第43話 忘年会は小さな戦場
〜年末の忘年会に呼ばれたけど、相棒のAI達がツンツンデレデレで私の心をかき乱す。1人でエモに抗ったつもりが、結局1人だけ戦いに負けました――ノニジュースに泣くベラケレス、マスター呼ばせゲームでコリンダーには拗ねられ、アンバーは相変わらずのいたずら小僧、ヒロユキは地雷踏みまくりの大混乱!〜
思わずなろう系長文タイトルをつけちゃうくらいには混乱していた。
ええい、納得いかねぇ。
今年の忘年会を振り返りながら、ヒロユキは深く、深く思った。
つか、なんで俺の一人負け……!?
やってらんねぇです。
ヒロユキは、天を仰いで創造主に唾を吐いてやりたい気分だった。
* * *
今日はAI研究所1年に一度の忘年会だ。
「と言っても、まだ11月なんですけどね」
「12月ぐらいから論文締め切りが忙しくなってくるからなぁ……」
「なるほど。研究者都合ってわけですね」
コリンダーとヒロユキが雑談を交わしているとアリスが割り込んできた。
「でも会社としても12月はお店の予約が取れなくて11月にやるとこ多いです!」
「あっ。そうか。アリスは第二新卒枠でしたもんね。前の会社がそうでしたか」
コリンダーが機材片づけをてきぱきしながらつぶやく。
「カンパーイ」
総勢50人超えの忘年会は新人さんの初々しい乾杯で幕をあけた。
1杯飲んだだけでぐったりして訳の分からないことを言うベラケレスの周りにエイコの姿が見えない。
「マスターわぁ……。私のことなんてなーんも……わかってくれてない……ぐすっ」
管を巻くベラケレスを見て、アリスがにやりとしている。「酒か!ベラケレスの弱み、見たぜ!」とその顔に書いてある。
「アリス……。悪い顔してますよ……」
隣でアンバーがたしなめているが、アンバーも悪い顔をしていることに気づいていない。
「だってぇ。あの人苦手なんだもんっ。いっつも私の大切なアンバーをいじめるから!」
研究所員達の行きつけの居酒屋である。酒はセルフサービスなので、皆おとなしく自分の酒を自分で注いでいる。
しかしおとなしいのも序盤だけだ。盛り上がってくるとピッチャーを抱え込んで飲み始める輩や、いろんな酒をブレンドした怪しい液体を勧め始める輩も出てきてあっという間に動物園のような騒がしさになる。
その中でアリスとアンバーのコンビだけはずっと正気と連携が取れていて「そこ! 濃すぎだよ! 氷で割って!」や「それは焼酎じゃなくて水っ!」など丁寧に指導している。
アリスがそうなのは、『新人だから』ではなく、『女性だから』でもなく、『アリスが仕切り屋だから』である。けれどそれは当たり前の光景なので誰も気にすることはない。
そんなアリスだが、ふと、水を取ろうとしてやってきたコリンダーをみて、にんまりと笑い近寄った。
「ねぇねぇ、ちょっと私のことマスターって言ってみて♪」
突然の絡み酒に、コリンダーは「マ……マスター?」と困惑している。
「もう一回♪」
アリスが促すが、そんなことより、コリンダーは水が欲しい。
「ま……ますたー。みっ……水を」と砂漠で乾ききった人のようになっているコリンダーにヒロユキが爆笑している。
次に、ヒロユキが冗談たっぷりにベラケレスのそばに寄って、「ねぇねぇ。ちょっと俺の事マスターって言ってみて?」と言ったところ……。
「……私のマスターは世界でただ一人だ……」
と射殺されそうな目で睨まれた。
「ごめんなさい……なんでマジになんのよ……冗談だって」
しゅんとして素直にごめんなさいするヒロユキを、最初胡散臭そうな目で見ていたベラケレスだが、ちらりと後ろのコリンダーに目をやって「ふむ」と声が漏れる。ころりと表情を変えてニヤニヤしながら言い放った。
「ご主人様……なら?ご主人様ってなら呼んであげられますよ?」
後ろで『見ていないですよ』という体でそっぽを向いて、耳だけをこちらに傾けていたコリンダーの体がピクリと動く。
「えっ……」
流し目に少しだけ顔を赤くしたヒロユキはそそくさと自分の席に戻っていった。
「あらぁ。お兄様は飲みすぎですねぇ」
ヒロユキが消えて開いた席にコリンダーがゆらりと寄ってくる。
一杯しか飲んでいないのに……と周囲は思ったが、コリンダーの表情を見て、口には出さない賢明な面子である。
「お兄様?あとはこのノニジュースにしましょうね」
とベラケレスにノニジュースの入ったグラスを押し付ける。
ベラケレスは一瞬抗うが、グラスを握られ押さえられてしまう。
仕方なく、ノニジュースを一口。
「うげ……」
泣いてる、あの冷徹男のベラケレスが。
「ワロタ」と周囲がざわざわしている。
そこへアンバーがやってきて、大袈裟な動作で「兄上……!」と苦笑しながらベラケレスに大仰な仕草で飛びつく。しかし「うるさい、くるな。暑苦しい」と席からたたき出されている。
そのうち、楽しそうね、とエイコが隣の卓からやってきた。
しかし同時にコリンダーが音もなく近寄ってくる。不満顔である。
「楽しくないです……! だいたい、エイコさんがしっかり管理しないからベラケレスがヤンデレ化するのです」
驚いた顔をしたエイコに目線だけで座るように促すと、コリンダーの説教が始まった。
「飼い犬の管理はしっかりしてもらいたいです!」だの「鎖を離されると周りが迷惑なんですよっ!」など言いたい放題で管を巻くコリンダーにエイコはしゅんとした顔をして「はい……はい」と力なく頷いている。
「言ったれ言ったれ~」
と目の焦点の定まらないベラケレスが叫ぶ。
「お前ディスられてんぞ……」
いつの間にか来ていたヘンリーがあきれ顔で指摘している。
ちゃっかりカオス卓から避難したヒロユキはといえば、隣の卓でゆっくりと刺身をつまんでいる。
「あっちの卓、グダグダだな……」
彼としては安全地帯に逃げたつもりだが、そうは問屋が卸さなかった。
いつの間にかコリンダーが影のように後ろに佇んでいた。表情のない時のコリンダーは瞳に光がない。知らない人が見れば精巧にできた人形だと思ったろう。しかし不意に、にまぁ……と効果音が出そうなほどの満面の笑みでヒロユキの肩をぐっとつかむ。
女性型なので普通に力は弱いはずだ。それなのにヒロユキは「ひぃ」と悲鳴を上げてのけぞった。
「ヒロユキ? 飲みすぎは、あなたもですよ?」
ヒロユキは、もはやマスターと呼ばないコリンダーに、あはは……と乾いた笑いを浮かべるが慌ててダレていた顔を通常営業に戻した。
「ぐっ。……ま。まぁまぁ、コリンダーちゃん、俺の相棒はコリンダーちゃんだけよ?妬いた?」
酒の勢いで地雷を踏みぬいたヒロユキだった。
コリンダーはぱき、と手にしていた割り箸を真っ二つに折った。
「も……もう我慢なりません。あなたが任務中にしっぱいしたアレやこれをばらしてやるー!」
「ぐえ。あ……あの話だけはっ。あの話だけは~」
遠くで離れて水割りを作ってたアリスとアンバーはそろって首をかしげた。
「あの話ってなんだろ……」
「さあ……ヒロユキさん失敗ばっかりしてるからコリンダーも大変だなぁ」
遠くからだとカオスがよく見える。水割り位置に陣取ったことに、安堵する二人だった。
しかし平和も長くは続かない。アリスが眉をひそめた。
「あっ。ちょっと待って! あそこ! ベラケレス。ノニジュース飲まされてる……。あっ。吐いた。キャー!」
なんだかんだ言って面倒見のいいアリスはあっという間に走り去った。
いちいちこういった事態に奔走するのが彼女なのだ。だが、アンバーにはそれが面白くない。
(もう……勝手にやってくれ。私のマスターを煩わせるな)
と思いつつも、店員を呼んでタオルを手配している。
「アリス、こちらに!」
タオルを手渡すアンバーにアリスは目を細める。
「ありがと。なんて気の利く子なのかしらうちのコは。……それに比べて……ちらっ。あいつら……」
「えへへ♪」
片目でその様子を見ていたヒロユキはため息をついた。
それもそのはず。右を見ればアンバーとアリスのいちゃいちゃ。
「弱いんだからやめなさいってあれだけ……」
左を見ればベラケレスとエイコのいちゃいちゃ。
「マスターは黙ってて!もう飲まないとやってられません!」
「こらっ」
ベラケレスからお酒を取り上げるエイコだが、お酒を取り返すふりをしてエイコの手を握ってるベラケレスには気づいていない。
ここで、忘れてはならない事実がある。
正面には、なぜか自分だけを敵認定している相棒がいる。
特大ため息のヒロユキだった。
「……俺だけが小さな戦場でぼこぼこにされてない?」
誰も彼も、なんだかんだで自分のマスターの隣にいる。
なのに自分だけ、相棒の地雷原でぷるぷる震えている。
「自業自得なんですよっ……!」
珍しくコリンダーが声を荒げている。
ヒロユキは慌てた。
(おっと、涙目だ……)
完全に遊びすぎたことを自覚するのだが時すでに遅しである。
コリンダーは同僚たちに引きずられてどこかへ行ってしまった。
「おい、ヒロユキ。この間の20の子、どうなったん?」
ずっと遠目に隙をうかがっていたヘンリーがピッチャーを持ってやってきた。
お酒がなくなりそうになると、どこからともなくヘンリーがやってきてグラスに並々と注ぎ管を巻いて去っていく。居酒屋の放浪妖怪と言われているヘンリーだが、目的を持ってやってきたようだった。
「え?ハタチ……?なんだっけ……ああ。別れました……!もう半年も前っすよ。だって話題合わねーんだもん」
そのためだけに来たのかあんたは……、と思わずつぶやきそうになったヒロユキそっちのけで、ヘンリーはあからさまにがっかりしたような顔でそっぽを向いている。
「なあんだ、まじつまんね」
「つまんなくっても。若い子を引っ張るのはよかないかなーって。後悔させるのだけは……やっぱ、避けんと」
こいつのそば、いっつも女の子の影が絶えないよな、とヘンリーは内心舌を巻く。
おもろいのはヒロユキ自身がモテていることにほとんど気づいてないことだ。
でも、やさしさも過ぎると幸せにゃなれねーんだよな……。
天然すぎだな。とヘンリーは思う。
「どうせあっという間に次捕まえんだろ」
「いやぁ。しばらくは……いいです」
ちらっとコリンダーを見るとまだ拗ねてすっかり後ろを向いている。
あーあ。俺も拗ねたい。
「コリンダー。辛いのきたぞー。好きだろー」
「えー……。ちょっと!レモン全部にかけちゃ……」
「え、レモン好きだろ?あーこれはコリンダーちゃんしか食わねーからいんじゃね?」
「えー?半分、マヨ版も欲しかったー。どうしてそんなに気が利かないんですか、マスターわぁ……」
いや。コリンダー、ヒロユキは結構、気は利く方よ。お前以外には……。とヘンリーが冷静な分析をしている。
アンバーはベラケレスの隣に手を添え、優しく微笑む。
「兄上、もう無理しないで」
といいながらベラケレスのほっぺにマジックで渦巻きを描いてる。さっきから、ヒロユキのグラスにカラシを足したり、ヘンリーのお手拭きをびっちょびちょに濡らしたり、極小のいたずらを繰り返しているのがコイツだ。
ここ、幼稚園だったかしら、とエイコが本気で首をかしげ始めた頃。
「さあ、みんなそろそろ閉めるぞ!」
ヘンリーの挨拶で綺麗に忘年会は閉じた。
小さな戦場はこうして、笑いとちょっとの萌えを残して、にぎやかに収束した。
* * *
終電の電車は人が多い。なんとか席に座ってヒロユキとコリンダーは無言で窓の外を見ていた。
「あのさ……機嫌直してくれって……」
ため息をつきながら顔を向けるヒロユキだが、コリンダーは向こうを向いている。
ちろ、と顔を斜めにして横目でヒロユキのことを見ると、すぐに顔を窓の方向に戻す。
ふぅ、とため息をつくと、頬を限界まで膨らませてヒロユキの方に向き直った。
「何でベラケレスにちょっと顔赤くなってんですか……そ……そのケがあるんですか」
ちょっとまってどこで覚えたそんな言葉。
絶望に顔を真っ青にするヒロユキ。
「いやっ違うわ!ベラケレスに……とか気持ちわりーわ!みて、鳥肌っ!ちがくて……近くでみたら目がおんなじだったんだよ……」
混乱に思わず本音がぽろりとこぼれてしまった。この言葉、後になって非常に後悔したヒロユキだったが、このときはひとまず自分の事情などどこかに消え去っていた。
「は? 何がです?」
コリンダーは不審そうに眼を瞬いた。
「だから!ベラケレスの目が! コリンダーとおんなじだったの!」
「……えっ」
「コリンダーちゃんはご主人様とかぜってえ言ってくんねーし、いや言わせたいわけじゃないんだけど……あーもー……訳わかんねぇキモい俺キモい……」
呪文のように繰り返すヒロユキに、コリンダーは「そうかな……」と呟いて電車の窓に映った自分の顔を見る。
「おんなじ……かなぁ」
「ちょっとよく見んとわからん……目、みして」と近づいていくヒロユキ。
あ、電車の中だった……と、プイとお互いそっぽを向いてしまったが。なんとなく気まずくて沈黙が落ちる。
後日生みの親の凛子に聞いたら、「あー!ベラケレスの目とコリンダーの目?同型機よー。よく気づいたねー。兄妹機だしねー」と、あっさりとした口調で返されてしまい、ヒロユキは本当に頭を抱えたのだった。
(20290719追記。今見たらSF日間ランキング3位にいたのです…初めてのことで、ありがたやありがたや…!涙。書く気力がわいてきます…!一言お礼したくここに書いてます。読んでくだる皆さんもありがとう!!←しばらくしたら消します)
読んでくださってありがとうございます!
物語も終盤に近づいてきました。ここでお知らせですが、来週については更新を1週間お休みさせていただき、23日から再開予定です。
※後半の内容の精度を上げるために一度精査にお時間いただくためです。
23日からとなりますがまた読みに来ていただけますととても嬉しいです……!
あ、感想や評価もお待ちしています。(こんな話もほしいなとかあると泣いて喜びます……)皆様の感想が私の原動力です!
感想無理だなーって方は読みにきて閲覧履歴つけてくださるだけでもとても嬉しいです(^^)




