20. 森からの光と魔力の雨
アーノルが5歳を迎えた年の暮れ。
吐く息も白くなる凍てつく夜、村の広場には厳かな空気が漂っていた。
この世界において、乳幼児の死亡率は決して低くない。
ゆえに、5歳まで無事に生き延びた子供たちが集められ、年が改まる瞬間に「村の正式な一員」として認められる儀式が行われる。それは毎年の恒例行事であり、親たちにとっては我が子の成長を神に感謝する日でもあった。
「……寒いね、アーノル」
隣で厚着をしたロバーソンが、白い息を吐きながら身を縮こませている。
アーノルは襟を立て直しながら、力強く答えた。
「我慢しろよ。今日は俺たちが主役だ」
広場には子供たちの緊張と期待が入り混じった空気が満ちている。
深夜、日付が変わる刻限が迫る。
村長が祝詞をあげ、大人たちが静かに祈りを捧げる中、広場の周囲に配置された松明が一斉に消された。
完全な闇が訪れる。
「――刻は満ちた。神よ、新たな命に祝福を」
村長の声が響いた、その瞬間だった。
村の北、黒鉄の森の方角から、突如として夜空が白く染まった。
音もなく、しかし強烈な閃光が空の一点に現れ、雲を切り裂くように輝きだしたのだ。
「おお……!」
「今年も、なんと美しい……」
村人たちが感嘆の声を漏らし、祈りを捧げる。
白い光は空中で弾けるように広がると、今度はそこから無数の「紫色の光」となって、雨のように地面へと降り注ぎ始めた。
幻想的な光のシャワーが、村全体を、そして大地を優しく包み込んでいく。それは一年の豊作と平穏を約束してくれているかのようだった。
だが、アーノルの見え方は違った。
(……なんだ、あれは)
彼は目に意識を集中し、「見る力」を発動させていた。
周囲の大人たちが空を見上げて祈る中、アーノルだけは、降り注ぐその光の粒子を凝視していた。
言葉や数値による表示はなかった。
だが、その光を見た瞬間、アーノルの脳裏に「理解」が走った。
あれは、魔力だ。
とてつもなく純粋で、膨大な魔力の塊が、空から降り注いでいるのだ。
(こんなにも大量の魔力が、目に見える形で……)
紫の光が地面に触れると、雪のように溶けて大地へと染み込んでいく。
アーノルの肌にもその光が触れたが、熱さはなく、むしろ体の奥底が震えるような不思議な感覚が走り抜けた。
「綺麗だね、アーノル」
ロバーソンが純粋な瞳で光を見上げている。
「……ああ、そうだな」
アーノルは空返事をしながら、自身の仮説が確信に変わるのを感じていた。
「魔力」は存在する。
しかも、これほど巨大な現象として、世界に降り注いでいる。
この夜の光景が、アーノルの記憶に強く焼き付いた。




