87 国王との会談
凱旋式が終わり、私たちは一緒に王宮へ入れてもらう。
第三騎士団は王宮内に兵舎があるはずだから大半はそこへ向かうようね。
私は案の定だけれど、違う場所へ案内される。
レヴァンやルーナ様も一緒ね。
クインには大人しく騎士団へついていってもらうわ。
リンディスとセシリアは同行を許可してもらい、私の後ろについてきてもらう。
案内されたのは王宮にある一室。応接室のようね。
レヴァン、ルーナ様、リンディス、セシリアが入り、少し待つとやって来たのは、やっぱり国王陛下。
「王国の太陽にご挨拶申し上げます」
私とルーナ様は一緒に立ち上がり、国王に礼を尽くす。
「いい、楽にしてくれ、二人とも。またこの場では一切の不敬を問わない。そのつもりでいてくれ」
公の場ではない、個人としての対面といったところかしら。
「クリスティナ」
「はい、陛下」
「……すまなかった」
そうして頭を下げる陛下。
「すでに謝罪はいただいておりますわ、陛下。国王が何度も頭を下げてはいけません」
「……そうだな。申し訳なく思う気持ちは消えないが、これ以上の謝罪は止めておく」
「そうしてください」
ディートリヒ陛下は私をジッと見つめる。
たぶん、亡き王弟殿下、私のお父様の面影を探しているのでしょう。
「アーサーの娘、か……」
「そうらしいですね。フェリシア様が明かしたのですけど、本当のことらしいです」
「……クリスティナも聞いていたと?」
「この遠征の間にお母様の代から仕えてくれていた従者に聞きました。いろいろと理由があって秘匿していたのです」
「そうか……」
ディートリヒ陛下は目頭を押さえる。
「むざむざ弟を死なせて、妹まで死なせて、それを野放しにしていた。挙句にそんな連中の間者にクリスティナを追い詰めさせたのか」
「間者ですか?」
「……予言の聖女だ」
ああ、アマネ。
「アマネは別に間者というわけではないと思いますけど」
「……本人の意思かはともかく、事実上、同じものだろう」
まぁ、それは否定し難いわね!
フェリシア様が邪神と戦う私の姿を民に広めたおかげで、民の支持はけっこう集まっているみたいなのよね。
女神の巫女扱いもそうだし、今回、陛下から勲章まで授かった。
こうなると私を追放するきっかけを作ったアマネの立場はないというもの。
「あれからどうですか。アマネの件や教団の動きは」
「まだ予言の聖女は見つかっていない。王都にあるマリウス邸を見張らせているが、出入りしている様子はなく、匿っている様子はない。いるとすれば領地となるが……」
「マリウス侯爵はなんと?」
「否定している。疑いを持たれる時点で遺憾だと。その他は静かなものだ」
「それはマリウス家の全員が? 私が王都を出てからの話も聞きたいところです」
「……そうだな」
まぁ、そんなこと陛下に聞くことじゃないかもしれないけど。
なんとなく陛下が話したいけど何から話せばいいかわからない雰囲気だったから。
とくに拒まれることなく私の質問に答えてくれる。
「クリスティナの処遇について王命を下してからマリウス侯爵は沈黙していた」
「……興味がなかったのかもしれませんわね」
「夫人も小侯爵も大人しくして、社交界にも顔を出していなかった。ただ、ミリシャ嬢だけはよく王宮に顔を出すようになった。これについては侯爵も動いている」
「レヴァン殿下にアプローチするため?」
「そうだな……。また予言の聖女が交流を求めた相手の一人のため、王宮でも出入りの許可を与えていた」
「アマネが? ああ……」
いつか『予言』の【天与】で視た光景では、確かルーナ様の友人の一人扱いだったかも。
私はルーナ様についっと視線を向ける。
陛下とのお話し中に顔を向けられてビクッと驚くルーナ様。可愛らしいわね。
「聖女と交流していた人物は少ないため、ミリシャ嬢へ疑いが向けられた面もある」
アマネが頼れる相手が他にいない、ってことね。
「クリスティナ」
「はい、陛下」
陛下は改まったように私に向く。
「お前には王位継承権がある。お前たちが王都に帰ってくるまでに承認が済んだ」
「……まぁ」
「お前の父親と母親の名も正式に記録されている」
「記録ですか」
「教会でも、王宮でもだ。……どうしたい?」
首を傾げる。どうしたいと言われても。
「まず、マリウス家との関係だ。本来の血筋を偽っていたとはいえ、セレスティア・マリウス・リュミエットはマリウス侯爵の姉だ。クリスティナを引き取ること自体に問題があったわけではない。事情が事情だけに、クリスティナの命を守るために秘匿していたということであれば責めることはできない」
確かに。私のお父様も、ルフィス家に嫁いだ王妹殿下も殺された疑惑がある。
なら、幼かった私を保護するにあたってその出自を隠したことに大義が生まれるわ。
「しかし、クリスティナがマリウス家と縁を切りたいならば手を貸すことができる。教会も協力してくれるだろう」
「マリウス家と縁を切ったら……どうなるのでしょう?」
「貴族の身分はそのままだ。また、あくまで現マリウス侯爵の娘という偽りを正すだけで、マリウス侯爵令嬢の娘としての立場は確保される。マリウス家の縁戚ではあるままということだ」
マリウス家の縁戚としての立場を残す。
これは、おそらく陛下が現マリウス侯爵家を潰すことも視野に入れているということね。
現状、確かな罪があるとは言えない。せいぜい降爵処分で済む場合もある。
でも、もしかしたら、もっとひどくて一族郎党なんとやらの場合もある。
その場合、私だけは助けられて、マリウス侯爵家を私に継がせる可能性がある。
まぁ、これ以上を踏み込んで思惑を聞いたら、国王が王弟の娘のために一貴族を潰そうとしている、という話になりかねないので黙っているのがいいわね。
「クリスティナ、お前に今回の功績を讃え、勲章だけではなく新たに爵位を与える」
陛下はそう告げながら、すでに書類を準備していたらしい。
従者から書類を受け取って私に見せてきた。
与えられる身分は……伯爵位。領地はやっぱりアルフィナ領。
領地の規模間でいうと今は子爵位程度が妥当なのだけど。
そこは王族の血を引く身ということでおまけかしらね。
流石に侯爵位を与えるのは簡単にはいかない。
当然、貴族の中から反発する声も上がるでしょう。
そういう声を抑えられるギリギリがこれなんだと思うわ。
「謹んで、拝領致します、ディートリヒ陛下」
「ああ、受け取ってくれ。我が弟アーサーの娘、クリスティナ」
というわけで!
私、今日から女伯爵クリスティナらしいわ!




