【12】僕の役に立て[1]
レフレクシオは再び、アミキティアの使者の中で残ったふたりと対面した。ムルタへ訪れたときには数名が居たはずだが、残ったのはたったふたりだけだった。何も知らない彼らは、世界王の思惑に巻き込まれていた。彼らがそれに気付けるはずはない。世界王は実に姑息な王なのだ。
「そういうわけだ。一旦、アミキティアに帰ってもらう」
フェリクの兄を名乗ってムルタに訪れたレーニスは、納得しきれない表情をしている。長官は一連の出来事の真意を掴むことができず、困惑し続けていた。
「どうにも私には何がなんやら……」
「悪いが、説明する義理はない。むしろ、説明すればより危険に晒される可能性がある」
「はあ……」
これ以上、ムルタに留まれば、世界王の毒牙は彼らにも及ぶかもしれない。これまでの世界王の行動を見るに、世界王には見境がないだろう。宝玉に関わるすべての者を狙う可能性もあるのだ。
「私の補佐をつける。安全に移動できるうちに帰国したほうがいい」
「どうやらそのようですね」
「待ってください」
レーニスが身を乗り出す。彼がここで引き下がることはないとレフレクシオも想定していた。レフレクシオには理解できないが、レーニスは心からフェリクに情を懐いているのだ。
「こんな危険なところにフェリクを置いて行くなんてできません」
「残念ながら、危険なのはムルタではない」
「危険を招いているのがフェリク自身だと仰るのですか」
「お前が知る必要のないことだ。何を知ってムルタへ来たのかは知らんがな」
レーニスは返す言葉がない様子で口を噤む。長官はハラハラした表情で、レーニスの肩を引く。現状、彼らの立場は弱い。ここでレフレクシオに言い返すことはできないだろう。
「……少し、ふたりでお話しさせていただけませんか」
レーニスは緊張感を湛えた表情で言う。長官が窺うようにレフレクシオに視線を遣るので、レフレクシオはひとつ頷いた。
「いいだろう」
「はあ……。では、私は客室におります」
長官は辞儀をしてレフレクシオの執務室をあとにする。レフレクシオはレーニスをソファに促した。レーニスは礼を言いつつソファに腰を下ろす。先に口を開いたのはレーニスだった。
「フェリクは星屑の瞳を持っています。それで世界王国から狙われているのでしょう」
「フェリクから聞いたのか。それはアミキティアに行っても同じことだ。星屑の瞳を持つ以上、小僧はどこに居ても狙われる。その点、ムルタなら私たちが守ってやれる」
「僕たちではフェリクを守れない……と?」
レーニスは敵意とも取れる視線をレフレクシオに向ける。レフレクシオでなければ怯んでいたかもしれないほどの威圧感だ。レフレクシオは小さく息をつき、ひとつ頷いた。
「いまは一次的に撃退しただけだ。次にいつ襲い掛かって来るかわからない。フェリクはお前たちを巻き込むことを望まない。速やかに帰国せよ」
「フェリクはいままでも世界王国と戦って来たのですか?」
「お前には関係のないことだ」
フェリクは運命をやり直す前から星屑の瞳によって戦いに身を投じて来た。やり直す前の運命では、フェリクの敵はレフレクシオであった。世界王との戦いは、運命をやり直したあとに始まったことだ。
「勘当されていなければ、フェリクはお前を頼っただろう」
レフレクシオは、わざとレーニスの痛いところを突いた。そうすれば、レーニスに言えることはもう何もない。レフレクシオの思惑通り、レーニスはきつく口を結んで俯いた。
「とにかく帰国の準備を。これ以上、無関係の者を巻き込むわけにはいかない」
実家に勘当されていなければ、レーニスも無関係ではなかっただろう。だが、やり直した運命でレーニスが記憶を保持していたか、その保証はない。記憶がなければ、やはり無関係になっていたことだろう。




