発現④
今回はちょっと長いです。
ムタロウ達は山道をつたって南カマグラ山脈内へと入っていった。
山道は進むうちにやせ細り、中腹付近で道であることをやめていた。
日は傾き、周囲は急激に黒みを増していた。
空気は柔らかさを失っていった。
鳥たちは日暮れと共に歌うことをやめた。
虫たちが取って代わった。
か細い音色は断続的に流れ、沈黙し、世界の暗転が静かに始まっていた。
ムタロウ達はひとまず、山道の終点で野営することとした。
「日が暮れる。ここで休もう。」
「そうですね。お腹もすいたし。」
「ですね~。」
ムタロウは鞄から、4個の四角い金属の塊を取り出した。
「魔力吸蔵合金…珍しいもの持っていますね。」
「ほんとですね~。金持ちですね~。」
「昔一緒に行動していた仲間から貰ってな…ウィドウ、これに電蟲を押し込んでくれ。」
「ええ、そんなのやったことないけど…どうするんですか?」
「両手で持って掌に出した電蟲を押し潰す感じですよ~。」
「カンダモンダさん、猫のくせに物知りですね!」
「学者ですから~。」
ウィドウは、魔力吸蔵合金を掌に乗せ、もう片方の手で包み込み、「えいっ」と声をあげた。
包まれた手の内の影が、閃光放ち、ぷちぷちと音を立てた。
閃光と弾ける音に、虫たちは一瞬、鳴りを潜めたが、すぐに演奏を再開した。
ウィドウは残りの3つの魔力吸蔵合金にも電蟲を押し込んだあと、ムタロウに手渡した。
ムタロウは、魔力吸蔵合金を四方に置いて回った。
「ムタロウって、結構マメですよね。」
ウィドウの率直な感想にムタロウは口を少しへの字に曲げた。
「何でここに限って、そんなことするんですか?」
「ここが木に囲まれているからですよね~。」
「そうだ。よく分かったな。」
「何回も来てますから~。」
カンダモンダは、両手で顔を何度もこすり付けたあと、「くあああ」と大きな欠伸をした。
「どういうことですか?」
「これまで野営した場所は平地なので、周囲の様子が見渡せる分、比較的安全だった。」
「確かに、そうですね。」
「ここは四方を木で囲まれている。樹上から灰竜が襲ってくる危険性もある。」
「電蟲で侵入者を感電させるってことですよね~。」
「ああ~!なるほど。カンダモンダさん、ほんと、物知り!」
「夜は安心して寝たいですからね~。ムタロウさんの行動見てすぐ分かりました~。」
「夜も!ですよね!」
「はい~。」
ムタロウは二人のやり取りを尻目に、周囲に転がっている石を積み上げたのち、枯れ枝・枯葉を集め火を起こしていた。
◇◇
日はどっぷりと暮れ、墨で塗りつぶしたかのような闇が訪れた。
か細く鳴いていた虫もいつの間にか鳴くのを止め、音が途切れた。
時折、何かの呻り声が聞こえてきたが、それも長くは続かなかった。
四方に置いた魔力吸着合金の真ん中の簡易囲炉裏でムタロウ達は暖と明かりを取っていた。
「明日からが本番ですね~。」
「カンダモンダさんは、ここに来るの何回目なんですか?」
「今回で3回目です~。」
「あ、やっぱり初めてじゃなかったんだ。」
「そうなんです~。どういう訳か、護衛頼んだ人が途中で怒りだしてしまうんですよ~。」
「寝過ぎだからだ。」
ムタロウがぼそっと言った。
「そんなこと言われても~…」
カンダモンダは耳をしょぼんと下げ、顔を少し俯けた。
「あ、ところで、カンダモンダさんは遺構を探すと言ってましたけど、なんでですか?」
「あ~、言ってませんでしたね~。」
「はい。聞いてませんでした!」
「ナメコンドとカタイ・コンドの国境付近に、旧帝国時代の要塞があるって言ってましたよね~。」
「そこは聞いていますね~!」
ウィドウが口を尖らせてカンダモンダの口真似をした。
「旧帝国は、インカクを神として信奉していたんですよ~。」
「インカク?治癒の神か?」
「はい~。わたし、考古学者でありますが、歴史にもとても興味ありまして~。旧帝国が信仰していたインカクについても研究しているんですよ~。」
「旧帝国の要塞にいくとインカクの何がわかるんですか?」
「もし、要塞が手つかずであれば、当時のインカク信仰の一部でもわかるかな~って。」
「へえええ。」
◇◇
「そういえば、インカク神って殺されたんですよね?」
「そうなんです~。昔の人は本当にばかなことをしました~。」
カンダモンダは右手でしきりに耳をこすっていた。
何度も欠伸をしていた。
「そういえばそうだな。ムセリヌもオルガも居たが、インカクの名は聞かないな。」
「あれっ。ムタロウ興味あるんですね?この話。」
「何で殺されたんだ?」
「はい~。インカクは生の神ではあったのですけど、性にだらしなくて~。」
「性属性ですか!」
「はい~とっても美しい外見だったらしいんですよ~。」
「それでも、ですか。」
「はい~。言い伝えですと、下品な行動と言動を好むとかで~、旧帝国が分裂した時に殺されちゃったらしいんですよ~。」
「見目麗しいのに下品とか、おもしろいのに…」
「そうなんですよね~。真面目過ぎる人はいやですよね~…ちょっと寝るくらいいいじゃないですか~。」
「猫だから仕方ないですよね!」
「そうですよ~」
「…見目が麗しかろうが、婆だろうが下品な奴を嫌悪する気持ちは…分かる。」
焚火の放つ光でムタロウの顔に陰が出来た。
ムタロウの目は遠くを見つめ、口は不快そうに歪めていた。
「お婆さんでそれは嫌ですけど、美人ならばいいじゃないですか。しかも神だし。」
「人それぞれですが、今、治癒魔導士が貴重な原因なんですよ~。」
「ああ…おすそ分けできないから…ですね。」
「はい~。ほんと、よくないですよ~…」
カンダモンダは限界を迎えたようで、その言葉を最後に寝息を立てていた。




