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嘘つき魔術師  作者: その他大勢
第六章【真夏の虚像】
82/133

06

※短いです。

※いつもより圧倒的に雑です。


今日の修正は明日に回させていただきます。(2014/9/26)

『星華祭』──所謂学園祭の事で、初等部・中等部・高等部の合同イベントでもある。運動会と学園祭は魔術学園の二大伝統行事として設立当初から行われている大規模なイベントでもある。学園の敷地が広いというのもあるが、全ての学年が参加するのだから、それはもう本当のお祭りみたいなものだ。例年、数人かはお祭り騒ぎではしゃぐ人はいる。

「お兄ちゃん、最初どこに行く?」

「ん~、そうだな……」

 ユウは貰ったパンフレットを広げて、マリアと共にパンフレットに描かれている地図を眺めながらどこに向かおうか悩んでいた。

 ただでさえ広い学内だから地図が無いとどこで何を出展してるのかわからなくなり、最悪迷う事だってある。

「そういえば……」

 リリアとメルのクラスでは喫茶店をやるらしい。前日メルがその事を言っていたので間違いはないだろう。今居るかどうかはわからないが、ついでにリリアとメルの様子でも見に行くとしよう。

「よし、リリアの所に行くか」

「リリア姉の? 何やってるの?」

「喫茶店らしいよ。人が多いから離れるなよ」

 ユウはそう言ってマリアの手を自分の手でしっかりと繋ぐ。人で溢れた雑踏の中をかき分けるように二年A組の教室へと向かっていった。



      ●



 二年A組の教室に到着すると、そこそこ人が並んでいており少し待たされる羽目になっていた。最後尾に並んでみると、その前の二人組がカイトとリリィだったために思わず声が漏れる。その声に気づいた二人がこちらを見てきた。

「あら、マリアさん。いつにも増してユウさんにべったりですね」

「うん、今日は久しぶりのデートだからね」

 マリアは『デート』の部分を強調するように言って、ユウの腕に絡めていた腕を更に強く締めつけるように絡んでくる。

 押しつけられる胸部は、以前当てられたときよりも育っているようで思わず鼓動が早くなるのを感じる。

「デート、なぁ……」

 カイトは意味ありげに呟き、こちらに向かって気色の悪い笑みを浮かべてくる。気づけば自由に動く腕で拳を作っていた。

「殴りたいこの笑顔」

「まあ落ち着け」

 イラっときたのでその拳を突き出してみる。さすがに本気でやる訳にはいかないので魔力付与の『強化』無し、だが全力だ。

 その拳がカイトの大きい手のひらに打ちつけて小気味良い音が鳴る。

「はっはっは、どうしたその程度か?」

 片側にマリアが引っ付いているので上手く力が入らなかったようだ。

 そしていつの間にかカイトがマリアとは逆側の所に来て、ユウの耳元に口を近づける。

「今更兄貴面するのは、この後のマリアにとっては残酷だ。どうせ戻っては来ないんだからな」

「…………」

「だが、今だけはちゃんとマリアの兄貴でいてやってくれ。その方がマリアも喜ぶ。でもマリアを悲しませる事があったら赦さねえからな」

「……約束するよ」

 カイトのユウ以外には聞こえないような囁きに対して、ユウはしっかりと約束する。

 カイトはそれを聞いた後、すぐにリリィの横に戻っていく。

「お兄ちゃん、パパとなに話してたの?」

「ん、いやちょっとした世間話だぜぃ」

「私に聞かせられないような事?」

「まだマリアが知るべきじゃない世界の話だから」

「……もう」

 何を想像したのか、少しマリアの顔が赤くなっていく。まったく、今時の中等部の子想像力が豊かである。

「それよりユウさん、リリアさんとはなるべくケンカなさらないようにしてくださいね?」

「……善処します」

 リリィからそう言われて、なるべくはケンカしないようには努めるが実際どうなるかわかったもんじゃない。

 ここは高等部二年A組の教室前。それに喫茶店は繁盛しているようなので、今はなるべく人員が欲しい場面だ。だからA組の連中のほとんどはまだあの教室内に居るとみてもいいだろう。それにここにカイトとリリィもいる。この二人はちゃんとリリアが担当している時間を知っているはずなので、彼女の様子でも見に来ている。

 つまり十中八九リリアはあの教室に居る。

「ユウ、絶対に変な事は言うなよ。リリアがどんな格好でもまずは褒めろ」

「カッコ……?」

 少し列から顔を出すと看板らしき物が見えた。その看板には装飾された文字でデカデカと『コスプレ喫茶』と書かれていた。

「コスプレ……だと? あのリリアが? ハハッ、こりゃ笑え──」

「だからそれを止めろと言ってるんだよ」

「お、おう?」

 カイトから強く言い聞かせられる。ちょっとたじろいでしまう。

「だからまずは褒めろ。リリアもそれで嬉しがるはずだから」

「いやいやないない、絶対ない」

 育ててくれた父母と義理とはいえ本当の妹のように育ったマリアが一斉に溜め息をついた。何が何だか意味がわからない。

「いやだって、俺が何言ってもアイツは──」「お兄ちゃん、けっこう鋭いのに変なところで鈍いよね……」

「まさか全く気づいていないんですね……」

「どいつもこいつも……全く……」

「え? なに? 何なん? 何なんだよ!」

 三人から訳のわからないで言葉が飛び出して少々混乱状態に陥ったところで、猫耳がついたカチューシャ、三毛猫の柄のような洋服に肉球つきの猫の手の手袋のような物をはめて、モコモコっとしたブーツを履いた猫娘がユウ達に中に入るように促してくる。何の事か問い質す隙もなく、教室の喫茶店の中に押し込められるようにして入っていく。

「今の猫の子、可愛かったな」

「カイトさん……?」

「痛い! 痛いよリリィさん!」

 カイトがさっきの女の子に対して鼻の下を伸ばしているとリリィが容赦なく尻の肉を摘まんだ。それを見ていたユウは『そういえばこういう人だったな』と少しの懐かしさを感じる。

「そうだよとうさん。セレン先輩のは本物だぜぃ!」

「なに言ってるのお兄ちゃん?」

 ふざけるのはこのぐらいにして空いている席に座ると、一人のエプロンドレスを着たメイドの格好をした女の子がやって来た。

「いらっしゃいませ、ご主人様、お嬢さ……ま……」

 ピンクの腰まで届いた長い髪にブルーの瞳、頭には羊のような丸まった角が生えていてその表情は勝ち気そのものだ。

「おうリリア、その格好似合ってるな」

「リリアさん、とても素敵ですよ」

「リリア姉、可愛いよ」

 家族から浴びせられる賛美にみるみるうちにリリアの顔が赤くなっていく。そしてユウはというと──。

「ぷっ……くくく……」

 必死に笑いを堪えていた。

 だってそうだろう?

 あのリリアがメイドなのだ。ユウが会った人間の中で一番の狂暴性を秘めた奴なのだ。それが他人に奉仕するメイドとは──、

「ちゃんちゃら可笑しくてへそで茶を沸かすわ!」

 そして世界は暗転した。



      ●



 気がつけばそこは保健室だった。顎が少し痛む。

 視界の真ん中に心配そうにユウを覗き込むマリアの顔が見えた。その顔が徐々に綻んでいく。

「良かった、やっと気がついたよ」

「ん、あれ? 何でここに?」

「リリア姉が怒ってお兄ちゃんを殴って──」

「あー、そういう事な」

 顎が痛むのはきっとそのせいだろう。

 視線を感じたのでそちらの方に目を向けて見れば、呆れた顔で睨んでいる保健医のリムと一向に目を向けようとしないリリアがいた。

「お前さぁ……言葉は選べよ」

「サーセン」

 とは言ってもユウは反省する様子はなく、悪びれた態度をとる。リムは嘆息すると、早く保健室から出ていくように顎でしゃくってくる。

 それには素直に従って部屋から出ると、さっきからずっと黙っているリリアも一緒に出てきた。

 リリアは先程と変わらないメイド服を着ていて、その顔は今も尚拗ねているように伺える。そのリリアがおもむろに口を開く。

「今までお前の事心配してたのがバカみたいだ。やっぱりお前なんか大っ嫌いだ」

「それはお互い様じゃないのかい? 俺だって大嫌いだし」

「うっせ、バーカ……」

 結局リリアとは顔を合わせる事なくどっかへ行ってしまう。横ではマリアがジト目で睨んできていて、少し居心地が悪い。

 ──やっぱ、言いすぎたか……。

「お兄ちゃん、ホントはどう思ってんの? リリア姉のメイド姿」

「さあ、どうだろうね」

「もう……。でも、ちょっとリリア姉が羨ましいな。お兄ちゃんとケンカできて……私は優しいお兄ちゃんしか知らないよ」

「気まずくなるだけだよ」

「でもケンカするほど仲が良いって言うよ?」

「残念だったな、それは迷信だと証明された。それより次はどこ行く?」

 リリアとはあの距離感のままでいい。これ以上踏み込む必要などどこにも無い。むしろ離すべきかもしれない。

「お兄ちゃん達って映画撮ったんだよね。それ観たい」

「やめておけ、俺の人類史に残る最高の黒歴史だ」

 そんな事を言っても聞き入れてもらえず、映画を上映している視聴覚室へ直行された。

ユニークアクセス70000、お気に入り件数500越えました。ありがとうございます。

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