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Mercenaries Garden   作者: ゆーやミント
ガーデン生活 初年度生編
23/87

〜入学アリーナ・決勝戦〜

千人と少々で1ブロックとした団体合計10組が各ブロックごとで決闘(デュエル)を行うこのアリーナも上位百名がポツポツと決まり始めた。


『強い、強いぞコヨミ選手!あっという間に準決勝を勝ち抜いてしまった!!』


動体視力や反応速度、筋力諸々が人間の比ではない暦は文字通り赤子の手をひねるが如く対戦者をねじ伏せてしまい、あっという間に決勝戦まで勝ち進んでしまった。


『さて、遂に決勝戦だ。戦うのは最強無比のサムライ・ミズカミ コヨミと緑の守護者ことエルフ・ネリシャルド=スラートス=イミル=ハラージド=ミラディナーシル・フラント=サハール=ウンズィーク=ウォルラント=シールフだ!勝っても負けてもガーデンへはとっくに入れるが、見事一位の栄光を掴み取るのはどっちだ!!』


たたらかにアナウンサーが言い切ると共に五分間の準備時間が始まる。


「やっぱりコヨミさんが私の最後の相手ですか。楽しみにしていますよ」

「期待に添えるかはわからないぞ」


両者は静かな笑みを浮かべている。


「あの精神安定剤はすごい、心の中が静かだ...まるで静かな水面を眺めているような、そんな気持ちになってくる」

「私は...今のコヨミさんはあまり好きではありません。薬のせいで貴方の心の温かさが消えてしまっています。ですが...」


ネリシャは腰の剣に手をかけて一気に引き抜くとその切っ先を暦へ向けた。


「この方が貴方を敵として認識し易いです」


やや挑戦的な笑みを浮かべて彼女が剣を構えると、真っ白な盾と刃は闘技場に降り注ぐ光を彫り込まれた金線に反射してまばゆく輝いている。


「綺麗だ」


暦は素直な感想を口にする。


白い刃を手にその緑髪と緑眼を輝かす姿は彼女自身の美貌と合わさって芸術品とさえ言える程に美しかった。


「ありがとうございます」


素直にお礼を言うネリシャに暦は思わず頬を緩ませる。

そして深呼吸を一回すると刀の柄に手を添えて目を閉じて精神統一を始めた。


幾らかの時間が流れ、決闘開始のブザーが鳴ると同時に聞こえた地面を蹴る音に反応して目を開く。

凄まじい速さで近づいてくるネリシャの剣は暦の胴体を真っ二つにする軌道を描いている。

身を逸らして剣の軌道から微かに外れると、切っ先が通過したのを見送ってから初めて一歩を踏み出した。


「せえええやあ!」


美しい声を精一杯出してネリシャの斬撃が虚しく空を切り裂くに終わるのと殆ど同時に暦の反撃が始まり、身を低くした彼は攻撃の後で隙が生まれたネリシャに迫ると、素早く鞘から抜かれた刃が容赦無くネリシャに襲いかかる。


「くっ」


隙を突かれて回避不可能かと思われた暦の居合切りをネリシャは持ち前の身軽さで躱し、そのまま何歩か下がると僅かに荒くなった呼吸を整えた。


「流石です、最初の一撃で決めるつもりだったのですが...やはりそう簡単にはいきませんね」

「こっちも、今ので終わらせる気だった」

「あれは本当に危なかったです。後僅かで当たっていました」


観客席のギャラリー達は五秒にも満たない間に行われた攻防に目を回したり冷や汗を流したりしていたが、勝負の決着を声も出さずに待ち望んだ。


広い闘技場の中心で繰り広げられる戦いは一つ一つが流れる様に滑らかでありながら鋭い閃光をきらめかせている。


しかし、はじめこそ両者互角に戦っていたが次第にネリシャが守備に専念し始めた。

鋭い暦の太刀筋と反応速度の速さに流石のネリシャも体に悲鳴が上がり始めたのだった。


ネリシャが盾で刀を防ぎ、キンッと澄んだ金属音がアリーナ中に響く。

彼女は物凄い力に押し潰される盾を必死で支えていたが、それも目に見えて押され始めた。


「くぅ...あ!」


圧力に耐えきれなくなった腕から盾が弾かれると姿勢が崩れて無防備になったネリシャめがけて刃が振り下ろされる。


彼女は咄嗟に後ろへと飛んで逃げるが、踏み込んで間合いを更に詰めてきた暦の二の太刀が瞬く間に襲いかかった。


彼女は迫り来る刃を眺めながら必死で心を鎮め、冷静に前へ飛び込むと間合いを狂わされた暦の刀の横っ腹を切りつけた。


長剣以上大剣以下の剣であれば刀身の側面は弱点であり、一定の角度で強く叩きつけられると簡単に折れてしまう。

だが今回は硬度だけでなく強い粘りもある刀だった為、相当に刀身が悲鳴を上げたように思えたが折れることはなく暦の手から跳ね飛ばされるだけに終わった。


「いっ!」


刀身を伝ってきた激しい振動によって痺れた右腕はしばらく使えなくなってしまう。


「決まりです!」


暦が怯んだ隙に大きく振りかぶられたネリシャの剣が迫った。


遂に決着かと誰もが思ったが、暦は自由の効く左手を伸ばすと親指と人差し指の間に器用に彼女の刃を挟み込んだ。


「え?」

「真剣白刃取り...もどき」


呆気にとられたネリシャは一瞬の間に暦の姿を見逃してしまう。


「しまった!」


悠々と刀を回収した暦はそれを左手で構え、ネリシャを迎え討つ用意を整えた。

自分から攻めなかったのは利き腕ではないといった不安があったからだろう。


飛び込んで来るネリシャの剣を掻い潜ると再びそのその胴を斬り裂こうとしたが今度は彼女に追いつかれて剣で防がれてしまう。

しかし、今までは一度の攻撃で最大で二回までしか攻めなかった暦が急に連続して攻め始める。


線で繋がったような攻撃を繰り出す暦の動きは到底利き腕ではない腕とは思えない鮮やかな剣捌きで着々と本来に近い動きを身に付けていった。

そして...


「・・・馴染んだ」


ボソリと暦がそう呟くと今までとは比にならないような速さで刀を何度か振った。

それはギャラリーは勿論ネリシャの目にも映らず、ただピピッと風を斬る音がしただけで閃光すら見当たらなかった。


「終わりだ。峰打ちだから致命傷にはならない」

「?」


ネリシャは刀を鞘に収める暦の行動を理解できなかったが一歩踏み出した瞬間にポトリと血の雫が零れ落ちた。


「ああ...そうですか」


ネリシャは瞬時に己の傷を理解した。両肩から両腰まで十字に服がジワリと血で染まっていたのである。

余りにも速く傷をつけられたせいで痛覚を置いてけぼりにしていたのだ。

今頃になって彼女に痛いような痒いような刺激が走り出した。


暦がフラリとよろけた彼女の体を支える。


『な、何と言うことでしょうか!余りにも早く斬り裂かれたためにバリアが攻撃を弾けなかった様です。こんなことはアリーナ始まって以来のことだ!!凄すぎるぞコヨミ選手!決勝に相応しい見事な凄技でした!!』


アナウンサーの声と同時に弾けるような歓声がコロシアム中に広がった。


「すみません、張り詰めていた気が抜けてよろけてしまいました。もう大丈夫です」

「そうか、でも一応手当は受けておくんだ」

「はい、わかっています。それよりもコヨミさんも歓声に応えてはどうです?」


コヨミは小さく首を横に振った。


「いや、そういうのは性に合わない」

「そうですか...では!」


ネリシャはサッと自分の腕を暦の腕に絡めると高々と振り上げた。


それによって会場の歓声はより一層激しくなる。


「おい...」


暦は腕を下げようとして力を込めかけたが、無邪気に笑うネリシャの姿が何処か妹と被ったので抵抗をやめた。


(やっぱり変わり者のエルフだ...)


暦は小さく笑うと、しばらく片腕を彼女の好きな様にさせたのであった。



「いやー二人共お疲れ様。そして晴れてガーデン入学おめでとう」


闘技場から退場すると、いつの間に降りてきたのかエルメスが鉄扉の内側で二人を待っていた。


「コヨミ、薬は効いたみたいだったね」

「効きすぎですよ」


何故かネリシャが不満を零した。


「ん?どうしてだい?」

「どうしてもこうしても...私はコヨミさんの温かさ好きなのであの凍ったような彼は嫌です」


不満顔のネリシャにエルメスは一瞬ニヤリとした。


「そうは言ってもねぇ...本来なら訓練させて感情を抑えられるようにするけどもこの土壇場じゃそうもいかないだろう?」

「そうですが...」

「私は君が惚の字の優しいコヨミもいいけどこういった冷ややかなキャラも良いと思うよ?まあ今日会ったばっかりだけど」

「惚の字って...そ、そんなことじゃ...」


エルメスの戯れ言に顔を真っ赤にしたネリシャは思わず暦と距離を開けた。


「・・・ネリシャ、感情に起伏が無いだけで心が無い訳でも人が変わった訳でも無いからな」


複雑な顔をした暦がボソリと呟いた。


「ところで、この薬ってどのくらい効力が続くんですか?」

「んースナイパー用のを渡したから後一時間もすれば完全に切れるんじゃないかな?」

「そうですか」


暦は何度か頷いてから妹の事を頭に浮かべた。


(これは完全に効果が切れる前に紗希に会うと面倒なことになりそうだ...そういえば、紗季は無事に勝ち残れたかな?レベル的には問題無いだろうけど...)


そんな事をぼーっと考えていると通路内に何かが疾走する音が近づいてきた。

暦がまさかと思っていると聞き慣れた声が響く。


「お兄ーーちゃーん!!」


予想通り襲来してきたのは紗季であった。


「一位おめでとうお兄ちゃん!」


紗季は走ってきた勢いを使って文字通り飛びついた。

暦はのめり気味になった彼女の身体を支えながら黙って頷く。


「あれ?お兄ちゃんどうしたの?」

「いや、噂をすれば影というか...」

「?」


紗季が暦の首筋に腕を絡めて抱きついたままぶら下がっていると、その奥でエルメスがワナワナと震えていた。


「シ、シラギが言ってたのは...君かぁ!!」

「きゃああああ!!」


エルメスは一瞬で紗季を掻っ攫うと息を荒くした。


「イイねイイね美少女最っっっっ高だねぇ!はっはっはっはっは!!」

「嫌あああああ!!」


犯罪者の臭いがする笑みのエルメスと本気で嫌がりジタバタする紗季という憲兵に見つかったら問答無用でエルメスが連れて行かれそうな状況に暦たちは言葉を失った。


「シラギの言葉に期待はしてたけど妄想と生は違うぜはっはっはっはう!」


ゴンと何か硬く重たいもので頭を打たれたエルメスは一瞬で気を失う。


「寝てろ犯罪者」


そう言ったのは両手に大きなスーツケースをぶら下げた白衣姿のネギルであった。


「まったく、二人にガーデンの制服を持ってきてみりゃ何やってんだか...」


ネギルはエルメスを足蹴りしつつ大きな箱を二つ置いた。


「そっちの嬢ちゃんの分は無いが...ほらよ制服だ」


取り出されたのは両肩と肘に金属板のプロテクターが施されたハーフタイプのコートで、世間一般でガーデンコートと呼ばれているガーデンの象徴的なだった。


「ようこそ、ガーデンへ」


暦たちがケースを受け取ったのを確認したネギルは不器用な笑みで暦たちを歓迎した。



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