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悪党狩り  作者: 伊藤イクヒロ
38/86

ラフェール①

同じ話を投稿しているミスを発見しました。

取り敢えず、直しましたが、ウトウトしながらの作業はいくないですね。

ミス多発。

 死霊街に入って初めての夜が明けた。

 徹夜で警戒をするつもりでいたムタロウもいつの間にか眠ってしまい、朝を迎えたのであった。

 

 「聖水と魔力吸蔵合金の組み合わせは本当に大したものだな。」


 ムタロウは、これら聖具の組み合わせによって結界内にアンデットの侵入を一切許さなかった事に感心した。

 初めはアンデットの結界内への侵入を警戒していたムタロウも、アンデット達が結界の壁に触れる度に触れた個所が焼け、のたうち回る光景を繰り返し見ている内に、緊張感が薄れ寝てしまったのであった。

 

 「しかし、これはすごいな…」


 ムタロウとラフェールは魔力吸蔵合金の回収に向かったが、ラフェールが聖具を使って作成した結界の向こう側は、おびただしい量の死体が折り重なって倒れていた。

 ムタロウは、円周に沿って歩き死体の数と状況を確認したが、結界の境界を境に死体が折り重なる事で、太陽を形をつくっていた。

 禍々しい太陽だった。


「ラフェール、この円周上にいるアンデット達で100体はは優に超えているぞ。取り敢えず聖光で焼いてくれ。」


 ムタロウは朝になり活動を停止して死体に成り下がったアンデットの数の多さに辟易しつつ、ラフェールに死体の浄化をお願いした。


「あいよ!」


 ラフェールは淡々と聖光の呪文(マントラ)を唱え、集まった死体を浄化していた。

 聖光で焼いている音・匂い・絵面は禍々しいという言葉がぴったりであったが、実際に処置をしているラフェールの表情に不快感や嫌悪感といったものは無く、寧ろ穏やかな表情であった。


「なんか…お前、嬉しそうに見えるんだが?」


 ムタロウは、探る様にラフェールに今の心境について尋ねてみた。


「うむ、こやつらは人に危害を加えるが、決して悪意があっての事ではないからの。楽になりたくて生あるものに縋っているだけなんじゃ。まあ、縋られた方はたまったもんじゃないが。」


「楽になりたい?だと?」


「そうじゃ。あいつらは肉体の生命活動は止めているのじゃが、魂が肉体に縛られてしまって、神の下に帰れず苦しんでいるのじゃよ。」


「神の下??」


「いいか、この世界の生あるものは皆、神様のお裾分けで出来上がっているのじゃ。魂も、そして魔導も。」


「…というとアレか? 神という器というか溜め池から零れたものが魂であり、魔導という事なのか? お前らの世界では?」


「そういう事じゃ。じゃから、この死体を浄化するという事は、朽ちた肉体に縛られた魂を神の下に帰らせるという行為そのものなのじゃ。わしは治癒魔導師じゃからな。わしにとってはとても意義のある行為なのじゃ。」


 ムタロウは、「ほぉ」と感心し、全ての死体が浄化されるまでラフェールの行動を眺めていた。

 2時間程して、全ての死体の浄化が終わると二人は準備を整え、セントコンドに向けて再び出発した。

 天気は昨日と同様に曇天で、かつ、森の中の道という事もあって、夕方のようであった。

 いつもぺらぺらと喋り続けるラフェールだが、この日はずっと押し黙ったまま、街道を進んでいた。

 

「なあ?」


「なんじゃ?」


 出発して1時間ほど経ち、無言でいる事に耐えられなくなったムタロウは、ラフェールに声を掛けた。

 特に、何かあったわけではなかったのだが。


「そもそもの話なんだが、治癒魔導と他の魔導とは何がどう違うんだ?お前はさっき魔導は神のお裾分けと言っていたが。」


「それはの、お裾分けする神がちがうのじゃよ。」


「神が違う?」


「そうじゃ。転移者であるお前も流石に分かっているとは思うが、この世の全てには神が宿っているのじゃ。神のお裾分けは、それぞれで異なる形を取っているのじゃよ。魔導にしても蟲に意志を載せる形もあれば、治癒魔導の様に、神の器から直接神の力を貰うものもあるのじゃ。」


「なるほどなあ。」


 ムタロウは完全な理解からは程遠いと自覚していたが、この世界の人々の宗教観については理解した。

 多神教の宗教観である事はなんとなく認識していたが、宗教は、元の世界では極力避けた方がよい話題であった為、転移先でもこの分野の話題には触れなかったのであった。


 こうして、昼は移動、夜は結界を作ってアンデットから身を守りながら一晩過ごす、朝になったら浄化するというスケジュールで旅は進んでいた。

 最初はアンデット監視の中、寝る事に抵抗があったムタロウもすっかり慣れ、禍々しい盆踊りの様子も落ち着いて観察するまでになっていた。

 

「こいつらも、よく見ると服装も違うし欠損してる者からそうでない者まで千差万別だな。」


「骨になっている奴も新しい古いあるしのぅ。」


「なあ、なんとなくだが…こいつら、お前の事を見ていないか? なんか、必死になっている様に見えるんだが。」


 アンデット達の視線は明らかにラフェールに注がれていた。

 アンデットは朽ちた肉体に縛られた魂が救いを求めて人を求めるというのであれば、彼らにとって惹き付けられる何かがラフェールにあるのかとムタロウは不快な擦過音をたてるアンデット達を見て思った。


「わしは眠くなってきたので寝る事にするわ。朝で魔導力をの大半を使うからのう。回復の為にもはよ寝ないと。」


 ラフェールはムタロウの問いかけには答えず、ゴロンと横になり、あっという間に寝息を立てていた。

 

「(ほんとにマイペースな奴だ。)」


 そう思いながら、結界の外を取り囲んでいるアンデットの光る眼の海の中で眠りにつくのであった。


◇◇


 朝、ムタロウはいつもの通り、結界の外側で折り重なる死体を見て回っていたが、折り重なる死体にある共通点がある事に気付いた。

 死体の様態である。

 死体は朝になり、魂の活性を失って崩れているのではなく、明らかに傅いていた。

 そこに崇める神がいるかの様に傅いていたのだった。

 ムタロウは、アンデット達の視線がラフェールに注がれていた事、それについてラフェールに何気なく尋ねた事に対してはぐらかされた事を思い出していた。

 

 「ムタロウ、何している?浄化を始めるぞ。」


 「お、おう。」


 ムタロウは、ラフェールのもとに駆け寄り、聖光の呪文(マントラ)を唱えているラフェールを見守っていた。

 結界に集まってくるアンデットの数は日に日に増しており大森林に入って1週間となるこの日は、300体は優に超える死体の数であった。

 辺りは形容しがたい不快な腐敗臭に満ちており、衛生上の観点からの身の危険をムタロウは感じた。

 ラフェールは、それでも文句ひとつ言わず、それが自身に与えられた当然の義務であるかのように聖光で浄化を続けていた。

 毎日毎日おびただしい量の死体の浄化作業を続けているうちに、ラフェールの魔力量は日に日に向上している様で、粗野で下品で下世話な話が三度の飯よりも好きな老婆の治癒師は神々しい空気を纏いつつあった。。


「(以前から素性のよくわからん奴だったが、この婆ァは一体何者なんだ?」


 ムタロウがラフェールの素性について何も知らない事を今更ながら考えた時、ラフェールの周辺の空間が歪み、バチバチとノイズが走り始めている事に気付いた。


「(なんだ?)」


 ラフェールの身体にノイズが走る度に、ノイズと重なったラフェール身体の中から光が漏れていた。

 ノイズは徐々に増えてゆき、ラフェールの身体をノイズで覆った時、ラフェールの身体は白い影のシルエットになっていた。


 ムタロウは、ラフェールの周囲に発生した現象に戸惑い、息をのんだ。


 白い影となったラフェールは、その光を加速度的に強め、そして、白い影は、縦に延びチリチリだった髪の毛と思しき影も伸び、影から確認出来る姿形だけを見れば、それは老婆のシルエットではなく、若い女性のそれであった。

 

 「ラフェール?」


 ムタロウが声を掛けると、白い影はムタロウの方を振り返り、にこりと笑った。

 少なくとも、ムタロウは白い影が笑ったように見えた。


「ムタロウ…まだ、早いよ。」


 白い影はそう言うと、指先から白い稲妻を飛ばした。

 白い稲妻はムタロウの額を直撃し、不意を突かれたムタロウは、そのまま意識を失っていった。


 白い影は、意識を失っているムタロウに近付き、ムタロウの頬を撫でていた。


 「ムタロウ…君はまだ私と出逢うには早いよ…この記憶は切り取っておくね。」


 ムタロウの頬を撫でていた手はムタロウの額に移り、白い影の指先に紫の光がパチパチと閃光を放っていた。


 結界の外で白い影の様子を見ていたアンデットは、決して流すことは無い涙を目に湛えて、白い影の下に向かおうと必死になって結界を突破しようとしていたのであった。

 











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