二十四話『待ちぼうけ』
どうやら襲撃者は迎撃したもの達で全てだったようだ。
城内への避難は滞りなく行われ、私は不本意ながらリンドブルク家へ先に帰ることなった。
お父様の容態が気になって仕方がないけれど、私のような子どもが意地を通した所で何も解決しない。
それならばいっそ素直に屋敷で父様が帰って来るのを待った方が早い。
とりあえずアルノルフ王子殿下が亡くなる未来は防げたのではないたろうか。
「コレで未来は変わる……のかな?」
両腕を掴むようにして自分の体を抱きしめる。
もし、お父様が帰ってこなかったら、倒れていたらと心配ばかりが募り気が付けば自然と足が玄関前のエントランスへと向いてしまう。
何度か自室に案内されお菓子や紅茶を出されたもの、エントランスへ舞い戻る私に諦めたのか、パメラが執事や他の使用人達と協力して、即席のティーテーブルと一人掛けのソファーを用意してくれた。
……床に座ろうとしてごめんなさい。
貴族のご令嬢は地べたに座ることはしないそうなのだけど、奴隷時代は剥き出しの地面に寝るのが普通だったせいか、奴隷人生が染み付きすぎて無意識に床に座ろうとしてしまうのよね。
しかし広く風通しがいいエントランスの夜は冷える。
もちろんエントランスに暖炉などないので温かな掛布をパメラが掛けてくれた。
慣れない王宮と、不敬が許されないような偉い人ばかりに囲まれ、暗殺事件に巻き込まれた事で張り詰めて氷のように冷えていた心と身体が、掛布の温かさで緩んだのか瞼が開かない……お父様が……帰って……
「あらあら眠ってしまわれたようですわ」
クスクスと笑うとパメラは、寝入ってしまったグレタから、静かに開かれたエントランスの扉へ視線をあげた。
「ん? こんな時間にこんな所でどうしたのだ」
疲れた様子で屋敷へ戻ってきたのは、このリンドブルク公爵家の小公爵テオドールだ。
「それが、公爵様を心配され落ち着かないご様子のグレタお嬢様と公爵様のお戻りをお待ちしていたのですが、つい先ほど寝入られてしまわれました」
「そうか……しかし、暖かな季節になったとは言え、ここでは休まらないだろう」
テオドールは完全に寝入ってしまったグレタを横抱きに抱き上げると、起こさないように気をつけながら、グレタを寝室まで運んでいく。
テオドールが初めて会った時のグレタは、まるでおもちゃの人形のようだった。
強い風でも吹こうものなら、飛ばされてしまうのではないかと心配になるほどに軽い。
細枝のような肉の無い四肢と痩けて骨張った顔、粗末な服に身を包んだ奴隷だった面影は、パメラや屋敷に仕える者達の献身によりもうない。
整えられた寝具の上にゆっくりとグレタの身体を横たえると、待ち構えていたパメラが上掛けをかける。
「公爵様のご容態は?」
「あぁ、実はグレタを公爵邸に帰した後、案の定倒れて今は王城で治療を受けているよ」
「そんな、大丈夫なのですか?」
「応急処置は済ませていたが、安静にすべき時なのに毒を受けた状態で動きすぎたからな。 毒の種類も分からない状態で解毒薬も使用できずに無理をすれば倒れて当然だ」
小さくため息を吐き出して、ベッドに横たわるグレタの波打つ髪を撫でる。
「王族が無事だったことは喜ばしい……だが、父上の容態次第では国の守りが薄くなるかもしれない」
リンドブルク公爵家の血筋にのみ受け継がれる能力として直感力と共に予知夢と言う稀有な力がある。
フランシス公爵もこの力で数々の戦果を挙げてきた。
しかしこの力はフランシスの思い通りに発現するわけではないらしいく、もし事前に分かっていたならば、フランシスは生後間もない愛娘を失いなどしなかっただろう。
こうして再会できたのは奇跡としか言いようがないのだから。
「すまないが軽食と、私と父上の着替えの用意を頼みたい。直ぐに王城へ戻らなければならないからな」
「かしこまりました坊ちゃま、直ぐにご自室へご用意させていただきます」
パメラが部屋を出ていくのを見送る。
「いい夢を……」
あどけないグレタの寝顔に告げ、テオドールも部屋を後にした。
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