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Mercenaries Garden   作者: ゆーやミント
ガーデン生活 初年度生編
51/87

〜聖夜祭・準備編〜

〜Said of Koyomi〜


マーセナリーズ ガーデンのあるウエストエンド地方もとい、この西の大陸“ルティシア”には冬の終盤に聖夜祭と呼ばれる大きな祭事が執り行われる。

詳しい起源までは知らないが、遥か昔に産まれた偉大なる聖人の誕生日を祝っていたものが時を経て変化して今の形になったのだという話はエレンから聞いていた。


大陸中の殆ど全ての国々がその日を万民の休日としているらしく、商人たちも(あきな)いは早くに切り上げて家族と共に夜を過ごすのだそうだ。


国ではないがガーデンもその例から漏れておらず、その役割上年間を通して全体的な休日というものが存在しないのだが、聖夜祭当日だけはほぼ全ての機関が活動を停止するそうだ。(勿論急な要請があった場合でも直ぐに出動できるように年交代で何処かの兵団の三個大隊が待機させられるらしいが)


大きな祭事を行うのであるから当然ガーデンで生活している者全員が一丸となって準備に取り掛かっており、俺たち訓練兵団も準備の下働きに追われていた。


「アイシャ、ここの角材を押さえてるからこの金具を鋲打してくれないか?」

「わかった、ちょっと待っててね」


アイシャは返事をしてから工具類を抱えて走ってくると、俺が支えている二本の太い角材に金具を添えて鋲打する。

鋭い音を立てて鋲が打ち込まれ、太い角材がしっかりと固定されると舞い上がった木屑を払いながら袖で汗を拭く。


「助かったよ。流石に手の数が足りなくってさ。まあ、まだやる事は沢山残っていることだしサッサと元の作業に戻るか。ありがとうな」

「・・・ねえコヨミ、最近は特にだけど頑張り過ぎじゃない?厄介っていう訳じゃ無いんだけど何て言うか...先月以来何となく無理してる気がするの」

「そう...かな?」


アイシャの指摘に首を傾げると彼女は黙って頷く。


確かにここ最近は訓練にせよ何気ない雑用にせよ、班員と関わる時は積極的に活動をして関係回復に努めていた節はあった。

だが、それらは全て当たり障りのない程度での頑張り具合であって、決して鼻に付くような程では無かった筈だ。


「やっぱり...気にしてるよね。あの時貴方に臆す様な態度を取った事は私も悪かったって思ってるの。口にしてなくても多分ウィリアムやスピエンも同じ筈...」

「いや、あれは隠していた俺が...」

「それは不自然じゃないわ。私だってコヨミと同じ立場だったら隠そうとしたと思うの。悪いのは私たち、人じゃないってだけで拒絶して...あの時コヨミが動かなければエレンの命は無かったのにそれを棚に上げにした。寧ろ謝るのはこっちの筈だったのに...」


アイシャの言葉は欠けた俺の心を直すかの様に染み込んできた。


「・・・ありがとう、アイシャ」

「え?」


俺が感謝の言葉を告げると、彼女はどうしてそんな事を言われたのかわからないといった顔をした。


「俺はずっと罪悪感でいっぱいだったんだ。仲間に隠し事をしていた事がどこか裏切りの様なものに感じていた。だから秘密がバレて皆んなに避けられても当然の報いだと思い込もうとしたのに.....実際は寂しかった。だからさ、今のアイシャの言葉を聞いて少し救われた気になったんだよ。だからそのお礼、ありがとう」

「ふぇ!?あや...その、えーっと...ごほん」


アイシャの目を見ながらもう一度お礼を言うと、彼女は奇声を上げてから咳払いをすると、爪先立ちになって俺の頭を撫でた。


「なな、なんかごめんね。私が変なこと言ったせいで気まずくしちゃって!そ、それにコヨミって意外と寂しがり屋なのね!えーっと、うん!兎に角私はもう全然コヨミを怖れてないから貴方も私を頼ってね、じゃ!」


早口で吃りながらそう言うと彼女はさっさと何処かへ走り去ってしまった。


「・・・ありがとう」


俺はアイシャが居なくなった方を見ながらもう一度お礼を言ってから元の作業に取り組もうと後ろを振り返るとそこにはいつの間に近づいたのか、微笑を浮かべた現場監督の一人である高等兵団の先輩が腰に手を当てて立っていた。


「せ、先輩」

「女の子との関係は大切よね〜男と違って繊細なんだから労わってあげないとダメよ。でもね、この忙しい時にのんびり話してるのはどうかと思うわ〜」


ほがらかな口調で喋りながら射殺すような彼女の視線が俺の体を本能的に強張らせる。


「そこが終わったら班員を連れて学生区の第五大広場に行ってちょうだいね〜」

「はい」


俺の二つ返事を聞くと先輩はクスクス笑いながら去っていくのであった。




「第100班から110班は協力して大至急に必要木材を技術開発班工廠の木工場から受け取ってこい!」

『了解!!』


第五大広場の現場指揮官の先輩が羊皮紙を片手に俺たちへ指示を飛ばすと、各自威勢の良い声で返事をしてから駆け足で指示された場所へと向かう。


「はぁ...あそこにはまだ相当の木材が積み重なってるって言うのに更に必要だなんて...一体何を作ってるんだろうね」


額に薄っすらと脂汗を浮かべたウィリアムが溜息混じりにそう呟く。


「確かに...鋼材や木材それに電飾やらを含めたらこの2日間で相当運んだものね。あれだけの資材があったら地元では大型の輸送船が一隻は作れるよ〜」


と、すぐ横に居たアイシャも呆れ気味の表情で頷いている。


確かに、何を作っているのかはわからないがあれだけの資材を注ぎ込んでいるともなれば場所が海岸から離れている大広場でさえなければ船の一艘(いっそう)や二艘を建造すると言われても不思議ではない。


ましてや、クラーケン戦の時に損傷を受けた艦艇の修理や沈没した分の艦の再建などでガーデンの金属資源の保管庫は底を尽きかけており、製鋼部の人たちが泣きをみていると言う話をエルメス先輩が何気無く呟いていた事もあるのだ。

(お陰で取引先の港から物資が届くまでの数ヶ月間弾薬類の供給が止まってしまい、銃士(ガンナー)たちを大いに困らせていたものだった)


「兎に角、下っ端の俺たちは今の所は上の命令に従うしかないさ。ほら、もう着くぞ」

「「は〜い」」


俺がそう言うと二人はげんなりとした様子で返事をして木工場へ足を踏み入れる。


「お、貴様らが訓練兵団の100〜110班だな。指示された通りに木材1トンが仕上がってるぞ」


(かんな)で材木を削る音や電動の(ノコギリ)が木を切断する音が入り混じる木工場で待っていたものは更に大量の木材であった。


『・・・』


木工場と指示された時点で嫌な予感はしていたが、揃いも揃って「まだ要るのかよ」といった顔をしている。


「ん?どうした、急いで運ばないのか?」


受け渡してくれたツナギ姿の団員が首を傾げながら言うと、全員がハッと我に返り分担して荷物を運び始めた。


合計1トンあるとは言え一つ一つ自体はそれ程の重量でもない上、五人一班が十組居るので一人当たり二十キロ相当を持てばいいのだ。


他の班の事ではあるが、先日鋼材二千トンを百人足らずで三キロ先の正面港まで運べと告げられたという話よりは遥かに楽だった。


「よいしょっと!」


適当な角材三本を担いでからもう一つ二つ板切を積み重ね、山の様に盛り上がった木材を慎重に運び出す。


前方の視界はほぼゼロであり、仮に誰かが前に飛び出して来でもすれば悲惨な光景が展開される事間違い無いだろう。

もっとも、これだけの木材を抱えた集団がぞろぞろと列になって進んでいれば通行の邪魔になる事は明らかであり、不用意に飛び出してくる輩も居ないだろうと思われた。


そう思いながらも一応と警戒していた甲斐があり、工廠区から運搬先である第五大広場のある学生区との境目にて同じ様に大荷物を抱えて走って来た人物と衝突しそうになるも無事回避できた。


「うおっと!悪いナ」


相手は若干よろめいた人影は、やや訛りのあるウエストエンド語で謝罪して通り過ぎようとしたが、何か気にかかったのか足を止めて振り返った。


勿論俺も何処かで聞き覚えのある声に列を離れてから目を向けており、両者の目が合うと「あっ」と声を上げた。


「お久しぶりですね、轟先輩」


声の主は予想した通りで、ミーラスブリザではお世話になった同郷の先人の轟先輩である。

ところが如何したのか、先輩は手に持っていた荷物を地面に下ろすと無言でこちらに近づいて来た。

更によくよく見れば、そのこめかみには薄っすらと青筋が立っている。


「えっと、どう...したんですか?」

「はははっ嫌ぁ別にどうしたって程じゃぁ無いんだがな」


纏っている禍々しい空気とは裏腹に、にこやかな笑顔を浮かべて近寄ってきた。


「取り敢えず暦、荷物置けや」

「は、はい」


返事をして木材をゆっくりと下ろしてから再び顔を上げると、そこには眼前まで迫っている握り拳があった。


「うわっ!」


反射的に迫り来る鉄拳を避けて半歩下がった俺に先輩が変わらぬ笑顔のままこちらを向く。

突然の暴行に驚きはしたが、先輩の気配からしてどうもこちらに非があるようなので思い当たる節を探しているうちに向こうから話し始めてくれた。


「お前、随分と派手なガーデンデビューをしてくれたそうだな」

「あ、いや、あれは...その....」


合致のいった俺は思わず言葉を詰まらせて目を逸らす。


「お前...俺が列車騒動を揉み消すのにどれだけ苦労したかわかってるのか?」

「す、すみませんでした」


医務室で聞かされた先輩の愚痴が蘇り、今更ながら非常に申し訳ない気持ちで一杯になる。

しかし先輩は表情を変えずに更に続ける。


「ところで聞くところによればあの後港町のど真ん中でガーデンの華であるシラギ討伐部隊長様と決闘(デュエル)したそうじゃないか。ご丁寧に耳と尻尾まで生やしてな」

「あれはちょっとした不始末が原因で向こうから喧嘩を売られまして...当時はシラギ先輩がここまでの高官だとは知りませんでしたし...」


苦し紛れの弁解も役に立たず、急に真顔になった先輩は冷たく一言告げる。


「で、どう落とし前つけるつもりだ?」


威圧感を孕ませた言葉に、思わず身がグッと硬くなるのを俺は感じる。

とは言え元々は身から出た錆なのだ。

一呼吸置いて焦っていた気持ちを落ち着けると、腹を据えて先輩と向き合った。


「大変御迷惑をお掛けしました。覚悟はできています」


真剣な顔で先輩と向き合いジッと目を見つめていると、やがて先輩は溜息を吐いてから指を鳴らした。


「いい覚悟だが許さん。その綺麗な顔に青痣の一つでも付けてやらんと気が収まりそうになくってな...歯ぁ食い縛れ!」


先輩が腕を僅かに持ち上げたかと思うと、鮮やかな動きで強力な威力を纏った拳が眼前に迫った。

躱そうと思えば簡単にできたが、今度は直立不動のまま拳が命中するのを眺める。

鈍い音を立てた鉄拳は俺の体を地面から浮かび上がらせると、そのまま軽く二メートルは殴り飛ばされた。


「ぐぁ...」


思わず呻き声が漏れてしまったものの、殴られた場所を押さえて直ぐに起き上がった。


「流石にタフだな。ったく、そのヒョロッこい身体の何処にそのスタミナがあるんだか」


拳を擦りながらそう呟く先輩の顔には未だに不満は残っているものの、これ以上殴ってくる様子は無かった。


「これでチャラにしてやるよ。だが、次に何か不始末を起こしたら撃つからな」

「すみません、既に班員にはバレました」


黙っておけば良かったものを、反射的に白状してしまうと同時にチャキンッという重量感のある音と共に大口径の回転弾倉銃(リボルバー)の銃口が俺の眉間に向けられる。


「なあ暦、お前ってもしかして自殺願望とかあるのか?」

「少なくとも妹が生きている内に死ぬ気はありません」

「えらい真っ直ぐな目で言うな」


先輩は呆れたといった表情で頭を抱えてから地面に置いておいた荷物を担ぎ上げた。


「さてと、そろそろ行かないとお前も監督に怒られるだろ。今日はこれで終いにしとこうぜ」

「はい、それではまた後日」


俺は一礼してから木材を担ぎ直すと小走り気味に歩みを進めた。


「おーい暦!」


少ししてから後ろで轟先輩が俺を呼ぶ。


「今更だけどその丁寧な喋り方気持ち悪いぞー!次に俺と話す時は普通に話せよなー!!」

「りょーかい」


ミーラスブリザで最後に話した時のように少し生意気に返すと、轟先輩はニヤリと笑ってから走っていった。


因みにこの後、一人だけ遅れて来た俺が監督に物凄い勢いで叱られたのはまた別の話である。

−−−−−−−−−−−−M.Gメモ−−−−−−−−−−−−



聖夜祭


西の大陸で行われる、伝説の聖人の誕生日を祝ったものが数千年の時の中で変容を遂げた聖誕祭。

各地で催される祭事であるが、中でもセントウエスティアにある聖都・ランファエロで行われるものが最も盛大であり、また最も原型に近いと言われている。

昼間はお祭りさわぎをして夜は家族で食卓を囲み、ゆっくりとご馳走を食べるのが風習である。

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