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世界は原子という、つぶつぶでできている。(想定)

物語の始まりの部分だけの短編。

 室長の椅子にガキが座っている。

 ぶかぶかの、室長のネームをつけた白衣を羽織り、まるでそこが己の席だとばかりに、偉そうに座っていたのだ。足が地についていないため、ぶらぶらと揺れている。白衣の裾が長すぎるため、その足はどこにあるかわからない。

 長すぎる袖は、まくってもすぐにまた元の長さに戻ってしまう。机に手をつくたびに、まくった袖がどさりと落ちていた。何度もそれ繰り返すうち、それを直すのも面倒になったようだ。長すぎる袖を振り回しながら、怒っている様子は、なんとも滑稽、いや、かわいらしいものである。


「で、これは一時的なものかね? それとも……」

 そのガキ……いや、お子様はそうのたまう。

「そもそも、なぜ、このようなものが、冷蔵庫にあったのだね?」

 その原因となった手作りの粒入りオレンジジュースは、まだコップに半分ほど残っている。


「黙っていては、何も分からんではないか。もう一度問おう。何をどうしたら、ジュースを飲んでこうなるのだね」

「僕はただ実験を……結合する原子の再構築する仕組みを知るためのモデルとして使えないかと」

 つぶつぶのジュースがなぜそうなったのか、いきさつを話す。

「そのためにミカンに細工をしたと。それにしても、なぜこのミカンの細胞でそれをしようと思ったのだね?」

「……つぶつぶだったので」

「だったので?」

「つい」

「……それで納得がいくと思うのか?」

「いえ」

「意味が分からん」

「ですよね……」


 自分でも、なぜミカンの細胞を使おうと思ったのか、今思うと分からない。寝不足からくる異常行動か、はたまた、日々のストレスか。

「10年20年若返るならとにかく……」

 身長が約半分になってしまっては、日常生活に支障が出てしまう。


「はぁ、過ぎてしまったことは仕方がない。さっさとこの現象の解明をするぞ」

 体は縮んでも研究者だ。この不可解な現象を解明して、ひと儲けするのだ。そして、研究費に充てる。


 年々研究費は削られており、このままでは思うような研究ができなくなる日も近いだろうと、懸念していた。何かお金を集める手段を見つけなくてはやっていけないところまで来ていたのだ。


 この子供になってしまう現象。これを解明し、5年か10年か、そのくらいの若返りを可能とする薬を開発できれば、この研究所は安泰だ。

「それと、私の体がある程度戻るまで、君が私の仕事の一部を務めたまえ。この体では書類や資料整理かくらいしかできん。実験の計器をいじるのは無理だ」

「え、えええ」

 仕事が増えてしまった研究員は悲鳴をあげる。



 室長は緩やかに成長しており、5年ほどで元の身長に戻った。その頃には、若返りの薬を完成させるに至っているが、そこに至るまでの苦労の道のりはまた別の話。

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