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悪党狩り  作者: 伊藤イクヒロ
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次の目的地

体調不良が続いており、ずっとお腹をくだしています。

ムタロウとテカールの戦闘があった日から一夜明けた。

イーブクロでは町を東に流れる川に魔人族の死体が石に引っかかっている処を、薬造区に向かっていた仲買人が見つけ朝から大騒ぎになっていた。

死体は四肢が切断され、背中には刀剣による刺突とみられる傷が6か所。

舌もまた切断されており、被害者と見られる魔人族が一方的に攻撃を受けた様に思われた。


一方、当の魔人族殺人犯は、何事もなかったかのように自宅でクゥーリィーの作った朝食を平らげ、呑気に食後のお茶を啜っていた。


「なんだかのぅ…。」


ラフェールが半分呆れた声を出していた。

あの日、ムタロウが二人に逃げる様に指示をした時、ラフェールはムタロウの苦戦を想定していた。

ムタロウと付き合いの長いラフェールがそう思う程度には、あの時のムタロウの表情は難敵に遭遇したと思わせる顔であった。


「魔人族を相手にして、格下の敵と同様の倒し方をするとは、お前さんの強さには呆れてしまったわぃ。」


一般的に魔人族は魔導攻撃と直接攻撃のバランスが取れている強力な戦闘民族と言われている。

彼らの得意とする攻撃は魔導攻撃と直接攻撃を組み合わせた複合攻撃であり、テカールも御多分に漏れず同様の攻撃をムタロウに加えていた。


「所詮は雇われで殺し屋もどきをやるような魔人族だ。思っていたよりも弱かった。」


ムタロウは事も無げに言い放った。


「しかし、相手は火線を2本同時に放った上で、火線の爪での直接攻撃をしたのじゃろう?並みの人間では避けられんぞ。」


「確かに魔導と直接攻撃の組み合わせは脅威だが、今回の相手は攻撃が素直過ぎた。恐らく、楽な仕事ばかりしていて強敵との戦闘経験が少なかったのだろう。」


「ほおお」


「そもそも戦闘中に、敵の呼びかけに簡単に乗ってくるわ劣勢である事を認めずに口上垂れて周囲の警戒を緩めて俺に背後を取られるわで、全くなってない。矯正委員会の連中も資質も見分けられない間抜けが多い。」


「やはり矯正委員会の差し金なのか?」


「ああ、流石に明確に答えるまでのアホではなかったが、問いかけた際の反応を見るに間違いない。」


「となると、奴らに目をつけられたという事は間違いないということかのぅ。」


「間違いないな。今回の結果を知って奴らがどういう対応をしてくるのか見ものだ。諦めるか、それとも、更に強力な刺客を送るか。」


「で、お前さんはどうするのじゃ?」


「俺か?俺はもうあいつら全員処理する事にしている。人間の屑の分際で正義を語っていたのが元々気に入らなかったが、向こうが危害を加えてきたからな。それ相応に責任を取ってもらわないとな。」


そう言うとムタロウは邪悪な笑みを浮かべた。


「ま、そうじゃの。」


ラフェールもまた同様に邪悪な笑みを浮かべた。


「しかし、その前にノーブクロに行かねばならん。デルンデスとかいう仲買人から医師の事を詳しく聞いたらすぐに出発だ。」


「それは分かったのじゃが、クゥーリィーはどうするんじゃ?」


ラフェールはクゥーリィーを見やりながらムタロウに問いかけた。


「クゥーリィーは…」


「……。」


クゥーリーは不安そうな顔をしてムタロウの言葉を待った。


「クゥーリィーには申し訳ないのだが、ノーブクロについてきてもらう。学校も4ヶ月目となって楽しい処申し訳ないのだが、矯正委員会が俺達をターゲットにしている事が明白である以上、1人にさせるわけにはいかない。すまんが、分かってくれ。」


ムタロウはそう言うとクゥーリィーにぺこりと頭を下げた。


「い、いえ、謝らないでください。わたし、置いていかれると思っていたので一緒に来いと言われて本当に嬉しいです。ブクロを出てから怖い事もたくさんあったけど、毎日ほんと楽しくて…」


クゥーリィーは言葉に詰まって喋れなくなってしまった。

その様子を見ていたラフェールは、トイレに行くといって席を立ってしまった。

ムタロウもクゥーリィーの反応を見て声を掛けようとしたが、声がうわずって言葉に詰まってしまったため、賑やかだった朝食の場は一転、しんみりとした場になってしまっていた。


程なくしてトイレから戻ってきたラフェールが、鼻をぐじゅぐじゅさせながら、朝食の皿を片付け始めたのでムタロウもクゥーリィーもラフェールに倣い、片付け始めるのだった。


◇◇


午後になり、ムタロウ達は商業区に出向き、同区内の宿に逗留しているデルンデスのもとを訪れた。

ラフェールが言うにはデルンデスは王都ナメコンドでも有数の大手仲買人であり、ナメコンド国内の都市は殆ど回っており、医師の情報はもとより各都市の情勢についても詳しいとの事であった。


「はじめまして。ムタロウ・チカフジという。俺の仲間のラフェールから話を聞いていると思うが、訳あって医師の転移者を探している。あなたの話では、ノーブクロに該当する者がいるとの事であるが、詳しい話を聞かせて欲しく、お時間を頂きたく参上した。」


ムタロウは普段とは異なり、余所行きの丁寧な物言いでデルンデスに挨拶をした。

そんなムタロウの態度にデルンデスは満足そうな顔をしたのち、ムタロウ達を見渡した。


「戦士と治療師と魔導師見習い…という構成か。魔導師は未だ若い様だが実戦経験の方は?」


デルンデスは経験豊富であると一目分かる二人とは明らかに雰囲気の違うクゥーリィーに興味を持った。


「はい、草原赤犬とブクロ亀を討伐した程度の経験でまだまだ未熟者です。」


自分自身十分に自覚はしているものの、他人から真正面に経験不足について尋ねられる事にクゥーリィーは居心地の悪さを感じた。

クゥーリィーは顔を真っ赤にしてうつむいていた。


「すまんな。そういうつもりで言った訳ではなかったのだ。私が見る限り、このお二方はあなたをとても大事に思っている様だ。不快な思いをさせてしまったね。申し訳ない。」


デルンデスは、自分の何気ない質問が若い魔導師の劣等感を呼び起こしてしまったことに気付き、慌てて謝罪をした。

そんなデルンデスを見て、ムタロウは、この仲買人が常識的な気配りが出来る大人であると思った。


「さて、ムタロウどの。先刻の医師の件であるが、ノーブクロに転移者がいることは間違いない。そして、その男は前の世界では医師だったと自称している。」


「どの医師はノーブクロで何をしているのですか。」


「ふむ。ノーブクロでは「さいきん」というものを死滅させるための薬の試作をしていると言っていたな。カビを使って薬を作るのだと言ってたが、どういう意味かさっぱり分からなくてな。」


デルンデスの話を聞いて、ムタロウは思わず身を乗り出してしまっていた。

カビを使って薬を作ろうとしている…となると、その医師は()()を作ろうとしている。

()()は、呪いを解く上で絶対に必要なものであった。


「デルンデスどの、貴重な情報をありがとうございます。その人は間違いなく転移者だ。今すぐにでもノーブクロに俺は行きたい。その医師の名前を教えてもらえないだろうか。」


「ああ、その医師は、ムニューチン・テロルと言ってたな。知っての通りノーブクロはカマグラ山脈に住み着く竜を狩る上での前線基地みたいなものでな。竜狩りに出かけて大けがして帰ってくるハンター達の治療をもっぱらやっているから、ノーブクロに行けばすぐ分かると思うぞ。」


「ありがとう。ムニューチンだな!早速ノーブクロに行ってみる事にする。」


ムタロウはデルンデスに対して心から謝意を伝えた。

そんなムタロウにデルンデスは好感を持った。


「なあ、ムタロウどの。おれもちょうどノーブクロに行こうと思っていたんだが、腕のいい護衛がなかなかいなくて、先に進めず往生していたんだ…。もし、よければうちの商隊の護衛をやってもらえないか?給金は勿論出す。」


デルンデスからの思わぬ申し出に面食らったムタロウであったが、ムタロウが口を開く前にラフェールが返事をしていたため、ムタロウが考える暇もなくデルンデスの護衛をしながらのノーブクロ移動が決まった。

いつものムタロウであれば、誰がこのパーティーのリーダーだと臍を曲げるのであるが、ノーブクロに希望を見出していたムタロウは、些細な事として心の中で瞬時に処理していたので、喧嘩にはならなかった。






















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