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嘘つき魔術師  作者: その他大勢
第七章【転生者達のレクイエム】
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M-01

 照りつける太陽の光が校舎内に侵入し、容赦なく室内に熱気を振りまいている。冷房の役割を担っている水の魔晶石がまるで使い物になっていない。

 現在の学園は『星華祭』が突如中止になるというアクシデントに見舞われ混乱状態になったものの、徐々に落ち着きを取り戻しこうして無事に夏休みに突入する事ができた。けれどメル達生徒会役員は休暇中でもこうして学園に来なくてはならない事情があった。

「あっついわね」

 メルの隣に居たリーサが制服の胸元を掴んでパタパタと扇いで体に風を送り込んでいた。その光景をユウが見たら『けしからん、実にけしからん。ムッハー』と鼻を伸ばしている事だろう。

 ……それにしても──。

「ん、どうかしたの? メルちゃん」

「……いえ、何でもありません」

 そしてメルは思わず嘆息する。リーサの丸みを帯びた女性らしい体型に対して、メルは凹凸の少ない幼児体型なのだ。

 転生した後のユウは女の子の好みが変わってしまったのか、前世では恋人同士だったのにも関わらず何度告白しても芳しい結果は得られなかった。ユウが前世の記憶を持っていなかったというのが一因としてあるが、他にも理由があるような気がしてならない。

 そのユウは今どこで何をしているのだろう?

『星華祭』でユウはメルの友人だったセシルを刺し殺し、その後姿を消した。それに皆がいる手前、今まで隠していたはずのコルウスの姿をなんの躊躇いもなく晒けだしたように見えた。もうメルはユウが何をしたいのかわからなってきている。ユウという存在すらわからなくなる。

「もしかして──ユウの事考えてる?」

 リーサに図星をつかれた。黙って静かに頷く。

「リーサさん」

「なにかしら?」

「ユウがコルウスだって、知ってました?」

 あの事件の後、首都に駐屯している帝都騎士団が学園で調査を行った。ユウと交友のあった生徒達を集め、一人ずつ取り調べを行われた。無論、メルも取り調べされた生徒の一人である。ただその生徒の中にリーサもいたのだ。

 リーサはユウと関係があったとは思えない。取り調べされるほど彼をよく知る人物かといえばそうでもないような気がする。

「もし私がコルウスの正体知っていたら、ここにはいないと思うけど」

「……それもそうですよね」

 もし知っていたら、帝都にある騎士団の本部へと連行されて、ユウの事を根掘り葉掘り話されているはずだ。嘘をついていたとしても、騎士団の尋問に対して嘘を言うのは大した度胸だ。

 たまたまコルウスの正体を知っていたユウの父親であるカイトとリリスは騎士団の本部に居るはずだ。もう一人、カガリという『魔王の娘』という肩書きを持つ生徒もコルウスの正体を知っていたようだが、魔人貴族であったために魔界出身を排他的に扱う帝都に入国する事は許されなかった。

「じゃあ何で取り調べを受けていたんですか? こう言うとアレですけど、リーサさんって私達と比べればユウとそこまで親しい間柄ではないですよね」

「……貴女が知らないようだから教えてあげる」

「え……何をですか……?」

「実はね──私とユウは付き合ってるのよ」

「……ま、まっさか~……、そんな訳ないじゃないですか~」

 口では完全に否定してはいるものの、声が完全に動揺している。もちろんリーサにはその事がバレているようで、クスクスと静かに笑っている。

 メルだってこの彼女の発言が口から出任せだという事はわかっている。だってユウは極度の魔人嫌いだったはずだ。

 けれどユウとリーサが絶対に付き合っていないという確証は無い。それに万が一という可能性だってある。それにユウが毛嫌いしているのは特に魔界出身の他種族を見下す魔人であって、リーサはそういうタイプの人間じゃないという事はメルも承知している。

「なんて……冗談よ。貴女可愛い反応するわね」

「うぅ……」

 こう見えれば、どう見てもリーサがメルよりも立場が上でありそうだが、実はそうでもない。確かにリーサの方が学年は一つ上だが、メルは実力で彼女からこの『生徒会長』をいう座を勝ち取っている。

 メルが生徒会長になったのはユウを守るためであった。魔力量が極端に少ない事から他者からは蔑ろにされるユウ。場合によっては不良生徒達の攻撃魔術の被験者になった事もあった。そんな事が二度と起こらないよう、ユウに手を出せばメルが制裁を加えるという体裁を作るためにメルは力をつけてきた。幸い、ユウとは逆で魔力には恵まれていた。

 しかし高等部に上がった頃からユウは急激に強くなってきた。もうメルの助けも要らない程にだ。もはや純粋な戦闘力でいえば生徒最強である生徒会長のメルと同格かそれ以上らしい。しかしユウは『コルウス』という一面も持っており、おそらく全力で戦えばメルは間違いなく敗北する。

 それにユウから直々にもう助けは要らないとさえ言われている。もうこの座も、肩書きも必要無い。

「本当の事を言えば、私とユウは同じギルドで働いているのよ」

「ギルド……」

 世界中の依頼を受けて達成して報酬を得ることを生業とした職業──それがギルド。中には危険な依頼があると聞くが、まさか二人して危険な依頼に首を突っ込んでいるんじゃないだろうか?

「リーサさんはよくユウと一緒に仕事してるって事なんですか?」

「まあ一応は、ね。とはいってもたまに一緒になるくらいだし、一緒に依頼をこなすようになったのもわりと最近よ。それまでは彼、私がギルドに居る事すら知らなかったしね」

 そういえばユウはコルウスと共にギルドで活動している──結局ユウとコルウスは同一人物であったが──とリリアから聞いた事があった。確かリリアの話によれば、コルウスは悪魔(ファントム)化を引き起こすウィルスを取り除くために魔力を強奪していた。

 ……となると、コルウスの目的が変わったのだろうか?

 ただウィルスを取るだけではなく、『魔泉』まで奪う理由ができてしまったのか。

「リーサさんはコルウスが──ユウが悪魔(ファントム)化を防ぐために魔力を強奪していたのはご存知でしたか?」

「…………」

 沈黙が訪れた。時計の針の動く音が静かに時を刻んでいる。ただそれは気まずいだけの雰囲気ではない。むしろメルの真実を知りたい好奇心が沸々とたぎっている。

「……知らなかったわ」

「嘘じゃないですか! 何だったんですか今の間は!」

「あまりにも衝撃的な事実で言葉を失っていたのよ」

「よくもまあそんなペラペラと戯言言えますね!」

「まあまあ、落ち着きなさい」

 思わず座っていたデスクから身を乗り出して問い詰めていたようだ。リーサに諭されて大人しく腰かける。

「ていうかリーサさんってユウと同じギルドにいるんですよね? だったら今ユウがどこに居るのかを把握してるんじゃないんですか?」

「ごめんなさい、それは本当に知らないわ」

 メルは怪訝そうにリーサを睨みつける。本当はユウをギルドで匿っているのではないかと疑う。けれどリーサはただ顔を歪めているだけだった。

 元々彼女が何を考えているのかはメルには想像しがたかったが、今のリーサはどこか焦っているようにも見える。ユウはそれほどギルド内では重鎮となる人物だったのだろうか?

 それほどギルドにとっては大事なピースの一つだったのだろうか?

「今ギルドの捜索班が必死で彼を捜しているわ」

 リーサが重たい口を開く。いつもの飄々とした軽い口調ではなく、とても重苦しい口調。それがメルにはとても嘘をついているようには見えない。

「疑ってるのら、一度ギルドに来てはいかが? 私が嘘をついてないって証明もできるし」

「いえ、別にそこまでは……」

 だとするならユウはどこに消えたのだろう? 騎士団も血眼になってユウを捜索していると聞く。騎士団にもギルドにも追われているので逃げ場もユウ自信の居場所も無くなっているというのに、彼は今どこでどうしているのかが一切の謎だ。

「メルちゃん」

「はい、何でしょう?」

「私にユウの居場所を訊いたって事は、貴女もユウを捜してるって事でしょ? 彼を見つけてどうする気?」

「それは……」

 すぐには答えが見つからなかった。メルはただユウが見つかればいいな、としか思っていなかった。

「いい? 殺人は重罪よ」

 そう、ユウは拭いきれない罪を背負ってしまった。けれど──。

「……だけど、私はユウには罪を償ってほしいです」

「……贖罪は簡単な事じゃないわ。もう二度と会えなくなるかもしれないわよ」

「それでも、いくらかかってでも償ってほしいんです。そしていつの日にかまた一緒になれる日が来る事を願います。何年経っても、おばあちゃんになっても待ちます。だからユウには一刻も早く──」

「そう」

 そしてリーサは興味なさげにメルから視線を反らした。メルは少々気落ちし力が抜ける。

「ギルドの依頼にはね──」

 唐突にリーサが口を開く。

「少なからずとも暗殺の依頼が舞い込んでくる事もあるのよ。暗殺だから、決して証拠を残してはいけない。プロなら尚更よ」

「何を言ってるんです?」

「もし仮に『星華祭』で殺された女の子──セシルっていったかしら? その子がユウにとって都合の悪い人間だとしたら──」

「……だとしたら、何だっていうんです?」

「……あの子は『プロ』よ。なのになぜ大衆の前でわざわざセシルを殺したのかしら?」

「え……?」

 ユウなら誰にも人目のつかないところでセシルを殺害する事も可能だったという事か。それなのに『プロ』であるはずのユウがなぜ民衆が見てる前であんな愚かな選択をしたのだろう。

 それには何か理由がある。この一言に尽きる。けれどいくら考えても理由なんてわからない。

 メルは人の心を読む事はできない。その理由を知っているのはユウ本人でしかないのだ。

「ま、あくまで仮の話ね。あの子、どうもプロ意識は薄いから」

「そう……ですか……」

 例え仮の話だったとしても、その可能性は否定しきれなかった。ユウにはまだ何か秘密がある。メル達が知り得てない事がまだありそうな気がする。それを確かめるまでは──。

 ふと、校舎の外の方で爆音が轟いた。

 急いでリーサと目を見合わせる。すると彼女は軽く嘆息する。

「また……のようですね」

「まったく……よくもまあ飽きない連中だわ……」

 生徒会の役員が何も学園の事務関係の仕事をするためだけに学園に来ている訳ではない。こうして休暇中でも生徒会が駆り出されるのには理由があった。

 そしてメル達はたった今起きた問題を解決するために動き出した。

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