〜エルメス・サンドリヨン〜
暦たちは五分程エルメスという女性の細くて色白い腕に引きずられること約五分、工廠と研究所が混ざった様な施設の一角にある部屋へと連れられた。
その部屋は彼女の私室らしく寝具や家具類といった生活用品が設置されているのだが、室内の至る所には紙束が散らばり、びっしりと書き込まれたメモ書きが主に寝具周辺を中心にして壁に貼り付けられている。
「ちょっと散らかってるけどまあ座ってよ」
「では失礼する」
「し、失礼します」
彼女はそう言って暦たちに椅子を差し出してから、テーブルの上に積み重なった分厚いレポートを適当に放り投げる。
暦は「これでちょっとか?」と胸中で呟きつつもお礼を言って腰掛けた。
「ふう、シラギが新人を迎えに行ってたせいでここを片付けてくれる人が居なくてねー。まあこれだけどかせばお茶くらいは出せるかな?」
やっとのことでテーブルの上を片付け終えたエルメスがティーポットを持ち上げると、コンコンとドアがノックされた。
「エルメス開発班長、シラギ討伐部隊長の容態を報告に来た」
「ご苦労様、入って」
「失礼します」
エルメスが声を返事をすると、白衣を着た髪の長い青年が入って来た。
「おや、ネギル衛生兵団長様が直々お出ましなんて珍しいこともあるもんだね」
「出不精ならお互い様だろ...まあいい、それよりも報告だ。討伐部隊長の傷はどれも致命傷には至っていないが、測定ではHPがイエローゾーンに達していることがわかった。目を覚ますのは早くて明日、遅くても明明後日頃だろう」
「そっか、大事に至らなくてよかったよ」
「それにしても、シラギが重傷だってのによく治療室に押しかけなかったな」
「私が行ったところで邪魔にしかならないだろ?」
「慌てても頭が回るのは相変わらずか」
感心した様に頷いていたネギルはおもむろに視線を暦たちへ向ける。
「ところでそこの金ピカとエルフはどうした?」
「え?攫ってきただけだけど」
「攫ったって....はぁ」
ネギルは大きなため息と同時に哀れみの籠った目で見つめる。
「君らも大変だな...っと、挨拶が遅れた。俺は衛生兵団長のネギル・ラーミア、一応そこに居る女と同期だ。君らは新入生か?」
「そうだ、オレは水上 暦。よろしく頼む」
「私はネリシャルド=スラートス=イミル=ハラージド=ミラディナーシル・フラント=サハール=ウンズィーク=ウォルラント=シールフです。簡単にネリシャと呼んでください」
「ほう、今までにもドワーフなどが在籍していたという記録はあるがエルフと神獣は初めてだ」
そう言ってネギルは二人を足元から頭の天辺までじっくりと見回した。
「....面白いな」
彼はボソッとそう呟くとドアノブに手をかけた。
「では、俺はシラギの嬢ちゃんを看病しなきゃならんからお暇させてもらうよ」
「うん、是非とも彼を元気にしてあげてね」
「任せろ、では失礼したな」
エルメスはネギルが部屋から出たのを確認すると、クルリと暦の方へと体ごと振り向く。
「コヨミだったね。いい加減に人間の姿に戻ったらどうだい?」
「それもそうか...何で人間に戻れること知ってるんだ?」
「ああそれはね」
ニヤニヤと笑いながら彼女は白衣のポケットから端末を引っ張り出した。
「昨日シラギと決闘しただろう。その時のデータを丸々送ってもらったんだ」
「完全にオレの人権を無視した答えをどうもありがとうございます」
「嫌だなぁ、人権は人間にしか無いよ」
ケラケラと笑うエルメスの横で暦は少しシュンとした。
それと同時に尻尾と耳が消え去り、長い金髪も元の黒髪に戻って肩にかかる。
「凄いね、やっぱりデータと現実では別物だ」
暦は、急に科学者の顔に変わったエルメスに戸惑いつつも深呼吸をして心を鎮めた。
「データ通り感情変化で変身するか...だとするとメンタル強化や精神安定剤なんかも...あ!」
ブツブツと独り言を呟いていた彼女はいきなり声を上げると暦の手を取った。
「そういえば君はシラギを助けてくれたんだったよね。遅くなってしまったど本当にありがとうね!彼が居なくなったら私も後を追うところだったよ」
「その...エルメスさんとシラギさんはどういったご関係なのでしょうか?」
ネリシャが慎ましやかに手を上げて質問する。
「私と彼は...まあ、私は彼の恋人だと思ってるんだけど肝心の彼が振り向いてくれなくってねぇ〜」
エルメス寂しそうな顔で言った。
「ま、彼がどう思ってるかは知らないけど、シラギは私の大切な人だよ....って!柄でも無い事を言わせないでくれよ!!」
照れ隠しのつもりか荒々しい手つきで髪を掻き乱してぷいっと後ろを向いた。
「そ、そうだ!コヨミ。あんなド派手な登場をかましたんだから君も頻繁に狐の姿になっても困るだろう?この精神安定剤をあげるよ」
エルメスは茶棚のような場所から一つのビンを取り出した。
「これはスナイパー用の精神安定剤で手のブレや緊張による心拍数と呼吸を安定させられるんだ。データから見れば恐らくこれで不用意に変身することは無いと思うからね」
「ありがとうございます」
暦は訝し気な顔でビンの中に入っている錠剤を眺めながら礼を言った。
「急に口調がかわったね...しかし、君もまたシラギに引けず劣らず美形な...」
エルメスのぼやきを掻き消すかのように時計が十七回鳴る。
「ああ!もうこんな時間か!?二人とも急いで中央コロシアムへ行くんだ!入学試験のアリーナに遅れるよ!!」
『え!!』
暦とネリシャは揃って声を上げると顔を青くした。
「近道案内するから付いて来て」
三人は慌ただしく廊下を駆けて行った。
-----------------とあるレスにて-----------------
ID mg-7303364ER
≫1
何か新入生たちの護衛艦隊がボロボロになって帰ってきたんだが・・・
ID mg-7633210SH
≫2
うちのとこの先輩が顔を真っ青にしてドッグへ行ったのはそれが原因かな?
ID mg-7818422AR
≫3
≫2よ、君はこんな所にいていいのか?
ID mg-7633210SH
≫4
その先輩にここで待ってろって言われたから動けないのだよ
ID mg-7560145AG
≫5
今シラギ班の人たちが帰還したんだけど二人しか居ないぞ!
ID mg-7638221KB
≫6
たった二人!?シラギさんと誰が帰って来たんだ!!
ID mg-7560145AG
≫7
それが...その二人の中にシラギさんが居ないんだ....
ID mg-7633210SH
≫8
え?
ID mg-7633210SH
≫9
ウソ...だよね?
ID mg-7560145AG
≫10
残念だが本当だ。まさかあの人が...
ID 7278393DK
≫11
一度出撃したら全員で帰って来ることは無いが、まさかシラギさんが....
ID mg-7633210SH
≫12
私、結構お世話になってたんだけど結局何もお返しできなかった...
ID mg-7560145AG
≫13
俺も、入ったばっかの頃はよく世話になったなー
ID mg-7303364ER
≫14
なんだか母親が死んだみたいな気分だ
ID mg-7633210SH
≫15
私は家族の顔を見たことないけど、もし居たらこんな気持ちになるのかな?
ID mg-7112568GB
≫16
皆、メインゲート前で昼寝してたら神獣が降り立った!
ID mg-7818422AR
≫17
≫16、寝言は寝て言え。てか空気読め
ID mg-7112568GB
≫18
いやほんと!金色の狐が降臨した。
ID mg-7112568GB
≫19
しかもボロボロなシラギさんを抱えてる
ID mg-7633210SH
≫20
≫19、メインゲートだな?
ID mg-8638221KT
≫21
端末覗いてた同期が狐って単語を目にした途端走ってたんだが
ID mg-7278393DK
≫22
もしかして今「あの馬鹿野郎ー!」て叫びながら走ってった奴か?
ID mg-8638221KT
≫23
ああ、うん。多分それ
ID mg-7560145AG
≫24
たしか昨日帰ってきた初年度生で、5班で唯一生き残ったのガンナーだったよな
ID mg-8638221KT
≫25
そうそう、本人も結構気に病んでた
ID mg-7112568GB
≫26
何か俺と同じように昼寝してたっぽい奴が神獣に声掛けられてる
ID mg-7278393DK
≫27
あー見えた見えた。って、本当に金ピカな人孤が居るぞ!?
ID mg-7818422AR
≫28
マジでか
ID mg-7278393DK
≫29
エルメスさんが猛ダッシュで神獣に接近中
ID mg-7560145AG
≫30
それは100%シラギさんが目標だ
ID mg-7278393DK
でもシラギさんを衛生兵団に渡すなり颯爽と神獣&エルフを攫ってたぞ
ID mg-7278393DK
≫31
人攫いは彼女の十八番です




