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三月賛歌夢現  作者: 朝霞ちさめ
第二章 サトサンガのアルテア
37/151

37 - 想像力と妄想力

 ――朝。

 目を醒まして船の上だと思い出し、窓の外からは活気に満ちた港の音が聞こえる。

 ベッドの上でちょっとだけ身じろぎして、しかしベッドから降りることなく『遠隔音声伝達』が受信していた音を再生。


『ホウザの大火について、もう少し詳細が知りたい』


 サムからの伝言はただそれだけで、つまりそこがサムにとって引っかかったのだと判断。

 眼鏡の『情報保存』に残しておいた瓦版の内容をそのまま音読し、それを瓦版の内容だと告げた上で遠隔音声伝達でサムに投げると、すぐにサムは返事を返してきた。


『ホウザはアカシャから少々遠いからな、こちらではあまり情報が把握できていない。だがホウザといえば、人口は三千を超えたはず。しかもその地方単位での大火となるとその被害は甚大の一言だろう。鎮火も国家事業になるほどにな。だが、だからこそそれは妙だ。なにせアカシャにはその火事の情報が一つも入っていない。今し方こちらでも裏取りと調査をするよう騎士に指示を出した、何か解れば伝えよう。貴様はご隠居との面会を優先してくれ、その上で貴様の判断で、天秤が大火に向いたならばホウザに向え。恐らく何かあるぞ。不死鳥に近しい何かがな。魔狼とは少々違う、とは思いたいが……』


 それは後回し容認というより、たとえ情報にない事だとしてもそれ以上に今はご隠居と会うことを優先しろという指示として受け取る方が正しそうだ。

 了解の旨を改めて返事しつつ、サムから急ぎの指示や連絡がないのを確認してベッドを降りる。


 時計は九時を指していた。

 後三時間で出航だ。


 魔法で水を作って顔を洗い、すっきりしたら着替えを持って部屋を出る。

 と、扉を開けてすぐの所に小さな籠が置いてあり、籠の中にはメモ書きと、今日付の瓦版が入っていた。


 メモ書きには……、『瓦版を読む坊主は珍しい、だからサービスだ バリス』と、流暢な文字で記されている。

 妙なサービスを受けたものだ。


 けれど確かに有り難い。瓦版は受け取って部屋の中、机の上に置き、メモ書きには『感謝します アルテア』と書いて籠に戻して、……籠はどうしようかな?

 置きっぱなしというのもなんか変だよな。

 まあ、朝風呂ついでに誰か船員を捕まえよう。


 ということで籠と着替えを持って部屋を出て、そのまま水場へ。

 特に誰ともすれ違わないという問題が発生、まあ帰りでも良いか……。


 先にトイレを済ませて、スッキリしたところで水浴び場。

 置場に着替えと籠は置いておき、中に入って服と靴を脱ぐ。

 朝なので軽くシャワーでいいだろう、『魔力のお湯』をシャワーっぽく、一定時間発生させる形で魔法を行使。

 ついでに脱いだ服も洗濯して……っと、五分ほどで満足したので解除、外に出たら着替えを纏い、洗濯を終えたものと籠を持って水場を出――


「おっと、ごめんよ」

「いえ。ああ、むしろ丁度いい。すいません、バリスさんにこれを渡してくれますか?」

「うん? 籠?」

「はい。今朝瓦版を頂いたんですが、その時のものです」

「ふうん。解った、すぐに渡しておくよ」


 ――たところで船員さんとぶつかりかけたので、そのついでに籠を託す。

 ミッションは無事にコンプリート、船室に戻って扉には鍵を掛け、ロープに洗濯物を干しつつ丸椅子……、やっぱり背もたれが欲しいな。

 無い物ねだりをしてもしょうが無い。

 ベッドの上に登って座り、壁を背にして背もたれ代わり。


 いざ瓦版を読んでみると、内容はだいたい次の感じ。


 クラにおいてまたも政変の兆し、特派員の手記。

 北部漁業組合、冒険者ギルドに対して協力を呼びかけ続く。

 東部ハーザ区で咳喘息に似た症状の病が流行、予防策の周知。

 プラマナ国王よりサトサンガ冒険者ギルド所属の冒険者に勲章授与。

 南西部軍事情報の一部をリークしたとしてサトサンガは軍幹部一名を処分。

 不死鳥素材の暴落について、サトサンガ政府の発表。

 ヘレン・ザ・ラウンズ"サトサンガ"による無礼討ちについて、サトサンガ冒険者ギルドの公式声明。


 最も紙面が割かれているのはクラという国の政変について。ただしこの記事はあくまでも特派員の手記という形が取られており、必ずしも正確性が保証されないとも捕捉されている。なのに最初にコレを持ってくるのはニュースバリューだろうか?

 次に北部漁業組合という組織について。これは前回の続報だな、ただ、前回は模索する形だったのが、今回は呼びかけを続けているという旨だから、恐らく反応は悪いのだろう。


 で、流行病。これはちょっと気になる情報だな、咳喘息に似ていると言うことは……アデノウィルスとか? ただの病気か? それとも……。

 プラマナから勲章を受けたサトサンガの冒険者は名前を書いてから出直して欲しい。古の黎明じゃああるまいし。

 南西部に派遣された盗賊討伐を目的とした軍の行動はどうやらリーク情報だったらしく、それによって軍幹部が一人処分された。降格の上罰則金と謹慎だそうだ、これだけでは重いのか軽いのかが解らないな……。


 不死鳥素材の暴落はアカシャの公的買い付けが原因らしい。……暴落? なんでだろう、暴騰するほうがわかるけど……と思ったら、世界正義という大義名分を持っていたアカシャの買い付け額はそもそも相場と大して変わらなかったんだそうだ。なのにも関わらず数が表に出てしまい、実質的な値崩れを誘発したそうで。結構しまい込まれていたらしい。

 で、最後にヘレン・ザ・ラウンズという冒険者が人を殺したという事件について、冒険者ギルドが公式声明として、ヘレンの行動をギルドとして謝罪し、しかし正当性を主張。ヘレンが殺害した人物は奴隷商人だったようだ、その上で冒険者ギルドとして『違法性の高い取引』を見逃すことは容認できなかった、と釈明している。


 なるほど、ホウザの大火について全く情報が書かれていない。

 ……よっぽど知られてはまずい状況ができているのだろうか?

 例えば未だに鎮火できていないとか。いやそれはないよな。


 サムの読みでは不死鳥もしくはそれに類する何かがそもそも関連しているわけで、となるとそれの討伐を隠したい?

 それは十分あり得るだろう、アカシャだって内緒で二匹狩っていた。同じような事をサトサンガが目論んだとしても責めることは出来ない。

 けれどだとしても、もうちょっとやり方はあるだろう。急に情報を隠すというのはむしろ好奇心を誘ってしまう。あまり関係のない僕はもちろん、噂話をしていた船員さんがそうであったように、ホウザの周囲に知古の人物がいる者は尚更に。

 それでもあえて、隠した方がメリットになると判断されている……。


 …………。

 案外、事件は繋がってるのかもな。

 ヘレン・ザ・ラウンズが無礼討ちをしたという奴隷商人が、仮設城砦の破却時に暴動を起こすように煽動していた。その暴動の結果奴隷商が潤った事は冒険者ギルドもサトサンガという国家も理解していただろう、何らかの手を打つ必要があり、ヘレンがその伝令役を任された。

 そしてヘレンは奴隷商人とやり取りをする中で、仮設城砦の破却を端にした暴動によって奴隷となった者ではない、大口の取引を発見した。その奴隷達を何処で仕入れたのかをヘレンが追求したとしても奴隷商人は答えないだろう。


 だからこの先は完全に推測、憶測、想像どころか妄想の域だ。

 ひょっとしたらホウザの大火も奴隷商人が仕掛けたんじゃないだろうか?

 奴隷商が火を付けた、とまでは言わないけれど、火を煽るくらいのことはしたんじゃないか……鎮火を妨害するくらいのことはやらかしたんじゃあないか?

 それで大火の被害者を多く出させ、被災者を助けるフリをして奴隷として仕入れた。

 もちろん、そんな方法で仕入れたとバレた日には流石に国が処罰をするだろう、だから仮設城砦の破却に伴う暴動を利用した……。


 ヘレンが無礼討ちにしたのはその当たりの事情を知ったから……、は、無いか。

 けれど案外、こういう形で事件が繋がっていてもおかしくない。

 そしてもしも僕のこの妄想が正しいのだとしたら、サトサンガにおいて最大の問題は盗賊団ではない、その盗賊団からさまざまな物品をそして人を買い、売るという奴隷商人なのではないか。

 つまり、南西部に派遣された軍は盗賊を討伐する目的だというリークとそれに伴う処分さえもカモフラージュで、実は奴隷商人の拠点を叩こうとしている、とか……。


 その辺の想像を軽く纏めてサムに送ると、サムは十分ほどしてから返事を寄越した。


『貴様は想像力が豊かだな。……だが、確かに絶対にないとも言い切れん。奴隷商か……サトサンガらしいといえばサトサンガらしい問題だな。貴様からの報告と妄想はきっちり切り分けて調べさせることにする。他にも何か解ったら教えてくれ。……それとこちらからも一つ、渡すべき情報があるようだ。どうやら例のご隠居だがな、今はハインに居ない可能性がある。こちらで掴めている情報はご隠居の家にご隠居がいない状態が四十七時間続いたということだ、それ以上は残念だが……現地で貴様が調査してくれ。ついでにどうしていたかとかも合わせて報告してくれると有り難い』


 一つ情報をくれるというからご褒美かなと思ったらら、追加の要求が二つ三つされた。

 なんか狐につままれたような気分だ……。


「坊主、ちょいと良いかい」

「あ、はい。今鍵をあけます」


 そしてそんなところでバリスさんが尋ねてきた。

 ベッドから降りて扉に駆け寄り、鍵を開けて扉も開ければ、バリスさんが少しかしこまった様子で僕に言う。


「もうすぐ出航まであと一時間と少し。現時点で坊主以外の客が三組手を挙げた」

「三組ですか」

「ああ。三組、合計四人だな」


 つまり一人でが二つと二人組が一つか。


「面通しをしたいんだが、今時間はとれるかい」

「はい。バリスさんに頂いた瓦版を読んで、いろいろとあること無いこと考えてただけで、割と暇ですから」

「そりゃ良い時間の使い方だな。じゃ、付いてきてくれ」


 バリスさんに言われるがまま、付いていく先は……あれ、下じゃなくて上?

 ということは他のお客さんは今、甲板に居るのか。


 案の定、甲板に出るとそこには見慣れない、そして船員とは違った服装の四人がいた。


 一人は若い男性、斧を背負い鎧を着ている。冒険者だな。

 一人は妙齢の女性、剣を下げてはいるけれど、鎧は形式的なもの。軍かな?

 二人組の片方は男性、大分若い。特に装備らしきものはないように見える。

 二人組のもう片方は女性、こちらも若い。こっちも装備は無し。

 どちらも人畜無害って感じだ、観光目的でこの船を使うとも思えないし、ハインに上京目的か、あるいは商人側の人間だろう。


「待たせた。昨日の時点でこの船の行き先をハインと指定したのがこの坊主だ。あなたがた四人も契約者ではあるが、この船はまず坊主を最上級のお客様として迎え入れている。四人はその下になることは先に説明したとおりだが、問題は無いか? 心変わりをしたならば降りてもらって構わないし、問題が無ければ一応名乗り、前金を払って貰う」

「僕はもうお金を払いましたけど、名乗りはした方が良いですか?」

「そうだな、坊主。頼めるか」

「はい。僕はアルテア・ロゼアです。ノウ・ラース地方の出身で、ワケあってハインを目指しています」


 そんな自己紹介に、真っ先に反応したのは妙齢の女性。

 剣を鞘にカチンと固定してから、丁寧な動作でその場に跪くような素振りを見せた。

 ……なんで?


「サトサンガ、第二方面軍は軍略所次席。オーサです。この度は船の手配に困っておりまして、感謝をさせていただきたく」

「文字通りの助け船になったならばよかった。けれど、そんな素振りを偉い人がしてもいいんですか?」

「意味も無くすればその行為そのものに価値が失われましょう。しかし意味があるならば……アルテア殿。あなたには感謝があるのです、何も問題はありません」


 そんなものなのか。

 まあいいや。

 で、次は若い男性。


「サトサンガ冒険者ギルド所属、ウグイだ。ハイン行きの客船に乗るつもりだったが、こっちのが早いと聞いてな、便乗させて貰った。悪いな」

「いいえ。僕一人を運ぶためだけに船を出すのも勿体ないというのは真実です」

「言えてるか」


 そして最後に、二人組。


「おれはユージン。こっちはテイカ。交易商見習いだ。今回はこの船に交易品を乗せさせて貰って、ハインで売るつもり」

「とても有り難く便乗させてもらうわ。私達が船を出して貰うとなると負担額が全然違ったから……」

「そうですか。ラッキーでしたね。商売には幸運も重要ですから」

「ああ」


 やっぱり商人か。

 ……ただ、なんかこの女性の方は微妙に真偽判定が通りにくいな。

 ハルクさんほどじゃないけど……、何か裏があるとか?

 うーん、断定できるほどでもない……か。


 内心はさておいて、四人はそれぞれに前金をバリスさんに渡してゆく。

 契約は成立した、と言う事のようだ。


「それでは改めて。本日十二時ジャスト、出航を行う。目的地はハイン港――最短で三日、天候次第では四日、五日ほどかかる可能性はある。それを踏まえて食糧が不足していると考えたならば今からでも買い足してきてくれ。ただし、船内でも食糧の販売は行う――少々割高になるし、お世辞にも美味くはないからおすすめはしないぞ」


 旅は道連れ世は情け。

 船旅だけど、大体似たようなものだろう。


 仲間ではなくても、友達みたいになれたらいいな――学校とか友達になれるとも思えないけれど。


 そんな僕の思惑がどうであれ。

 船はいよいよ、港を離れる。

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