〜嵐の前の静けさ〜
〜Side of Koyomi〜
ガーデン訓練生たちが聖夜祭の熱を一夜にして冷めさせられた朝から五日が経ち、午前中の座学講義を聴き終えた俺たちが練兵場へ移ろうかという時に端末が一斉に鳴り出したのだ。
内容を要約すると午後の戦闘訓練を中止して南海岸工廠区に集合せよというものである。
おそらくは先日クレタ教官が言っていた強襲上陸艇の公開がおこなわれるのだろう。
歩いて三十分強の工廠区についてみれば、やはり予想した通りで一隻の小型艦艇が停泊していた。
それはミーラスブリザで乗った様な戦艦などとは違い大砲や巨大構造物の類は一切無く、小さな羅針艦橋と単装機銃が一門備えられただけの寂しいものである。又全幅も狭く艦首は細く刃のようで、小太刀を不恰好に大型化した様な形の船体であった。
水上艇の前に立って腕組みしていたエルメス先輩は全員集合の報告を受けると相変わらずの様子で元気よく話し始めた。
「初めましての人もそうじゃない人も集まってくれてありがとう。私は技術開発班のトップを勤めてるエルメス・サンドリヨン、地位的には団長だけど気にしないでいいから。じゃあ強襲上陸艇の説明を始めるね。あ、排水量とかの項目については後ほど全員のM.Mに送信しておくから気が向いたら見てね。さて解説しよう、近々諸君らが乗り込んでもらうのがこの強襲上陸艇という高速水上艇だ。こいつは見ての通り船体が非常に細いから高速で航行ができ、艦首の乾舷及び喫水線下に特別分厚い装甲板を取り付けてあるから、用途としてはこれで湾口付近の防波堤を強行突破して海岸に乗り上げて上陸するといった流れになる。ただし、こいつには不安要素が幾つかあるんだ。まずは船体強度、幾ら専用に建造されたとはいえ艦艇としては異常な使い方をするから正面装甲に亀裂が生じて浸水する可能性が無いとは言えないんだ。次に撤退時の逆噴射だ。上陸時には艦を海岸に乗り上げさせるんだけど、その際に深く突っ込み過ぎるとスクリューと圧搾空気の発射管が海面から出てしまう恐れがあるから、万が一に操縦士が失敗したらその艦は圧搾空気と人力で発進してもらうようになる。最後は武装の弱さだ。甲板に7.7ミリ単装機銃が一基付いているだけになる。護衛船団が付くからこの艦で洋上戦闘をすることは無いだろうけど、君たちが上陸したり艦内に収容している時の防御用としては心許ない火力だ。攻撃力には期待しないでほしい。私からは以上、質問は?....無いね」
長々とした説明を終えたエルメス先輩は一同をぐるりと見回して、一つも手が上がっていないことを確認すると白衣を翻して去って行った。
「出撃は明後日◯八◯◯、どの班どの強襲上陸艇は今晩中にそれぞれのM.Mに送っておく。また、解散後と明日1日は特別休暇を全員に与える...各自十分に休養摂って戦いに備えてくれ。では解散!」
クレタ教官はさっきまでエルメス先輩がいた場所に立つとそう告げると隊列を組んでいた俺たちはばらばらに散って行った。
俺は紗季と一緒にしばらくその場に残っていたが、やがて班員に武具を新調しようといった内容のものを端末で送るとウィリアムとアイシャが了承の返信を返してきた。
「紗季、明日の昼に班の人たちと装備の、特に防具の新調をしに行くけど付いてくるかい?」
「もっちろん」
念の為に紗季にも話を振ってみるとさも当然といった様子で頷いた。
港には穏やかな潮風が吹きていて、優しく肌を撫で回す様は何処となく嵐の前の静けさを連想させるものがあった。
・強襲上陸艇主項目
全長:30m
全幅:9m
乗員:輸送員6名、操縦士1名、機関士3名
武装:⒎7㎜単装機銃座一基
装甲:艦首50cm、舷側10cm
機関:ディーゼル
排水量:(満載状態)360t




