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帝都に一つの産声が上がった。
産まれてきたのは女の子。
帝都の皇族で女性が誕生するのは芳しくない。言わばエラーなのだ。
通常なら産まれた女の子を無慈悲に殺害するところだ。帝都皇族の女性は、古代兵器復活の鍵だからだ。
帝都としてはあの兵器は生涯封印したい代物である。まさに黒歴史だ。帝都がこの世界を独裁するために使用してきたものなのだから。
古代兵器を起動させないために、皇族でないの女性を嫁として迎え入れるという仕来たりが皇族に伝えられている。
だが、産まれたばかりの子供の殺害は見送られた。王妃の容態が良くないのだ。
彼女は元々病弱で脆弱な体質だ。本来なら出産に耐えられる体ではなかった。そんな彼女を帝都の王妃にしたのは皇帝の強い希望だったからだ。彼女を心の底から愛していたのだ。
出産できるのは一度きりかもしれない。帝都を存続させるには男子を産むのが必須条件だった。それなのに産まれてきたのは女の子で、そのうえ王妃は静かに息を引き取ってしまった。
王宮は大混乱に陥り、家臣が早急に皇帝に再婚するように申し出たが皇帝は取り合わず承諾すらしなかった。たった一人の女性を愛すると誓ったのだから。
産まれたばかりの子供を殺せば跡取りはいなくなり、帝都は滅びの一途を辿るだけだ。
皇帝は考え、そして帝都を存続させる一つの案が浮かぶ。
まずは産まれてきた女の子が女性だとバレないように男性として育てる。更に彼女が人格形成のために魔術学園に通い始める時期に入ったら、彼女の強大な魔力を利用して一種の認識阻害魔術を学園全体に施す。
彼女が中等部に上がる頃を見計らって、皇帝の計画を彼女に伝える。それを彼女が受け入れられるかどうかは定かではないが、説得して何とか納得させる。
ただ、偽りの姫君の未来はもう決まっているのだ。古代兵器がある以上、決して変わる事のない残酷な運命だ。