山頂にて②
前回半端に終えてしまったので、一気に書いてしまいました。
ムタロウは彼を取り巻く影に向かって一直線に走っていった。
影の主は獲物が真っすぐ走ってきた事に一瞬当惑し、剣を構えるのが遅れた。
その初動の遅れがムタロウによる一方的な斬撃を招いてしまった。
ムタロウ達を襲撃しようとした強盗団は全部で13人。
ムタロウが山頂に到着した時に野営の準備をしていた連中は皆、強盗団であった。
「鴨が葱を背負って歩いてきた」
強盗団はそう思った。
何せ、170センチ前後のさして特徴のない剣士と老婆、そして少女である。
カネと性欲の解消が出来ると皆、歓喜した。
悟られないよう、無関心を装った。
そんな鴨が、まさか自分達の脅威になるとは夢にも思っていなかった。
ムタロウはいつもの通り、敵の膝を狙って薙いだ。
ムタロウの剣の軌道は極めて正確であり、ひとたび剣を薙ぐと斬られた相手の膝から下は体から分離していた。
足の支えを失って立てなくなった身体は面白い様に地面にコロコロ転がっていった。
「てめえぇえええええ」
大声を出して先ほどの髭の面が戦斧を振り上げてムタロウに襲い掛かってきた。
強盗団の中でも怪力を自負しているのだろう。
身長程にある柄とその先に固定された刃の長さが60センチ程もある戦斧の重さでムタロウを叩き潰そうとした。
がきぃん
金属と金属がぶつかり合い、火花が散る。
髭の面は、戦斧による斬撃を5回程繰り返した。
その斬撃をムタロウは左手に持った剣で軽くいなした。
幾ら人間の中で怪力を誇っていても、豚種との戦いに明け暮れていたムタロウである。
豚種の斬撃に比較すれば人間の力自慢など大した斬撃ではななかった。
髭の面は6回目の斬撃をいなされた時点で体力消耗仕切っており、肩で息をしていた。
顔には焦りの色を濃くしていた。
「お前は後で聞きたいことがあるから今すぐ死ぬのは免除してやる。」
ムタロウはそう言うと風の速さで髭の面の後方に廻り、剣の峰で髭の面の後頭部に3回打ち込んだ。
髭の面が失神したことを確認するとムタロウはすぐさま他の強盗団のメンバーに襲い掛かっていた。
「一対一では不利だ、囲め!」
漸く自分達の相手の力量を知り、彼らは数の上での優位性を以てムタロウを倒そうとした。
「馬鹿が、当たるかよぅ。」
ムタロウは強盗団の現状認識力の無さに薄笑いを浮かべながら前後4人がかりで襲い掛かってくる敵の足元に滑り込んで敵の後方に回るや否や、2人の膝を切り落としていた。
そして、斬られた2人の敵が足の支えを失って倒れる事で、正面対峙した2人の敵の目を四突きし視界を奪ったのちに、先刻の2人と同様足を切り落としていた。
足を切断され痛みと恐怖で喚きたてている強盗団を確認したのち、鷲鼻の男を探した。
「貴様あああああ・・・」
鷲鼻の男は魔導師の様であった。
怒りで逆上し目が血走っており、自分たちを窮地に至らしめた敵に向かって呪文を唱えた。
「おせえよ。」
ムタロウは魔導を放つためにムタロウに向けられた鷲鼻の男の右手をやはり剣の峰で叩き落した。
鷲鼻の腕はおかしな方向に曲がり、皮膚からは白い骨が飛び出ていた。
鷲鼻はあまりの苦痛で転がりまわっている。
ムタロウは用心を兼ねて転がりまわった鷲鼻の鳩尾を蹴り飛ばした。
「全く酷いのぅ…少しでも怪我をして治療の見返りにムタロウのアレを触ろうと思っていたのに、相手が弱すぎて話にならん…」
ラフェールは心底がっかりした様子で、髭の面と鷲鼻の手足をロープで縛っていた。
戦闘が始まって10分強で、強盗団は髭の面と鷲鼻を除いて全員失血多量で死に絶えていた。
クゥーリィーは戦闘があまりにも一方的であったため、脳の処理がついていけなかった。
戦闘前のあの緊張ななんだったのだろうかと思う程に一方的であった。
数の優位とはなんだったのだろうかと思わざるを得なかった。
「おい、大丈夫か?」
ムタロウはクゥーリィーに声を掛けた。
ムタロウはクゥーリィーの身体が無事である事は分かっていたが、初めて見る殺人現場に精神的なショックを受けていないか、戦闘が終わってから気付き、今更になって心配になっていた。
「はい、問題ありません。この人たちを殺さねば私たちが酷い目に遭ったのでしょうからね。わたし、ラフェールさんが彼らを頭が悪いと言った事よく分かりました。あの時彼らは自己紹介をしていたのですね?」
「まあ、そういうことじゃのぅ」
分かってくれたかと嬉しそうな表情をラフェールはクゥーリィーに向けた。
「となると、先ほどあの髭の人と鷲鼻の人が言った事は、自分自身の経験を話したという事で、彼らは、これまでやってきた事を私たちに話したという事ですよね?」
人は怒っている自分の言葉に酔って怒りを増幅させてしまうケースがままある。
クゥーリィーはその状態に入りつつあった。
「そういうことになるな。こいつらはお前の言う通り、自己紹介をしていたのだ。」
ムタロウは淡々と答えていた。
「ならば、この2人もこの世にいるべきではないと思いますが、何故、殺さなかったのですか?」
クゥーリィーはムタロウに対して意図せず詰問していた。
何も落ち度がないのに理不尽にも強盗団に犯され、殺された人々の無念と自分の受けた体験とを重ね合わせる事により、彼女は内から湧いてくる怒りを抑えるのが困難になりつつあった。
「こいつらの背後関係を聞いた上でどうするか決めたいと思ってな。尋問を手伝って欲しいんだ、ラフェール、クゥーリィー。」
「わしも手伝うのか!わしは慰安専門だが…」
ラフェールはしれっと適当な返事を返す。
「分かりました!私にできる事ならば何でもやります!」
クゥーリィーも怒りにより気持ちが高揚しているせいか、普段よりも前のめりに返事をした。
「よし、分かった。じゃあ早速だが、この二人の服を全部ひん剥いて裸にしてくれ。」
ムタロウは淡々とした調子で二人に指示を出した。
「えっ?」
「えっ?」
ラフェールとクゥーリィーは図らずもほぼ同じタイミングで同じセリフを口にしたが、発する言葉は同じでも表した表情は対照的なのであった。
8月23日追記
ブックマークありがとうございます。
初めての経験でしたが、思っていた以上に嬉しかったです。