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嘘つき魔術師  作者: その他大勢
第七章【転生者達のレクイエム】
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M-03

ユニーク数が八万突破です。ありがとうございます。

 氷で覆われた世界はもうどこにも無かった。またいつもの学園の風景が戻ってくる。

 すぐにメルのケータイが鳴り響く。取り出してディスプレイを覗くと、案の定リーサの名前が映し出されており冷や汗が垂れる。

「……もしもし」

『メルちゃん……あなたあの魔術を……』

「あぅ……すみません……」

『まあいいわ。こっちはすでにあの魔術が使われる前に捕まえたから』

 さすがはリーサだ。メルが魔力を練り合わせているうちにさっさと確保してしまったようだ。仕事が早い。

『で、そっちは? ま、結果はわかりきって──』

「それが……」

 メルがリーサの話を遮るようにして割り込んでいく。『凍てつく氷牢』を使えば確実に捕らえられる。実際捕らえたが、結果はメルの芳しいものにはならなかった。

「逃げた生徒の魔力が──奪われました」

『……ユウが現れた、とでも言いたいのかしら?』

「えっと……」

 魔力を奪う術を持つのはおそらくユウだけだと思う。そんな魔術は存在しない。おそらくユウに備えつけられた『特殊能力』みたいなものだ。もしくはユウがいつも身につけていたあの刀──さしづめ魔装なのだろう──の能力かもしれない。

 けれど先程会った黒ローブの男性──男性と判断したのは声の低さから──の声が本当にユウのものだったかどうか曖昧で、それに顔を隠していたので確証は何も無く絶対にユウだとは言いきれなかった。

「魔力の強奪犯はローブを羽織っていました。更にフードを被ってて、顔がよく見えなかったのでユウと判断するにはちょっと情報不足かも……」

『まさか……別人?』

「どうなんでしょうか? 魔力を盗む魔術なんて存在しないですし。使えるのはユウだけのような気がします」

 ただ彼はメルの前に必ず現れるはずだ。次のターゲットはメルだとはっきり言ったのだから。そのときに正体を確かめればいい。

「私、このまま黒ローブの人を追います」

『だったら私も……』

「リーサさんは仕事に戻ってください。すでに応援は呼んでいますから」



      ●



 リリアが学園に到着したのはリーサと電話で話した数分後だった。随分と急いで来たらしく、息は上がっているし制服も着崩れていた。髪も少しボサボサだ。

「リリア、一応女の子なんだから身だしなみは気をつけなよ」

「一応ってなんだよ一応って……」

 制服をちゃんと着直し、手櫛で少し乱れていた長いピンク色の髪を整えていく。頭から生えている二本の羊のような丸まった角──この角こそが魔人の尋常じゃない魔力の源だそうだ。

「で、ユウは?」

「さっき私が見た人が、まだユウって決まった訳じゃないわよ。これから確かめるの」

 さっきの黒ローブの男性を見失ってしまったので捜しようにもどうしようもない。どこを拠点としているのか皆目検討もつかない。ただもう一度メルの前に現れてくれるという事だけ。

 ただ待つだけでもいいが、やはりこちらから先手を打ちたい。その方が相手側にも何かしらの隙が生まれる可能性だってあるし、あちらの好き放題にはさせたくない。

「……あっ」

「あ? どうしたんだよ?」

 よくよく考えてみれば、リリアと一緒でも良いのだろうか?

 相手がもしユウだった場合、ユウはリリアの事を避けてしまいそうな気がする。

 どういう訳かユウとリリアの仲は一〇年程前からかなり悪化してきた。思い返せば、昔はベッタリと仲が良かったのだが──。今では互いが買い言葉に売り言葉、どちらも棘のある言い方でしか言い合えない。こちらとしてはいつまでもそんな状況を見ていられないので改善はさせたいが、具体的な案が浮かばないため苦悩しているところだ。

 それにユウ自身、仲が悪いという事もあってかリリアをわざと避けているように見える。例えもう一度現れるとしても、リリアと一緒ではユウの方もメルに近づきにくいのではないだろうか?

 しかしリリアと別行動をとっていては、黒ローブの男に襲撃されたとき一対一では敵わない気がする。

「だからメル、どうしたんだよ?」

 リリアの声で考え事が中断された。

「えっと……一応黒ローブの人から次は私の所に来るって宣言されたんだけど……、リリアが側に居たんじゃ、もしユウだった場合現れないんじゃないかって」

「ああ……、まあ、あれだけの事言えばあたしの前に現れづらいか……」

 リリアの表情が暗くなっていく。そういえばユウが奇行に走る前に一度家族の前で何かを言っていたような気がする。さっき電話でリリアと話したとき嘘がどうとか言っていたが……。

 ユウが何を言ったのかはわからない。けれどその言葉は何よりもリリアを傷つける嘘だったとしたら──。

「赦せないよ、そんなの」

「え? メル……?」

「あのさリリア、正直に言ってね? さっきも聞いたけどユウをどうしたいの?」

「それは……」

「私は赦せないよ。捕まえた後懲らしめてやるんだから」

「あたしだってそうだよ。問題はその後だよ」

「後……?」

「ボコボコにしたとしても、アイツはあたし達の友達を殺した。もうそれだけでどんな事されたって赦す事はできねえよ。けど……ずっとその怒りの矛先をアイツ向けてばっかじゃダメだって否定する自分もいてさ……。だって、あたしは──」

 リリアがそこまで言いかけて止めた。何か口に出すのがバカバカしくなったそうだ。

 ただやはり自分ではユウをどう思いたいのかわからないままらしい。だから今ユウと会って確かめなければならない。自分の本当の想いを確かめるために。

「それにしてもアイツがあたしが居るだけで現れるかどうか怪しいなんてな……、何か上手い手はねえのかな?」

「……そういえば、あの魔力の強奪犯は誰彼構わずに『魔泉』を盗っていたのかしら?」

「ウィルスの感染者じゃねえの?」

「ううん、たぶんそれは違うと思うわ」

 ウィルスの駆除が目的なら、以前と同じように魔力だけを奪っていくはずのなのだ。おそらく『魔泉』を奪っていくのはそれとこれとでは違うような気がする。

「きっとあるはずよ、『魔泉』を奪われた生徒に共通する『何か』が」



      ●



 メルとリリアは『魔泉』を奪われたと訴えてきた生徒の一人一人の情報が記載されてある生徒名簿が保管されている職員室に来ていた。とりあえず今日そこに居た日直のサラ教諭から許可を得て調べていく。わかったのはだいたいがA組かB組のクラスに属しているという事だ。つまり皆が皆それなりの魔力を保持していたという事だ。

 簡単な話、地位と魔力量はイコールで結ばれているため魔力を失った生徒達が犯人と言われてきたコルウスことユウに怒りをぶつけるのは当然なのだ。保ってきた地位を失ってしまったのだから。

 ただここに来て、あの黒ローブの男が本当にユウなのかどうかさえ怪しくなってきた。今までと何もかも違いすぎるからだ。以前のコルウスならウィルスに感染された生徒を狙っていたはずだ。クラスも関係なく。けれど今は魔力量の高い者のみだ。

 それによく調べてみれば、皆が種族に似つかわしくない程の魔力量を所持している事がわかった。まるでメルと同じような生徒達だけを狙っているかのようだ。だからあの黒ローブの男はメルをターゲットに定めたのかもしれない。

「なんかメル以外にも狙われそうな生徒はまだいねえの?」

「探してみる」

 候補を探していけばいくつか見つかる。その中から今日学園に来ている生徒は──。



      ●



 メルとリリアは校庭にやって来ていた。そこでは陸上部の面々が居る。今は休憩時間なのか、皆が皆休んだり水分補給をしたり談笑したりしているところだった。中には未だに体を震わせている人もいたので、メルは軽く罪悪感に苛まれる。先の『凍てつく氷牢』が原因なのだから。

 メル達がここに来たのは、この陸上部の中に平民の同級生が居るためである。平民でありながら彼は魔人並の魔力を持っている。メルと同じなのだ。彼ならば、あの黒ローブの男も寄ってくるだろう。

 待つ事数分──先程の圧倒的な威圧感が近づいてくるのを感じる。相変わらず押し潰されそうな重苦しい空気だ。隣にいるリリアも顔をしかめている。

「リリア……?」

「やべえわね、これ……。ユウの奴、こんな魔力(モン)隠し持ってたのかよ……!」

 そもそもあの黒ローブの男性がユウである確証はどこにもない。あくまでユウの可能性があるというだけなのだが。

 それはともかく、校庭の方に目を向けると中央に佇む黒い影があった。それは黒ローブを纏った人間のようだ。間違いなく、先程の魔力の強奪犯だ。

「アイツが……?」

 リリアが凝視している。いつもだったら、ユウを見つけた途端すぐに掴みかかるとおもうのだが──今はそんな素振りを少しも見せない。冷や汗が垂れ、若干小刻みに震えている。

 黒ローブの男性が一気に駆ける。狙いはどうやらメル達の同級生のようだ。

 ──ビンゴ!

「行くわよ、リリア!」

 掛け声と共にメルの手のひらでは水の球が形成されており、メルが発する魔力の冷気でみるみるうちに凍っていく。

 その球を黒ローブの男性の脳天めがけて発射した。

 もの凄いスピードで駆け抜けるそれは、的確に黒ローブの男性の頭を撃ち抜く。

 メル達は一気に接近し、まだ近くにいる陸上部員に避難を促す。

「……探したぞ」

 氷の球で撃ち抜かれたはずなのに、傷一つついていないようだ。

「居ないものだから他の者で済まそうと思ったのだが──わざわざ、貴様の方から来てくれるとはな」

「……なあ、メル」

「わかってるわ」

 この声、この口調……そして二度目の対峙でようやくわかった。この黒ローブの男性はユウではない。

 では今まで『魔泉』を強奪していたのも全てこの男性がやっていた事になるだろう。

 確かにユウは一度、コルウスは『魔泉』まで奪うような事はしていないと否定していた。けれどその一回きりでそれ以上は否定する事はなくなった。あのとき真実を言っていたのだとようやく理解できた。

 ならなぜもっと強く否定しなかったのだろう。真犯人は別にいると知っていながら、自分にわざと濡れ衣を着せるような事をしたのか?

「リリア、この人ユウじゃなかったけど、このまま見過ごす事はできないからね」

「わかってる。コイツ、そうとうやべえ奴だ」

 ユウの手掛かりはまた後で探すとして、今はこの男性を処理しなくてはならない。

 一陣の風が吹いた。その風は男性のローブのフードを外していく。

 目深に被っていたフードが捲られて、ようやくその素顔が露になる。見た目は端正な顔立ちをした若い男性のように見えた。肌の色は浅黒く、少しばかり長い黒髪は目にかかっている。その目の両方とも白目の部分が真っ黒に染まり、金色の瞳がギラリと輝いている。

「まさか、獲物をもう一人連れて来てくれるとは思わなかったぞ」

 ──獲物……? もう一人……?

 獲物はメルのはずだ。もう一人というのは今逃がした陸上部の生徒の事だろうか?

 しかしどうもそんな感じではないような気がする。

 ここに居るもう一人の人間──。

 ──まさか……!?

 リリア・ブライト。元魔人貴族だが親の都合でその称号を破棄し、平民の養子として迎えられて今に至る。ただ彼女には魔人としても規格外の魔力量を保持している。貴族だからという理由では説明できない程のをだ。

 もしこの男性が強い魔力を欲しているのら、リリアは格好の的だ。

「貴様ら二人分の魔力、我に差し出してもらおう」

 おぞましく禍々しい魔力の波動がメルとリリアを襲った。

次でメルパートは最後です、一応。

敢えてもう一度書きます、一応です。


修正致しました(2014/10/12)

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