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嘘つき魔術師  作者: その他大勢
第七章【転生者達のレクイエム】
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M-04

 リリアの赤い魔力が拳に集束していく。その拳に圧縮された魔力が爆発するように噴出し、まるで燃え盛る炎のように揺らめいていた。

 身体能力飛躍的に向上させる魔術師の基本技法の一つである『強化』のその進化型である『魔魂』。今では失われた技法ではあるが、今これを使えるのはメルが知る限りではユウとリリアだけだ。

『魔魂』を纏ったその拳で、リリアは思いきり黒ローブの男性に叩き込む。

 火属性の『強化』は攻撃力が爆発的に上昇する。それが『魔魂』なら尚更その破壊力は増す。

 大抵の魔術師ならこれをもろに受けただけでグロッキーになるはずだ。

 しかし──。

「なっ……!?」

 リリアが撃ち込んだその拳は簡単に男性の手のひらで止められていた。

 その手のひらには黒い魔力が付与されている。

 黒色の魔力がやがてリリアの赤色の魔力に侵攻し、その直後ガラスを割るような音がつんざいてきた。

 リリア付与した魔力が一瞬のうちに消されている。

 これはユウと同じ『闇属性』という物なのだろう。

「リリア! 下がって!」

 一瞬の勢いで魔力を練り合わせ、魔術を構築し素早く放つ。

『氷圧 連射-fetire glacies volvite-』。

 通常の『氷圧』の単発とは違い、こちらはそれの文字通りの連射版である。

 まるで勢いよく落下する雹のように、男性に頭上に降り注ぐ。

 ただいくら中級魔術だとしてもこれを何発も受けきれる事が叶わない程の破壊力を持つ。

 しかしあろうことか、その男性は軽い身のこなしで落下する無数の氷塊を躱していく。

 一発一発を正確にだ。かすり傷さえつかない。

「深紅に輝く爆炎 其れは紅き女神の脅威なる怒号 怒りに触れた者に業火の鉄槌を ──爆ぜろ」

 男性が氷塊を躱しているうちにリリアが高速詠唱を行う。

 一つの氷塊を躱すために男性が少し後ろへ跳ぶ。

 その隙をリリア見逃さなかった。

「爆炎の園-eruptio-」

 一際大きな爆音が轟いた。

 吹き荒れる熱風がメルの肌をチリチリ炙っていくような感覚がする。

 爆炎は煌々しく真っ赤に燃え盛り、捕らえた男性をその炎で呑み込んで延々と燃やし続けていく。

 ──えっ!?

 だがその炎が突如として音を立てて砕け散った。炎が消えて無くなるとかというものではない。

 それがまるで薄い鏡だったかのように、無惨に粉々にされていた。

「なんなんだよコイツ……!」

 リリアの声が震えているように感じた。

 今にして思えば、こうして闇属性の魔術師とちゃんと戦うのは初めてのような気がする。

 メルもリリアも闇属性の特徴はまだ手探り状態であるといえる。

 まず身近にいた闇属性の魔術師がユウしかいなかったし、ユウ自身も己の属性について多くは語らなかった。

 ただわかっていたのは、相手の魔術を破壊するためにはそれなりの量の闇の魔力が必要だという事だ。

 そういえる根拠は、魔術を破壊した後のユウの残りの魔力が僅かになっていたのを感じた事があったからだ。

 しかしそれはあくまで魔力の許容量の少ないユウだからであって、他の魔術師がそうとは限らない。

 ならば──。

「リリア、アイツの魔力が空になるまで手数で攻めるわよ」

「なるほどな。こっちの魔力が先に切れるか、あの野郎の魔力が先に切れるかの勝負だな」

 手数で攻めていけば、あの男性は防ぐために闇の魔力を消費していくはずだ。こうして魔力を削り尽きたところで最上級魔術を撃ち込む。

「わかってると思うけど、あの男に捕まらないでね。捕まったら最後、『魔泉』を盗られちゃうから」

「わかってるよ」

 二人は二手に別れて別々の方向からそれぞれ氷球と火球を撃ち込んでいく。

 思った通り、さすがにその軽い身のこなしでは躱しづらいのか男性は魔力を当てて相殺させていく。

 この勝負、圧倒的にこちらが有利でもある。魔力消費の少ない小技の連発に加え、二人共規格外の魔力量を誇っている。

 それに対してあちらは一人だ。仮に魔力量がメルやリリアを上回っていたとしても、魔力消費の激しいその闇属性の防御ではどちらに分が上がるのかは明らかであった。

 やがて男性の魔力が底をついたのか、こちらの小技が通るようになった。

 リリアとアイコンタクトをとると、彼女は頷きすぐに最上級魔術の構築に入る。

「蒼き空を紅く染め 天空より放たれるのは無数の災厄 もたらすのは崩落 残るのは虚無 この地に絶望を刻め」

「汝が迷い込んだのは雪原 決して抗うことはできぬ吹雪」

 やはり詠唱の速度ではリリアには敵わない。あっという間に最上級魔術を放つ準備ができてしまっている。

「──滅びを迎えろ 火葬流星-meteorites finis-」

「奪われる熱 氷結する体 永遠とも思える時間を彷徨え」

 メルがまだ詠唱途中でもリリアは火属性の最高火力を撃ち放つ。

 遥か頭上から、爆炎を纏った隕石が降り注ぐ。

 この魔術は一発の隕石ですらダイレクトに当たればどんな生物だろうと跡形もなく消してしまう。

 体の骨は砕け散り、炎が消し炭になるまで燃やし尽くす。

 魔術緩和の結界が無ければ、禁術レベルのものだ。けれど今はそんな事を気にしている暇はない。

「──その身で味わえ 氷雪乱舞-nix tempestas-」

 ワンテンポ遅れてメルの最上級魔術が放たれた。

 吹き荒れる雪と氷が全てを凍てつかせ、対象を活動停止状態に陥れる水属性の最高級の魔術だ。

 本来最上級魔術は魔力量の多い魔人でしか扱えない代物だが、メルはその規格外の魔術から発動を可能としている。

 炎と氷があの黒ローブの男性を襲う。二つの最上級魔術を浴びて立ち上がれる者などいやしない──その刹那だった。

 音を立てて魔術が崩れていく。術者が強制的に魔力を霧散させて不発にしたときとは違う不自然な消え方──何が起きたのかわかりきっていた事だった。

 あの黒ローブの男性の魔力が復活している。

「どういう事……? まさか私達の小技が通ったのは、そう見せるための演技?」

「いや、それは違う。あたしずっとアイツの魔力感じてたけど、確かに底をついてた。だけど──」

 リリアはそこまで言いかけて口をつぐむ。口に出すのを躊躇うほど彼女の中でありえない事象が起きたのだろう。

 魔力の事に関しては彼女の方が詳しい。その彼女が言うのを躊躇うという事は──。

「我の魔力を削るのは良い作戦だったが、詰めが甘い。所詮はただの魔術師、我らの事についてなど何一つ知らぬのだから当然といえるか」

 黒ローブの男性が嘲笑うかのように口を開く。

「我ら闇の眷属は魔力の回復は早い。例え魔力が底を尽きようがすぐに湧き上がる」

 メルはリリアの方を見やる。悔しそうに口を結んでいた。彼女が感じていたのはきっとこの事だろう。

 そしてここで一つの可能性が出てきた。

 闇の眷属というワード、魔力の回復が早いという特徴。闇の眷属という事についてはさっぱりだが、魔力の回復が早いという点に関しては身に覚えがあった。

 ユウの事である。彼は元から魔力の絶対量が少ないために魔力の回復が早いといわれてきた。けれどそれだけでは説明がつかないほど回復が早い。

 それに今のユウはどことなくあの黒ローブの男性と雰囲気が似ている。もしかしたら、ユウもこの男性が言う闇の眷属というものではないだろうか。

 闇の眷属が他人の魔力を強奪しているのだとしたら、ユウも共犯である可能性が僅かながらも浮上してくる。

 ──そんな……そんなのって……。

 何としてでもユウを見つけ出さなければならない。会って本当の事を確かめなければならない。

 まずはこの男性をどうにかして退けないとならないが、まるで勝てる気がしない。初めて出会う圧倒的な力の差にメルは愕然としていた。

 それにまだ、彼はまだ魔術すら使ってないのだ。

『稀有属性』である闇属性は未だ魔術の開発がされていない未知の属性であるが、コルウスは『夕凪』という魔術を完成させてしまっている。だからこの男性も絶対に魔術を撃ってこないとは限らない。

 ──どうすればいいの……?

「……ッ?」

 気づけばこの黒ローブの男性はメルの横に立っていた。正確にいえば、メル隣で立っていたリリアの正面に突っ立っている。

 全く見えなかった。

 リリアが危ない。

 直に感じる黒ローブの男性の魔力の圧力が容赦無くリリアに降りかかっているようで、彼女は立ち竦み硬直している状態だ。

「氷-fetire──」

「邪魔だ」

 黒ローブの男性の手のひらがこちらに向いたかと思えば、魔力の波動で吹き飛ばされてしまう。

「我はこの娘に話がある」

 金色の瞳が真っ直ぐリリアを捉える。

「まさか、僅かながら我らと同じ──」

「〝ルナ〟!」

 黒ローブの言葉を遮るように、体勢を立て直したメルが使い魔を召喚しそれが咆哮を上げた。

 その口から放たれる白い焔が黒ローブに襲いかかる。

 舌打ちと共に、黒ローブの男性が焔を避けるようにして跳んだ。

 ──躱した?

 メルとしては白い焔で眩ましているうちにリリアを救出する算段だったのだが──。

「リリア、大丈夫だった?」

「ああ、特になんとも。ただ──」

「ただ……?」

「アイツ、今何を言おうとした? 誰が同じって……?」

 リリアは酷く混乱しているようだ。

 今はそれよりも、どうしてあの黒ローブの男性が闇属性による魔術の打ち消しがあったのにも関わらずそれを行使しなかったのか?

 メルは自分の使い魔であるルナという名の白竜を見上げた。

 黒竜と対をなす存在にして、黒竜と肩を並べる最強種。もしかしたら、この男性に対抗できる唯一の手段かもしれない。

「ルナ!」

 メルの呼び掛けの直後、白竜の口がガバッと開き、その大口から白く燃えゆく焔が放出された。

「厄介なものを喚び出してくれたな」

 黒ローブに覆われていた浅黒い肌の腕が露出し手刀を構える。

 腕からは黒い魔力が噴出し、黒い刃を形成する。

「あれはコル──ユウが使ってた……」

「え?」

「夕凪-yunagi-」

 手刀を降り下ろすと同時に、黒い刃が翔んだ。

 闇属性の魔術──『夕凪』はユウが使っていた魔術らしい。ユウのオリジナル魔術だと思っていたが、全く同じ魔術を使ったという事は──。

 白焔と黒刃が衝突する。

 競り合う二つの魔術は周囲に魔力の粒子を撒き散らし、やがて音を立ててどちらも爆発し四散する。

 爆風がメルとリリア、白竜(ルナ)を同時に吹き飛ばす。

 その最中、メルの瞳に映ったのは間髪入れずに放ってであろうもう一つの『夕凪』だった。

 ──体勢を……。

 ダメだ。間に合わない。

 ここで負けを悟った瞬間、静かに瞼を閉じた。

 学園最強と言われていても、たかが一学生にはこの異端者をどうにかできるはずがなかった。

 諦めかけていたそのとき、何かがふわりと舞い降りたような気がした。

 確かめてみるとそれは黒い羽だった。まるでカラスの物のような……。

 次の瞬間、見覚えのある人影が舞い降りてきた。

修正致しました(2014/10/12)

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