼られるなど、やや装飾が鎧に近くなる。

[簡易正装]

やはり仕様は第1種と似ているが、装飾が右胸に施されたガーデンの紋章のみとなる。


* 正装の下には軽戦闘服を着用


[重戦闘服]

鉄とクロムを主材とする合金製の重装鎧一式。

防御力が高く、低レベルのモンスターの牙や爪にも耐えられる。しかも軽くて錆びにくい。

主に大規模作戦時の電撃戦で中核を担う屈強な大剣使いが愛用する。

既に完成された形であるため、装甲の追加といった軽戦闘服のようなカスタムはできない。

防寒仕様は電熱服を内蔵するが、漏電事故が多発。

[軽戦闘服]

訓練生時代と同じくガーデンコートと呼ばれる代表的なジャケットで愛用者が最も多い。相違点は紋章の有無。

肩部に軽装甲があるのみで、自分好みにカスタムし易いが、防御力は高くない。

防寒仕様はコートの丈が長くなり、前をボタンで留められる他にズボンが厚布製になりマフラーも付いてくる。

[海上戦闘服]

輸送船への乗艦、艦上で戦闘を行う際に着用される戦闘服。

装甲の類は省略されているが、代わりに海へ落ちた時の対策でライフジャケットとなる。

デザインが悪いと陰口を叩かれるが、なんだかんだでみんな着る。

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