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悪党狩り  作者: 伊藤イクヒロ
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発現②

南カマグラ山脈調査前夜。

ムタロウはムニューチンに招かれ、夕食を共にしていた。


テーブルにはペトーマンが腕に選りをかけた料理が花を散らしたように並んでいた。


「抗生物質はどうなんだ?」


「いい感じだ。溶液からの不純物取り出しも大分コツをつかんできた。」


「それはいいな。」


二人は、蝋燭の明かりが滲む朱鷺色の部屋でぎこちなくナイフとフォークを動かしていた。


「抗生物質の製造に目途がたつと、助かる人がもっと増える。お前のお陰だ。」


「俺は自分の為に動いているだけだ。俺の薬を作ってさえしてくれれば赤龍の鱗をどう使おうがかまわん。」


「そうさせてもらう。」


「ああ、それでいい。」


滲みがゆっくりとゆらゆら揺れる中、陶器と金属の接触音が心地よかった。


「クゥーリィーとラフェールとはいつ合流するんだ?」


「それは・・・あいつらの気持ち次第になるからな・・・俺にはわからんよ。」


「そうか・・・。」


「ん?何がおかしい?」


ムタロウはわずかに顔を前によせた。


「いや・・・初めて会った時のお前は、刺々しくて、距離があったからな。」


「ふん。」


「なんというか・・・さっき二人の話をした時のお前の顔がな。」


「・・・。」


ムタロウは無言でグラスに口をつけた。


◇◇


翌日、ムタロウ達一行は、ノーブクロを出て東に進んだ。

南カマグラ山脈に入るまではなだらかな草原地帯で、5月の穏やかな陽気のため、行程はのんびりとしたものだった。


「ウィドウさん~」


「はい。あそこの木陰ですね。」


「はい~。」


木陰はカンダモンダを誘う。

カンダモンダは尻尾を立て、陰に入り込んだ。

目を細め、両手で顔をぬぐっている。


「ムタロウ、イラつかないんですね。」


「何で俺がいらつくんだ?」


「なんとなく。」


ウィドウは組んだ手を天に向け伸ばしていた。

ムタロウは、今日何度目かの昼寝中のカンダモンダを見ていた。


「実際の処・・・あとどれくらいで南カマグラ山脈にいくのかな。」


「さあな。木陰次第だろう。」


ムタロウとウィドウはそういって、東の空に目を向けた。


「あれ、雨…降っていますね。」



◇◇


一行が麓に辿り着くころには、天気は悪化し土砂降りの雨が降っていた。

山脈へと続く道は雨水の通り道となっており、ぬめりのある黄土色の水が切れることなく流れていた。


「木陰様サマですね~」


「ベッドにも傘にもなりますもんね。」


「はい~。」


ムタロウは、二人のやり取りを鼻で笑っていた。


「なにか?」


「いや。」


ムタロウは口元に力を入れた。


「なんか聞こえますね~」


「え。何がですか?」


「人の足音です~。ひとりじゃないですね~。」


ウィドウはムタロウを見やった。

ムタロウは鞘から剣を抜いていた。


「抜いておけ。ただし、電蟲は零すな。危ない。」


「そうですね!」


◇◇


激しい雨のなか、戦闘は静かに始まった。

ウィドウの身体から漏れる電蟲がぱちぱちと小さな閃光を放っていた。

敵は豚種の顔を模した面を被っていた。

両手の短刀をだらりとさげている。


「なにか御用ですか?」


ウィドウは距離を詰めた。

電蟲の閃光が弧を描いた。

豚面はもんどりを打って転がった。


ムタロウは2人の豚面に挟まれていた。

両手の短刀をだらりとさげている。

コンジロムの刀身から水が弾け、白い煙が立っていた。

ムタロウは後方に跳びずさりながら、コンジロムを振った。

豚面は咄嗟に短刀を十字に交差させた。


「?」


豚面の視界は白く染まっていた。

次いで熱い湿気が顔全体を覆った。

白い幕の正体を考える前に後頭部から左目を灼熱のなにが通過した。

豚面が最後に見たものは黒と白になった。


ウィドウは距離を詰め、剣を振るった。

ウィドウの剣から三日月の電蟲が飛び出し、豚面に襲い掛かった。

豚面は姿勢を低くし、三日月を抜けると同時にウィドウの懐に飛び込んだ。

三日月の形が崩れ、電蟲が雨を伝って方々に散った。

同時に足の感覚がなくなる。

豚面は地に滑り込んだ。

豚面は雨水の深さを感じ意識が途切れた。


「あとひとりですね。」


「早いな」


「そっちこそ。」


残された豚面はじりじりと後退した。


「どうします?」


「決まっているだろ。」


「ですよね!」


二人は一歩前に出た。


「ひっ・・・!」




豚面が発した唯一の言葉だった。


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