〜実戦試験・前〜
暦たちがガーデンに入学して半年の月日が流れた。
そして今日は長き対人模擬戦と座学の日々を乗り越えて、遂に対モンスター戦闘の試験が執り行われたのだ。
「それでは各班集結っ!」
クレタの鋭い声が西部地区・練兵エリアの訓練場待機室に響き渡ると、素早い動作で全班が綺麗に集結をする。
彼はそれを一瞥して確認すると指揮棒を片手に再び口を開いた。
「これよりこの訓練所で対モンスター戦闘の試験を開始する。予め忠告しておくが、本試験は非常に危険なものである。我々教官側も精一杯のケアはするつもりだがそれでも怪我人や死人が出ることは避けられないだろう」
クレタの言葉に全員の背筋がキュッと強張ったのが見て取れた。
中には小刻みに震える者も居た。
クレタはそういった生徒たちを見ても何も口出しはせずに次の言葉を発する。
「本試験に参加するか否かを今この瞬間諸君らに決めてもらう。誰とて自分の命は惜しい、故に棄権するのも選択肢の一つだ。だがしかし、ここで臆した者は以後二度とモンスターと戦う覚悟は得られないだろう。たった今引き下がった一歩は、勇気を持って進んだ者から何百歩も離れることになるのだ。その事を各々胸に秘めて決めよ...では10分間の時間を与える」
クレタが手を叩いて合図すると、あっという間に待機室の中はヒソヒソ声に包まれる。
それは暦の居る104班も同じだった。
「遂に...だね。覚悟はしてたけど、やっぱり緊張するね」
「あはは...いざとなると足が竦むよね...」
ウィリアムはいつものような笑みは浮かべずに真剣な面持ちで呟き、アイシャも苦笑いしながら微かに声を震わせた。
「仲良くなった先輩に聞いたことがあるんだけど、去年のこの試験では200組中3組が全滅して80組以上に負傷者が出たらしいんだ。教官たちはサポートをしてくれるって言ってるけど、やっぱり限界はあるみたいだよ」
ウィリアムの縁起でもない情報にアイシャの顔が僅かに白くなる。
「そっかー...私ら生きて合格できるかなぁ...」
彼女は泣き言を言いながら両手で顔を覆った。
「貴様等、貴族の家柄ならば剣を取り、モンスターと対峙する事に臆するな!」
先ほどからイライラとしている様子だったスピエンは突然二人の肩を掴むと檄を飛ばす。
最後に班員全員での訓練を受けた二週間前まではあれこれと小言や不満ばかりを零していた彼とは思えない発言に二人共顔を上げた。
「我ら貴族が剣を持つのは何故か?それは民を凶悪なモンスターから守る為であろう!あの二人を見てみろ」
そう言って彼は暦とエレンの方へと顔を向けた。
「あの二人の様に堂々とする事が必要だ!貴様等は貴族の誇りを失ったのか!!」
「ちょ、ちょっと待って。あなた本当にスピエン?二週間前とはまるで別人じゃない⁉︎」
「そうだな...僕は目が覚めたんだよ。この二人のお陰でな!!」
一瞬スピエンが不敵に笑ったかと思うと目を輝かせながら再び暦とエレンの方を向いた。
信じられないと言った顔をしたアイシャとウィリアムの視線も二人に集まる。
エレンは無表情に、暦は気不味そうに笑っていた。
「そう、あれは5日前に僕が剣術の稽古を同郷の者としていた時だった。僕の愚かな慢心と偏見によって生まれたコヨミに対する鬱憤をその者で晴らしていた時に二人が偶々通りかかり、そしてコヨミがその憂さ晴らしに横槍を入れたのさ。当然その時の僕はそれを快く思わなかったがエレンと共に叱咤されて目が覚めたんだ!本当に僕ら貴族が守るべきものは名誉や富ではなく平民たちであるとね。そうだろうコヨミ」
「そ、そうだな...」
スピエンの変異には引き金である暦も引き気味なのか苦笑いが隠れきれていない。
「これで...平和....試験に...集中..できる」
エレンは無表情なのだが何処か得意げに呟く。
「貴方たち...何したのよ」
「いや、ちょっと叱っただけだったんだけど...」
「あれは...狩る者の....目だった...」
アイシャの言葉に、こんな筈じゃなかったと頬を掻く暦だがその脇ではエレンがやはり何処か誇らしげに語る。
「まあ...うるさいのに変わりは無いけど方向性が違う分マシね」
呆れるアイシャだったが、その奥でウィリアムがクスリと笑った。
「何だか、肩の力が抜けていつも通りになったね」
「あっそう言えばそうね」
スピエンの熱弁によって班の緊張感が解れていつの間にか自然体に戻っていたのだ。
「気付いちゃうとやっぱり少し緊張するけど、さっきみたいにガチガチにはならないね」
「そうね。あははっスピエンのお陰...なのかな?」
「何を言っている。元をたどればコヨミとエレンのお陰だ」
「俺はただ班が纏まるなって思っての事だったからさ、そんな風に言われると恥ずかしい」
「照れ...てる」
エレンがそう言うと班員全員がどっと笑った。
「はははっ...さて、じゃあいい加減に覚悟を決めようか」
「うむ」
「おー!」
「もとより...できてる」
「俺もだ」
全員が拳を突き出して小さく小突くと、若き瞳に覚悟が宿ったのを遠くから眺めていた教官たちはしっかりと見届けていた。
「あの班は生き残りそうだな、クレタ」
「あそこだけでは無い、全班が帰ってくる。俺はそう訓練したからな...貴様こそ抜かりは無いな、アトル」
「勿論だ」
アトルと呼ばれた男は腕を組んで自信あり気に頷いた。
彼は銃士兵団のハンドガン部の教官なので、コートの隙間からチラチラと黒光りする無数の弾倉やらレッグホルスターの収まったオートマチック拳銃が姿を覗かせている。
「頼もしいな」
「そっちこそ」
二人の教官も不敵に笑い合い、静かに拳をぶつけ合うのであった。
「それでは時間になった。今この瞬間に棄権する者は居るか?」
クレタは訓練生たちをぐるりと見回して、誰も手を挙げていない事を確認すると黙って頷いた。
「よく決意してくれた。それでは只今から試験の内容を告げる。全員とも聞き漏らしの無いようしっかりと聞くように」
『はいっ』
部屋の照明が落とされると、クレタの脇にホログラムマップが浮かび上がった。
「まずは付き添いの教官についてだ。各班にはそれぞれ3人の教官が臨時スケット及び衛生兵及び連絡員及び採点員として付き添う事になる、万が一付き添いの教官から試験中止を告げられたら直ちに生存を第一に考えて行動するように。次に訓練場の地形から簡単に説明する。尚、このマップは訓練場に入ると端末から現在地点の座標付きで確認できるので安心するといい。では、フィールドは半径3kmの円形で最外殻に五重の装甲で守られた出入り口のエレベーターがある。外周部1kmは森林で囲まれており、そして中央部付近には砂漠地帯が広がり中央には山岳地帯が連なっている。諸君らはこの広大なフィールドの中を駆け巡りとあるモンスターを討伐してもらう。何を討伐するかはこの後各端末に送信されるが、フィールドに生息するモンスターは全部で8種類だ。エレベーターの中にあるモニターに全種類のモンスターの名前と姿が表示されるので決して見逃さないように。そしてモンスターを倒したら各班に付き添う教官から俺に合格の報告が送られてくるので直ぐに帰還してもらって構わない。大雑把な解説は以上だ、試験中にどうしてもわからない事があれば付き添いの教官に聞くように」
『はいっ』
「では一班から順にエレベーターに乗り込め!」
『了解!』
一班が駆け足に集団から離れると三人の付き添いを連れて重装甲な扉で守られたエレベーターに乗り込んだ。
順番を待つ各班員は固唾を飲んで自分たちの番を待つのであった。
----------------------M.Gメモ------------------
アトル・プラーノン
Lv.1036
HP15035
装備品 ガーデン式オートマチック25型
備考
クレタ・ミカーネとは教官になる前からの付き合いでとても仲が良い。
普段はコートで隠れているが、その体には愛銃と無数の予備弾倉を装備しており、その総重量は5kgにも及ぶ。
銃士兵団・ハンドガン部の教官を務めているが今回は試験だからと特別参加をした。




