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Epilogue

「生きてるかぁー?」

「なんで、絶対死んだと思ったのに」

「不思議なものだよな、出られそうか? ああこれ、車の頭から地面にまっすぐ突き刺さってんのか」

「竜巻に持ち上げられたら、ハンドルいくら切っても意味ありませんね、当たり前か」

「当たり前だな、ふん」

「フロントつぶれてますよね、これ。あーあ、もう動かないのか」

「このスクラップの中からどう脱出するかって議題のほうが先じゃないか?」

「揺らせば元に戻るんじゃ」

「衝撃で引火とかシャレにならねえ。慎重にやろうぜ」

「はいはい」

「……」

 ぎぃ、どさっ。

「いてっ」

「だっせえな」

 どさっ。

「これくらい降りられなくてどうするよ」

「こういうこと得意なのは彼女の方なんですよ」

「憎たらしいくらいカラッと晴れていやがるな」

「ここどこでしょうね、あたり一面赤土しかないや。火星って、もしかしたらこんな感じなんですかね?」

「山があるぞ、あっちの方」

「ああ、ほんとだ。言われると目立つ」

「いつも見ていたときよりずっと大きいから、遠ざかる方に歩けば多分、ハイウェイに出られる」

「よくそんなにぱっぱと判断できますね。じゃあ、通りすがる車にヒッチハイクでもして荒野から脱出するってことですか。嵐は過ぎ去ったみたいですし」

「いいや。街も壊滅しているだろうにわざわざ行くやつがいるとも思えない。そもそもヒッチハイク自体、男二人じゃ厳しいだろ」

「緊急車両系ならガンガン駆けつけていそうですけど」

「あいつらが一番ガードがっちりしてるよ。ま、歩けばそのうち着くだろ」

「本気ですか」

「死なないんだから、それでいいだろ」

「野宿とかする羽目になりませんか?」

「……」

「……」

「……」

「イツキは、生きているのかな」

「むしろ俺たちが生き残っていることが有り得ない事態だぜ、今」

「分かんないじゃないですか」

「死んじまうのは愚か者のすることだ。そして、ガキは他に方法もないのに俺についてこなかった。それはつまり、店長と一緒に死にたい、とかそういうヤツなんだろ? それにしても村から連れ出しても、誰かに預けても、結局なにもかも裏目に出てばっかりだな」

「じゃあ、なんでわざわざ自分の車あるのに俺の車に乗り込んできたりしたんですか」

「うるさいな、鍵がなかったんだよ単純に」

「思いっきりドア開けて、なにか細工していたじゃないですか。声掛けようとしたらガン飛ばしてくるし。大切な娘さんだったんでしょう?」

「うるせえ、愚か者には死を、だ。例外はない。死にたがっているヤツを無理やり止めようとすると袖を引かれてろくな目に遭わないからな。あとミマ、お前だってあのヒステリー女、酒場に置いてきてよかったのかよ」

「嫉妬ですか?」

「無視すんな。あと、どの辺がどう嫉妬だ言ってみろ」

「自分の娘は死んだことにしているのに、人の心配はまるで生きているみたいにするんだなって」

「たまたまだろ」

「じゃあ聞きますけど、あいつがなにしたかったのかって分かります?」

「やることなすことすべて余計で、なおかつうるさい女、ってことなら分かるが」

「ですよね、オレにもよく分かりません。でも、俺と一緒に逃げることよりずっと大事ななにかが、イツキにはいつも見えているんです。だからオレはそれを邪魔したくない。それにあの子は俺がいないと一歩も生きていけないってわけでもないんで」

「嘘吐け、あんなの一人じゃ絶対生き残れないだろ」

「一人になったら、そのときはそのときでうまくやるんですよ。イツキはそういう子です」

「見殺しにした後ろめたさを美化して忘れようたって、そううまくは行かないぞ」

「なんでそんな未練たらたらなんですか。なにか昔あの子とありました?」

「それ以上詮索したら、お前もここで殴り殺して荒野の蛇の餌に置いていくからな」

「勘弁してくださいよ、そういう脅し。ああ、ハイウェイに着いたらどっちの街を目指すんですか?」

「お前たちはどこ目指して車を走らせてたんだ?」

「遠くです、遠く。嵐もなにも来ない楽園みたいな場所ですよ」

「それ、彼女の前で言わなくて正解だな、この上なく気色悪い」

「もう言いましたって言ったらどうします?」

「お前の所の彼女を憐れんでやればいいか?」

「冗談ですよ。行き先なんて決める暇ありませんって。死なないためにとりあえず街を出るか、くらいにしか」

「……」

「なんで黙るんですか」

「とりあえず、酒場を目指してみるか。案外頑丈で残っているかもしれない」

「お父さんの車に乗って、みんなで脱出したんじゃないんですか?」

「分かんないだろ」

「そうだったら目覚め悪いですね、そのままそこにいれば生き残れたはずなのに、自分のせいで生死不明に」

「茶化しているが、もしそうだったら、お前の所のも俺のせいで死んだことになるんだぞ?」

「そうだったら、イツキとはそこまで、ってだけですよ。逆に、ここまでして追いつかれたら、今度こそあきらめがつきます」

「薄情な野郎だな」

「やっぱり嫉妬してますよね? 薄情になればいいじゃないですか」

「お前に希望はないのか?」

「スルーしないでくださいよ」

「……」

「分かりました、怖いですって」

「質問に答えな」

「生きる希望は持ち合わせてますけど。お父さんにはないんですか? そういうの」

「そんなものがあったらそもそも生き残れてねえよ、幻だそんなの。俺はただ、馬鹿は見たくないってだけだ。愚か者には死が。回避した者には死以外のすべてが。で、オレの話は別にいいんだよ、なにか今からしたいことはないのか、ってそういうつもりで聞いたんだよ、俺は」

「別になんでも。風任せで、それでもまたイツキとめぐり会えればうれしいな、ってそれくらいですよ。俺が考えていることなんて」

「じゃあ、とりあえず酒場に向かうか。建物が残っていて誰もいなかったらそのときは、俺を信用したあいつらが悪いってことにするさ」

「そのあとはどうするんですか?」

「そのあとってなんだ」

「酒場で他の誰とも出会わなかったら、どうするつもりですか」

「それ、俺に聞くか?」

「だってもう言いましたもん、俺は」

「…………どうすりゃいいんだろうな?」

「ないんですか。なにも」

「ああ。まあ、着いたら」

「……分かりましたよ、言い出したことはやめません。これも風任せの一種だと思ってついていきます」

「今度はお前か」

「何か言いました?」

「いや、好きにしろ」

「……」

「……」

「……」

「……」

 男どもは黙っている。

「……」

「……」

「なあ、おい」

 そのうち片方が立ち止まり、手を挙げる。

「なんですか」

「見えるか、あれ」

 声が狼狽している。

「いちいち立ち止まってたら着くものも着かないですよ」

「いいから」

 緊迫した声に、立ち止まらなかったほうの男は眉をひそめる。

 それから、指さされている先を見ようと顔を寄せる。

「ああ、車が突っ込んでますね、崖に」

「……」

「だからどうしたんですか」

「俺の車だ」

「……じゃあ」

 二人は見つめ合う。

「いや、見間違いですよ。そうじゃなくてもあの中にイツキは乗ってません」

 かすかに風が吹く。

「本当に、そう思うか?」

 男が重苦しく言うのに合わせて、微風は、嵐を思わせる突風になる。

 油断したその瞬間、荒野の砂にまぎれ、私は晴れ渡った空に舞い上がる。

 ミマが一瞬で遠くなる。

 ハイウェイから外れ、どちらからともなく駆け出す二人が見える。

 あっという間に駆け寄り、埋もれた車の窓越しになにか叫んでいる。

 私はなすすべなく飛ばされる。

 雲に吸い込まれて、ユイドラもイツキもミマも、誰も見えなくなる。

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