〜突っきれ!〜
〜Said of Koyomi〜
「お兄ちゃん、起きて」
「ああ...」
紗季に揺すられて妙に気だるい体を起こした。
「何かあった?」
「私たちを襲ったガーデン生が起きたよ」
「そうか、真面に話せるようなら何があったか聞いてみる必要があるな」
紗季に手を引かれて立ち上がると部屋から出てすぐの階段を上がる。
崩れた壁から外を覗いてみると夜は明けて水平線から朝日が顔を出していた。
ふと気になって端末を見てみたが撤退命令はまだ出ていない。
俺たちの入団試験は特別編成隊が生存者を救出するののついでであり、不確定な時間を生き残れというものでしかないので収容完了まで何の音沙汰も無いとなると流石に不安になる。
勿論何らかの対策は施してあるのだろうが万が一に救出部隊が全滅しても連絡が無ければ、それこそ俺たちは最後の一人になるまで此処で戦い続けるしかない。
そう思うと気が重い、終わりの見えない戦いは嫌になる。
余計な事を考えている内に二階の一室の前に着いていた。
「この部屋の中に居るよ。今はディアナさんが話てるところ」
「わかった。紗季はここで待っててくれ」
「ん」
頷く紗季の頭をポンポンと二~三度撫でると扉を開けた。
中に窓は無く、支給品のランプが一つぼんやりと灯っている。
例のガーデン生は手を椅子の後ろで縛られていて、ディアナ先輩は椅子の上で足を組み彼の正面に座っていた。
「おやミズカミ君、目が覚めたようだね」
「はい、充分に休ませてもらいました。それで彼の様子は...?」
「一通りは聞き出した。まあ新兵に有り勝ちな内容だよ」
俺は目の前でぐったりと項垂れている青年に視線を向けながら尋ねると、先輩は哀れむような目をしながらそう言った。
「名前はエドワード・オディナで第35班所属のガンナーだ。上陸してすぐにグールの群れに襲われて班員と逸れて街を1人で彷徨っているうちに最悪のケースで再開したらしい」
「最悪の?」
「ああ、グール化した班員とだよ」
何となく想像はついたが聞き返してみると先輩は暗い顔で答えた。
「グール化の恐ろしい所は、グールになってから時間が短いと肉体の壊死が少ないせいで見た目が普通な事と多少の会話ができてしまう事だ。気がつかずに近づけばあっという間に奴らの餌になる。...もうオチはわかっているだろう?」
先輩はサーベルの柄を弄りながら流し目で言う。
「仲間と思って近寄ったら襲われて殺されかけ、気が動転して人間不信に陥った...と」
「まあそんな事さ。私に話したら少し落ち着いたらしい、今は放心状態のままそっとしといてやるのが一番だろう。さて、次は我々の話題だ。全員に言った方がいいし場所を変えよう」
先輩は跳ねるように椅子から飛び降りるとスタスタ部屋を出て行ってしまった。
俺は一度ガーデン生もといエドワードの方を見てみたが、虚ろな目をしていて真面な会話は望めなさそうだったので直ぐに後に続いた。
部屋を出てすぐの広間のような場所に一同は集まっていて、中央のボロボロな机の上には数種類の銃火器及びそれらの弾薬が所狭しと並べられていた。
「さて、ミズカミ君も来た事だし話を始めよう。第一に私の小隊の残存戦力だが、昨夜の防衛戦が思った以上に激戦となったために我々が持ち得る武器の残弾数が大分乏しくなってしまった。計算上ではもう一度昨夜の様な戦闘を行えば開始10数分でグールに有効な弾薬は底を尽きてしまう。私は見ての通りサーベルがあるからいいが、他は豆鉄砲の様なハンドガンや至近距離でのみ効果のあるショットガンが手持ちで有るのみになる。となると如何しても剣が主体の私や君たち訓練生が前線に立つより他にないんだが...はっきり言おう。グールの群れに剣で挑むのは超怖いぞ」
先輩は砕けた言い方をしたが、実際に大量のグールに追い回された記憶のある俺たちには腹に堪えるものがある。
そんな中でスピエンが静かに手を挙げた。
「ディアナ殿、幾つか質問をしても構いませんか?」
「うむ、何だ?」
「まずはそのショットガンという銃です。それも至近距離で効果があるというならば我らと同じ様に前線に出ることもできるのでは?」
「この銃は第一に装弾数が7発と少ないんだ。更には一度弾切れを起こすとリロード...弾の再装填に時間がかかるんだ。極め付けは1発1発がかさばるから携行できる弾の数が少ないんだ」
「そうですか、では次ですが...その腰に付けた丸い鉄球は一体?」
「これか?」
スピエンの指差す先にはディアナ先輩の裾の長いガーデンコートからチラチラと顔を覗かせている黒い鉄球が二つあった。
先輩はその内の一つをベルトから外して机の上に置くと、大きさの割に重たい音がした。
「これは手榴弾、このピンを抜いて投げると数秒後に爆発する手投げ爆弾さ」
「それはグールに有効なんですか?」
「口の中に突っ込めば1発で殺れるだろうな」
ウィリアムがそう問いかけると先輩は不敵な笑みを浮かべてそう答える。
「えっと...じゃあ何でハンドガンや手榴弾なんてグールに対して効き目の薄い武器を持ってるんですか?」
「・・・グールには効かないが、どちらも人間ならば瞬時に命を奪う力がある」
「えっ、それってどういう...」
「何、使う機会が無いに越したことは無いよ」
アイシャの質問を上手くはぐらかすと先輩は話を元に戻した。
「さてと、随分と話がずれたがさっき言ったようにこのままでは籠城するにも外へ飛び出すにも不安だらけだ。これだから補給の無い戦闘で銃器を使うのは嫌いなんだが上からの命令でな。こいつを1本持ってくるのがやっとだった」
そう言って先輩は丁寧に磨き込まれたサーベルをキラリと光らせた。
「さてミズカミ君らや、君たちは昨日どんな算段で街中を駆け回っていたんだい?」
「基本的な考えは先輩方と同じだったと思います。俺と紗季が班の目にエレンが耳になって警戒しながら安全地帯を探して乗り切るつもりでした」
「成る程な、経験不足の彼らを守りながらの行動ならばそれが...おっと、客が来たみたいだね。しかも団体様で」
突如下の石扉からカリカリと引っ掻き回される不気味な音が塔中に響き渡る。
「くそっグールか!」
スピエンは悪態を吐くと自慢の両手剣を抜き放って一階へと駆け下りていこうとするが、眼鏡をかけた背の高い男の先輩に襟首を掴まれて引き止められた。
「駄目だぞ君、焦っても良いことなど一つもない。まあ、死にたいならば好きにして構わないが」
「ライトか、見張りはどうした?」
「ノエルに代わってもらいましたよ。一晩中監視させられるとは、ディアナ艦長は本当に人使いが荒い」
ディアナ先輩に鋭く指摘されたライト先輩は肩を回しながら疲れた様子で答えた。
「乾燥タイプのレーションを根こそぎ持っていった罰だ。それくらい当然だろう」
「ですが、お陰で彼らの発光信号を見つけられましたよ。...それとあの粘土を食料と認める事だけは断じてできない」
「そうか、好きにしろ。...そうだ紹介が遅れたな、彼はライト・セミャルック艦艇勤務時代からの同期で私と一緒に陸戦隊に左遷された1人だ」
ライト先輩はディアナ先輩によって紹介されると敬礼をする。
「以後お見知り置きを...さて、一階の扉は石で出来ているとはいえ上からの見た所数は凡そ60匹程度。扉そのものよりも砲撃で崩落仕掛けたこの塔自体の強度が心配だ」
「それくらいなら何とか乗り切れそうだな。勿論、全員無傷でとはいかないだろうが」
「そうなるとやはり外道な手段で突破するようだな。君たちに妙案は無いか?」
ライト先輩に話を振られた俺たちはお互いに顔を見合わせ、自然に俺に視線が集まってくる。
「だろうな」
ディアナ先輩も半笑いしながら同じ事を考えていたようだ。
「いやはや私達は運が良い。何と言ってもミズカミ君というチートがいるんだからな」
「俺を万能兵器みたいな扱いにしないで下さいよ」
「良いじゃないか、それだけ頼れる存在だということだ。一丁よろしくお願いしますよセンセイ」
悪戯っぽい笑みを浮かべたディアナ先輩に背中を押されるとどういう訳か皮肉には聞こえない。
とは言え、変化は精神と肉体に掛かる負担が大きいので連続して使いたくはないというのが本音のところだ。
しかし多くの人から期待の目を向けられると嫌だとは言えない。
ため息混じりに目を閉じると、そのまま波一つ無い静かな水面を心に描く。
心を殺して殺して、完全な無に達したと思った瞬間にそっと目を開けてみると肩にかかる黄金色の長い髪が目に入った。
鋭敏に研ぎ澄まされた神経には気配の無いグールでさえどこにいるかが感じ取れる。
そっと刀を抜くと日の光を浴びて眩しいくらいに輝く刀身を天に掲げた。
「行くぞ、続け!」
俺は一番近くにあった隙間から外に躍り出ると即座に足元で蠢く邪魔なグールを薙ぎはらう。
遅れて石扉から出てきた一同を後ろに従えると怒涛の羊の様に駆け出した。




