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傾国の悪女になんかなりません! ~蛮族令嬢クリスティナは予言された破滅フラグを【カンスト】パワーでへし折ります~【書籍化】  作者: 川崎悠
四章 傾国の悪女になんかなりません!

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86 凱旋式と勲章授与

 凱旋式に堂々、空から襲来する私! フフン!


「……イリス?」

「なんてことを……」

「イリス神の名を語るなんて」

「いや、でも彼女は……」

「しかし、神殿の許可もなく」


 私の名乗り口上に集まった人々がざわめき立つ。


 そう、私はこう名乗ったのよ。

 クリスティナ・イリス(・・・)アルフィナ(・・・・・)・リュミエットってね!


 『イリス』はもちろん三女神の一柱、イリス神。

 アルフィナはアルフィナ領。

 どちらの名も無断使用よ! フフン!


 今日は、ようやく国内すべての問題を片付けた正式な凱旋式。

 私もクインの背から降りてエルトたちに合流してみせる。

 王都の中央通りを進んだ先には、国王陛下が大臣たちを引き連れて待っていた。

 待っている人の中に神殿騎士に囲まれた女性がいる。

 銀髪の綺麗な女性よ。私と目が合うと微笑んでくる。

 彼女がフェリシア・ルフィス・リュミエット公爵令嬢ね!

 顔を見るのは初めてだわ!


「王国の太陽、国を照らす希望。ディートリヒ国王陛下。エルト・ベルグシュタット以下、第三騎士団。陛下の御前に参ります。そして天与を授かり、王国を守りし、女神の巫女たち(・・)をお連れしました」


 遠征部隊の隊長として、エルトがそう告げて片膝を突く。

 騎士たちは軒並みエルトに倣って膝を突いた。

 私とルーナ様が淑女としてカーテシーを。今回はおふざけなし。

 レヴァンが王子として手を胸に添えた礼を立ったまましたわ。


「ご苦労であった。王国が誇る剣、金の獅子たるベルグシュタット卿よ。長い旅であっただろう。我が王国はどうであったか」

「はい、陛下。恐ろしき魔獣たちは我らが剣に敗れ、魔獣たちの源泉たる不調和の源、大地の傷は、女神の巫女たちの【天与】により浄化されました。王国を脅かす災厄の多くを退けてまいりました」

「……よくやってくれた、英雄たちよ。皆、顔を上げ、楽にしてくれ」


 ディートリヒ陛下のお声がけのもと、皆が顔を上げて礼を取る。


「お前たちのおかげでリュミエール王国の苦難の日々は終わりを告げた。民も大いに喜んでいるであろう。ここにお前たち、英雄の帰還を祝うとしよう!」


 国王陛下が高らかに宣言すると、その声が届いた民が『わぁあああああ!』と歓声を上げる。


『キュルァアア!』


 ふふ、クインも一緒に嬉しそうな声を上げているわ。


「王国を救ってくれた英雄たちに褒賞を贈ろう。それぞれの功績に見合った物を用意するゆえ、謹んで待つがいい」

「有難き幸せにございます、陛下」


 凱旋式は恙なく進行していくわ。


「この場では第三騎士団を代表し、隊長を務めたベルグシュタット卿にドゥメニム勲章を与える」

「はっ!」


 ドゥメニム勲章は、騎士が大きな功績を上げた時に与えられる名誉の証ね!

 かつての王国の英雄の名前が由来なのよ。

 遠征部隊の隊長、総責任者はエルトで、あえてレヴァンを代表とせず、英雄たちのうちの一人とするみたい。

 これはたぶん、民の目に遠征部隊が戦う姿をよく目撃されていて、誰が活躍していたのかを知られているからだと思う。

 レヴァンを代表にして『でも、一番活躍していたのは王子様じゃなくて騎士だよね』とか、そういうことを言われちゃうのを避けて『王太子殿下も騎士たちと一緒によくがんばってくださった』という印象にするためね。


「そして」


 あら? 陛下がエルトに勲章を与えるだけに留めず、言葉を続けられた。


「『聖守護』の【天与】を授かり、その力を民のために振るった女神の巫女、ルーナ・ラトビア・メテリア(・・・・)・リュミエット嬢に、メテリア神の威光を示す黄金の装飾『メテリアの祝福』を与えることとする。これはドゥメニム勲章に相当するものである」


 メテリア神、光の女神の名前。その名を冠した祝福という名の勲章。

 つまり、これはルーナ様のためだけに用意された、特別なものだわ。

 黄金の装飾……たぶん、本物の黄金で作られた品なんでしょうね。

 高そうだわ! あと曲がりやすそう!

 それにルーナ様の名に『メテリア』を入れて呼んだわよ!?

 国王陛下が、大臣たちや多くの民が見ている前で!


「さらに」


 陛下の視線が今度は私に向けられる。


「同じく、いくつもの【天与】を授かり、その力を用いて、王国で最も危険な地、アルフィナの平穏を取り戻し、多くの災厄を退けた女神の巫女、クリスティナ・イリス(・・・)・リュミエットに、イリス神の威光を示す銀とルビーの装飾『イリスの祝福』を与えることとする。これもまたドゥメニム勲章に相当するものである」


 あらあら! 私にも勲章をくれるのね! ディートリヒ陛下ったら意外と太っ腹だわ!

 それに私の名にもイリスの名をつけてくれたわ!

 ある意味でルーナ様ともお揃いね! フェリシア様にも名を冠するのかしら?

 あと、流石にアルフィナはつけて呼んでくれなかったわね!

 ドサクサに紛れて男爵位をゲット作戦、失敗かしら!


「三名は余の前に来るように」

「はっ!」

「は、はい!」

「はい!」


 エルトにはドゥメニム勲章が。ルーナ様にはメテリアの祝福が与えられた。

 私にはイリスの祝福。ルビーの宝石に銀で薔薇の形と剣を象っている装飾ね。

 陛下から私はそれを受け取ろうと前に出る。


「クリスティナ」


 陛下は私にだけ語りかけてくる。


「其方には三つの王命を課していた」

「……はい」

「そのうちの二つは其方にとって害あるものであり、すでに正式に撤回されている」


 私は口を閉じ、陛下の目をまっすぐに見返す。

 陛下の目には私の姿を懐かしむような、悲しそうな色が見えた。

 私は王弟アーサーの娘。私はディートリヒ陛下の〝姪〟だったのよ。

 私の姿に王弟の面影はあるのかしら。


「最後の一つをよく果たしてくれた。何より其方の戦う姿は多くの民に希望を与えた。それはまさにイリス神の現し身であるかのように。其方のことを余は誇りに思う」

「身に余るお言葉でございます、陛下」


 私は流石に空気を読んで真面目に礼を取る。


「其方からも余に言いたいことはあるだろう。多くの理不尽を強いてきた。余は勲章を与える前に、そのことを其方に謝りたい」


 そう告げて陛下は私に頭を下げる。国王陛下が、だ。そのことに動揺の声が広がる。

 ……すでにレヴァンから公式な謝罪は受け取っている。

 しかも、その光景はフェリシア様の『光翼蝶』の【天与】で民に伝えられたらしい。

 なら、私がこれ以上、王家から頭を下げられる理由はない。


「陛下、どうか頭をお上げください」

「…………」


 頭を上げた陛下に、私はニコリと笑って姿勢を崩し、両手を広げてみせる。

 何をする気なのかわからなかった陛下は、困惑した様子。


「イリス神の薔薇の祝福をリュミエール王国に。王国に暮らす民に、そして王家に」


 パァアアっと光が溢れ、私を取り囲むように黄金の薔薇が咲き誇る。


「おお……」


 国王陛下、私の出した浄化の黄金薔薇に驚いて目を見開いた。


「陛下の下した王命こそが、私に真実の愛を知る機会を与え、イリスの薔薇を、イリスの剣を、真に私に宿したのです。かつての私は、愛というものを真には知りませんでした。その一端をこの旅で知り、触れることが叶った。大いに価値のある旅でした。これからは愛する彼とともに、臣下の戦士として王家に仕えましょう。この祝福は私から陛下への感謝の証でございます」

「……ふむ」


 エルトのことを少し匂わせると困ったように微笑まれたわ。


「では、クリスティナよ。このイリスの祝福を其方に」

「ありがたく頂戴いたします」


 こうして私は『イリスの祝福』を陛下に賜ったの。


「では、改めて。ここに戻った英雄たちに栄光を!」


 陛下の号令と共に『わぁああああああ!』という歓声が上がったわ!

 ふふふ! やり切ったわね!


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