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悪党狩り  作者: 伊藤イクヒロ
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発現①


ノーブクロ冒険者協会…所謂ギルドのメインホールをムタロウは蟹の様に歩きながら壁に貼られている依頼票を眺めていた。


「仕事する気になりましたか?」


「ん?ああ。」


ムタロウは顔を向ける事なく壁を見ている。


「じゃあ、また私と仕事をしましょうよ。」


ムタロウの動きがぴたと止まった。


「いや、遠慮しておく。」


そこで初めてムタロウは声の主に顔を向けた。


「何でですか?灰竜以来、全然じゃないですか。ムタロウとならば、安全だし。」


「お前・・・」


「ウィドウです!」


「どの口が言うのか。お前が安全とか言っても説得力がない。」


「だからウィドウです。それに、ここに貼ってある仕事、簡単で大してお金貰えないから、割のいい仕事やりたいんです。」


「そんな仕事あるのか?」


「ありますよ。あれ。」


そういってウィドウが指を指した先には「成功報酬200,000ニペス」と書かれた依頼票があった。


「高いな。」


「でしょ?やりましょうよ。」


ウィドウはムタロウの左腕を両手で掴み、受付へと引っ張った。


「カマグラ山脈の調査業務…?何を調査するんだ?」


「さぁ?なんでしょうね。お金・・・たくさん貰えるからッ・・・・やりましょうよ。」


微動だにしないムタロウを受付へ連れて行こうとしていたウィドウの身体が斜めに傾いていた。


「話を聞いてみるか。」


◇◇


ムタロウとウィドウはギルド職員に考古学者のカンダモンダに依頼内容の説明を受けるように指示され、カンダモンダの自宅に足を運んでいた。


「依頼票を見てきました。ぜひお話を伺いたいのですが。」


「おお、受けてくれるのですか!これは良い知らせ!良い知らせ!・・・まあ、こんなところで話す事でもないので、ささ、お入りください!」


「珍しいな・・・猫種なんて。」


「確かにそうですね、猫種はあまり人間のいる街は好まないのですが・・・でも、とっても嬉しそう。ふふ。」


「何でわかるんだ?そんなこと?」


「カンダモンダさんのしっぽがぴんと立ってるから。」


「あ・・・ほんとだ。」


部屋を案内するカンダモンダの尻尾は天に向けて垂直にぴんと立っており、ラフェールの指摘の通り、機嫌がよさそうに見えた。

ウィドゥは、カンダモンダの尻尾を見つめているムタロウの目をちらりと見た。


「猫、好きなんですね。」


「なぜそんなことを聞く?」


「顔に書いてあるから。」


「こちらにお入りください。狭いですが・・・」


「では、失礼します!」


ウィドウは両手を後ろに組んで、今にもスキップしそうな足取りで部屋に入っていった。

ムタロウはウィドウの後に続いて部屋に入った。


「いや~。本当に助かりましたよ。調査を引き受けてくれるなんて・・・・なんせ、カマグラ山脈は国境エリアだし、魔獣多いしで誰も引き受けてくれないから。」


「まだ依頼を受けると言ったつもりは無いが・・・・」


「え、そうなのですか?」


カンダモンダの耳がへにゃへにゃとしおれた。


「いえ、依頼票では南カマグラ山脈の調査としか書いていないので、何を調査するのかご依頼内容を伺わないと、私たちが出来るのか判断できないですし、カンダモンダさんにご迷惑を掛ける訳にはいかないですので。」


「あーーっ、それは失礼しました!あれじゃなにを調査するかわからないですもんね!」


「何分調査と言われても、得意な分野とそうでない分野がありますので。」


「何が得意なんだ、お前は?」


「あーーーっ、これはまた失礼しました!依頼票には調査と書きましたが、実際の処は私の護衛をお願いしたいんですよ。私見ての通り年老いた猫種なものですから、魔獣に襲われたら一巻の終わりですからね。安全に調査場所まで連れて行ってもらって、調査中は魔獣に襲われないように見張っていて欲しいんですよ。」


カンダモンダは、「お茶お茶」と言いながら席を外した。


「お前じゃなくて、ウィドウですから。」


ウィドウの整った眉毛が少し傾いていた。


「いや、申し訳ない。気が利かなくて~。」


カンダモンダは盆にのせた湯呑を持って部屋に入ってきた。


「猫舌なんですけどね、熱いお茶好きなんですよ~」


「猫ですもんね。」


「はい~」


「ところで、調査とは何を調査するんだ?」


「そうですね~。南カマグラ山脈のどこかに旧コンドリアン帝国分裂後に始まった内戦はご存じですか~?」


「ええっと、800年程まえのですか?」


「そうです~。南カマグラ山脈の奥地にどうも内戦時に使用したと思われる要塞があると聞きまして、そこに行きたいんですよね~。」


「という事は、調査をするのはあんたで、俺たちはあんたを魔獣から守ることが仕事という事か?」


「そういうことになります~。」


「なるほど。ならば大丈夫だな。」


「何が?」


「調査しろと言われても俺はおま・・・・ウィドウと違ってなにも出来ん。もし調査しろという話であったら断るつもりだったという話だ。」


「なるほどですね。・・・という事で、カンダモンダさん。私共は問題ないので、ご依頼受諾します。」


「ほんとですか~!うれしいです!よろしくお願いします!」


◇◇


「おい、ここにもあったぞ!フケノトウ!ここは多いな~」


「やっぱりあまたの見込んだ通りね!売上期待できるわ~」


「今日これで16本目だからな。いい臨時収入でおばあと、子供にプチ贅沢してあげられるな!」


「ほんと、お義母さんにはご迷惑を掛けてしまっているからね。たまにはお礼をしなきゃね。」


「全くだ。孫の世話を押し付けているからな」


「どうする?もう少し採って家に帰るか。」


「そうしま・・・・しょ・・・」


女冒険者は林立する木々の向こう側に対して目を細め焦点を合わせた。


「どうした?」


「なんかある。」


「フケノトウか?」


「いやいや、なんか建物ある。」


「は?こんなところに?ホントか?」


男の冒険者は、女冒険者の横に立ち、目を細めながら木々の隙間を凝視した。


「あ、ほんとだ、なんだあれ?」


二人の視界と認識に建屋が共有された。


「行ってみる?」


「行ってみよう!」


二人の冒険者は二人が見た建屋の方向に向かって歩き始めた。

道は整備されておらず、ところどころ雨風で表層崩落したあとや山体から転がってきた石が散乱しており、非常に歩きにくく、建屋に近づくのも難儀していた。


「なんだ?この建屋は?」


「見た処、昔の・・・軍事拠点・・・ぽく見えるわね、なんか厳めしい」


「ただ、この辺で戦争かというと、・・・なんかあったっけ?」


「いや、私の記憶ではないわ。」


二人は建屋の中に入っていった。


「財宝とかあったらうれしいな。母も子供ももっとまともな暮らしができる。」


「何買いましょうか?そうしたら?」


「まず家建てたあと、贅沢三昧だろ!やりたい事はたくさんある!」


建屋の中は、湿気っぽく、かつ、ひんやりとしていた。

二人は、嘗め回すように建屋内を見て回っていたが、だんだんと建屋内を歩く速度が遅くなり、やがて周囲にピンと張りつめた空気を出し始めていた。


「人がいるっぽいな・・・」


「え?ほんと?」


女冒険者は周囲を見回した。

額から流れ落ちた汗が床に落ちる音が聞こえた。


「・・・その通りですよ。」


突如二人の脳天に刃物の如く鋭利な声が刺さった。

二人は素早く抜刀し、襲撃に備えた。


「そんなに刺々しくしないでくださいよ・・・。」


部屋の奥からぼんやり影が浮かび上がった。

同時に二人の周りを影が取り囲んだ。


荒い息遣いが聞こえてきた。

鼻を刺す不潔な臭いが漂ってきた。

影は二つの赤い光を放っていた。


女冒険者は子供の行く末を考え始めていた。


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