表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪党狩り  作者: 伊藤イクヒロ
PR
101/107

発現⑥

遺構は、フケノトウの群生地の先にひっそりと建っていた。

外壁は雨風で黒ずんでいた。

苔は泥緑の染みとなっていた。

フケノトウのドドメ色の花の絨毯が広がっていた。

生臭い臭いも広がっていた。


ムタロウ達は、遺構を眺めていた。

ムタロウは口を軽く開いていた。


「ここですか?カンダモンダさん?」


「はい~。これですね~。」


「なんか、臭いきついし、フケノトウの花が気持ち悪いし、いやだなあ…。」


「だめです~。」


カンダモンダは背を向け、右手でしきりに耳をこすっていた。

こする度に、耳がぴょんぴょん跳ねていた。

ウィドウはカンダモンダの耳を見ていた。


「…ムタロウのせいだ。」


ウィドウはムタロウの前を横切りながら、ぼそっと口にした。


「…。」


ムタロウはカンダモンダの隣に立った。


「あの中に、何か気配は感じるか?」


「はい~。なんかいるっぽいですが、それが何かはわからないですね~。」


「よし…行くか。」


「はい~。」


「ええ、いやだなあ…。」


「…行くぞ。」


跳ねる様に歩く者。

普段通り歩く者。

ドドメ色がない所を歩く者。

三人は、それぞれ遺構へと進んでいた。


◇◇


「思っていたより広いですね。」


ウィドウは天井を見上げた。


「誰か手入れしていますね~。」


カンダモンダは、膝をつき、石畳を見ていた。

扉が開閉する部位は艶を帯び、猫の輪郭が浮いていた。


「なんかいるとさっき言っていたが、魔獣ではないということか?」


「う~ん…そこがちょっとわからないんですよね~。」


「入ってすぐ、ホールなんですね。高いし、広い。」


ウィドゥは、突き当りまで走りだした。

電蟲の残光が尾を引き、静かに消えていった。


「通路ありますよ。どこから行きます?」


「通路は何個だ?」


「ええっと、正面に一つ、左右それぞれに3つですね。」


「他に分かったことは?」


「正面の通路の先には階段みたいなのが見えましたね。」


「左右の通路は?」


「真ん中の通路は階段があったかな・・・。」


「気配は?」


「そうですね…確かに、何かはいるんですけど…。」


「…よし、中央の階段に行こう…よいか?」


「全部まんべんなく廻れるならばどこでもいいです~。」


「行こう。」


ムタロウ達はホール正面の通路に向け進んだ。

背後から薄い粒子がホール内に注いでいた。

粒子はホール内に曖昧な境界を作っていた。

境界の向こう側は黒塗りだった。

空気は決して、薄い粒子に交わることはなかった。


「!」


鼓膜から首筋を這う不規則な音が動いた。

境界は消えた。

黒塗りになった。

つぅ・・と、金属音が響いた。

遅れて火蟲と電蟲が瞬き、ムタロウとウィドウが浮かび上がった。

カンダモンダはウィドウの背後に隠れた。


黒塗りの中から、赤く、丸い光が浮かんだ。

赤い丸が上下に揺れる度に、金属が擦れる音がざわめいた。


「なにか見えます?カンダモンダさん。」


ウィドウが首を動かし、カンダモンダを見た。


「でっかい盾を持った豚種に囲まれていますね~。」


「えぇ…何匹います?」


「うーん…たくさんですね~・・・あ、後ろに槍持った豚もいますよ~。」


「うわぁ…。」


ウィドウは口を半開きにして、吐き出す仕草をした。


「すぐ跳べ…早く跳べ!」


ムタロウの怒鳴り声が割り込んできた。

ウィドウとカンダモンダは上方へ飛び跳ねた。

二人が立っていた場所に向け臭気を伴う空気が押し寄せてきた。

続いて、金属同士がかち合う音が破裂した。

音の方向を見た。

盾を構えた豚がいた。

円陣を組んでいた。

そのまま突進し、空間を潰していた。

槍を構えた豚種と目が合った。

豚種はウィドウに槍を突いた。

ウィドウは目をつぶった。

前方で何かをはたく音がした。

目を開くとカンダモンダが槍をはたいていた。


「ありがとう!」


着地と同時にウィドウの全身から電蟲が噴き出した。

髪の毛は扇状に広がっていた。

ウィドウの背後の白黄の粒子がはじけ、ぱちぱちと音を立てて消えていった。

槍持ちの豚種の後頭部にウィドウの剣が刺さっていた。



宙を跳ねたムタロウは、空中で海老反りの体制をとった。

背中を槍が掠めていた。

海老反りの姿勢で着地したムタロウは尻餅をついた。

ムタロウは横に転がった。

槍と石畳の床が接触する音が響いた。

態勢を整えたムタロウは床を蹴った。

肉が切れる音と共に、豚種の喉笛に剣がめり込んでいた。

剣と肉の境界から泡が湧き出していた。

豚種の赤い目は光を失っていた。


反撃を受けた豚種は狼狽していた。


「ボウスイ!」


脳に刺さる高い声が響いた。

豚種は、紡錘陣形を取った。

先頭には槍を構えた豚種がいた。

槍の先にはムタロウがいた。


ムタロウは床を蹴って前へ進んだ。

槍の間合い寸前で前転し、ウィドウと接触した。


「あぶないです~。」


「どうします?ムタロウ?」


ウィドウの声は普段より高く、かすれていた。


「通路に走れ。」


「え、どうして?」


「いいから走れ!」


ムタロウの怒鳴り声が響いた。

カンダモンダの尻尾は倍の太さになった。

ウィドウはカンダモンダの手を引いた。

二人はホール横の通路へ走った。

二人を見届けた後、ムタロウも通路へと走った。


通路はすぐに突き当りだった。

左に曲がると行き止まりだった。


「逃げ道ないですよ!」


ウィドウの額に水玉が噴き出ていた。

カンダモンダの両耳は後ろに寝ていた。


「ああ、そこで待ってろ。」


ムタロウは突き当りに立った。

左肩を前にだした。

右足を2歩後ろに引いた。

ムタロウの鼻腔が大きく開いた。

ムタロウの胸が膨らんだ。


ムタロウの前に豚種が襲い掛かった。

黒みを帯びた赤い目だった。

捕食者そのものだった。


ムタロウの周囲が熱を帯びた。

口元は歪んでいた。

目尻は吊り上がっていた。


「じゃあな。豚。」


ムタロウはコンジロムを振った。

通路を埋め尽くす火蟲の束は豚種を飲み込んでいた。

断末魔の叫び声が一瞬、もれた。

蒸発音がもれた。


臭いは通路を満たした。

カンダモンダの鼻先は伸びていた。


「え、ここで、それ?」


ウィドウは目を大きく見開いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ