0‐1 プロローグ
* * *
ピンポーン。
――――少女は、この春から学生寮で一人暮らしを始めた。
地元の公立中学校から府内の名門、朝葺学園に転校したのだ。
三月の頭には、既にこちらでの生活を謳歌している。
ピンポーン。
「はーい」
インターホンの向こうで、宅配便が届いたことを示す声がする。
こんな時間に? 今はもう夜中の十時を過ぎているいうのにだ。
第一、特に通販やその類を使った覚えはない。
両親に頼んであった荷物がようやく届いたのかも知れない。ひとまず出よう。その前に、印鑑はこちらに持ってきていた筈だから探さねば。
――――少女には、行方不明で一つ年上の姉がいる。
姉もまた優秀で、朝葺学園には成績トップで入ったのだという。
少女と姉は腹違いの姉妹だ、と親から聞かされたことがある。
青い目をした姉と、緑色の目をした少女。大方『そういうこと』なのだろうと予測していたので、さほど驚くことでもなかった。
少女は元々姉を追って朝葺学園へ進学する予定であったが、入試当日に高熱を出すという事態に陥り、已む無く断念。
両親からはしばらく白い目で見られていた一方、姉は気にするなと電話を寄越してくれていた。
そんな姉が失踪してから、もう半年になる。
姉は生きているのか、何処へ消えたのか。その真相を見つけ出すために、少女は転校を決意したのだ。
「名古寺さーん、ご在宅ですよねー」
おっといけない。印鑑探しに時間を割きすぎた。結局見つかっていないし。
ドアを開けると、待ちくたびれたといった態度を隠そうともしない配達員が立っている。
「ちょいと待ってくださーい。ハンコが見当たらなくて」
「いえ、構いませんよ。この伝票にサインしてくれれば」
「あ、そうなんですか。そいつはすいません」
宅配業者の帽子を深く被っていて素顔は分からないが、声は若い女のそれ。アルバイトだろうか、こんな夜中にご苦労なことだ。
「名古寺……と、これでいいんですよね」
「オッケーです。じゃ、この小包と……あと、封筒も届いていますので一緒に渡しておきます」
「ありがとうございましたー」
「では、これで」
小包を受け取り、配達員を見送る。
「あん……?」
気のせいか今、あの女、笑ったような――。
「よっこら、せっと! 少し重てえ。何が入ってんだ?」
部屋に戻った少女は、かつて姉から教わった方法で手早く封を開ける。
小包の重さは五キロ前後。野菜のダンボール詰めだと言い張るには、少々無理のある立方体。その上、送り主が誰かという記載は見当たらない。
試しに耳をあててみる。何も音はしない。開けたら爆弾が顔を見せて爆発する、なんてことはなさそうだ。
そして……箱は開かれた。
少女――名古寺睦三の越してきた町、祗倉町。
町には神社仏閣が建ち並び、複数の鉄道路線がひっきりなしに走る。
中心に建つ巨大な百貨店を始めとし、商業でも非常に発展している町だ。
しかし、この町のことについて調べると、決まって一つの“黒い噂”を耳にする。
『祇倉町では行方不明者が後を絶えない』のだという。
ものの三日で見つかる者も居れば、十年経って未だに足取りが掴めない者も居る。
ある時は、友人とかくれんぼで遊んでいた子供が。
ある時は、出張に来ていたサラリーマンが。
ある時は、町に住むとある家族が一家揃って。
ある時は、それらを捜査していた警察官までもが。
彼らは生きて帰って来る場合もあり、物言わぬ骸としてその身を晒す場合もある。兎に角、突然人が居なくなるのだ。
だから人々はいつしか、町のことをこう口にするようになった。
人間の消える町、『失踪町』と――。




