86 凱旋式と勲章授与
凱旋式に堂々、空から襲来する私! フフン!
「……イリス?」
「なんてことを……」
「イリス神の名を語るなんて」
「いや、でも彼女は……」
「しかし、神殿の許可もなく」
私の名乗り口上に集まった人々がざわめき立つ。
そう、私はこう名乗ったのよ。
クリスティナ・イリス・アルフィナ・リュミエットってね!
『イリス』はもちろん三女神の一柱、イリス神。
アルフィナはアルフィナ領。
どちらの名も無断使用よ! フフン!
今日は、ようやく国内すべての問題を片付けた正式な凱旋式。
私もクインの背から降りてエルトたちに合流してみせる。
王都の中央通りを進んだ先には、国王陛下が大臣たちを引き連れて待っていた。
待っている人の中に神殿騎士に囲まれた女性がいる。
銀髪の綺麗な女性よ。私と目が合うと微笑んでくる。
彼女がフェリシア・ルフィス・リュミエット公爵令嬢ね!
顔を見るのは初めてだわ!
「王国の太陽、国を照らす希望。ディートリヒ国王陛下。エルト・ベルグシュタット以下、第三騎士団。陛下の御前に参ります。そして天与を授かり、王国を守りし、女神の巫女たちをお連れしました」
遠征部隊の隊長として、エルトがそう告げて片膝を突く。
騎士たちは軒並みエルトに倣って膝を突いた。
私とルーナ様が淑女としてカーテシーを。今回はおふざけなし。
レヴァンが王子として手を胸に添えた礼を立ったまましたわ。
「ご苦労であった。王国が誇る剣、金の獅子たるベルグシュタット卿よ。長い旅であっただろう。我が王国はどうであったか」
「はい、陛下。恐ろしき魔獣たちは我らが剣に敗れ、魔獣たちの源泉たる不調和の源、大地の傷は、女神の巫女たちの【天与】により浄化されました。王国を脅かす災厄の多くを退けてまいりました」
「……よくやってくれた、英雄たちよ。皆、顔を上げ、楽にしてくれ」
ディートリヒ陛下のお声がけのもと、皆が顔を上げて礼を取る。
「お前たちのおかげでリュミエール王国の苦難の日々は終わりを告げた。民も大いに喜んでいるであろう。ここにお前たち、英雄の帰還を祝うとしよう!」
国王陛下が高らかに宣言すると、その声が届いた民が『わぁあああああ!』と歓声を上げる。
『キュルァアア!』
ふふ、クインも一緒に嬉しそうな声を上げているわ。
「王国を救ってくれた英雄たちに褒賞を贈ろう。それぞれの功績に見合った物を用意するゆえ、謹んで待つがいい」
「有難き幸せにございます、陛下」
凱旋式は恙なく進行していくわ。
「この場では第三騎士団を代表し、隊長を務めたベルグシュタット卿にドゥメニム勲章を与える」
「はっ!」
ドゥメニム勲章は、騎士が大きな功績を上げた時に与えられる名誉の証ね!
かつての王国の英雄の名前が由来なのよ。
遠征部隊の隊長、総責任者はエルトで、あえてレヴァンを代表とせず、英雄たちのうちの一人とするみたい。
これはたぶん、民の目に遠征部隊が戦う姿をよく目撃されていて、誰が活躍していたのかを知られているからだと思う。
レヴァンを代表にして『でも、一番活躍していたのは王子様じゃなくて騎士だよね』とか、そういうことを言われちゃうのを避けて『王太子殿下も騎士たちと一緒によくがんばってくださった』という印象にするためね。
「そして」
あら? 陛下がエルトに勲章を与えるだけに留めず、言葉を続けられた。
「『聖守護』の【天与】を授かり、その力を民のために振るった女神の巫女、ルーナ・ラトビア・メテリア・リュミエット嬢に、メテリア神の威光を示す黄金の装飾『メテリアの祝福』を与えることとする。これはドゥメニム勲章に相当するものである」
メテリア神、光の女神の名前。その名を冠した祝福という名の勲章。
つまり、これはルーナ様のためだけに用意された、特別なものだわ。
黄金の装飾……たぶん、本物の黄金で作られた品なんでしょうね。
高そうだわ! あと曲がりやすそう!
それにルーナ様の名に『メテリア』を入れて呼んだわよ!?
国王陛下が、大臣たちや多くの民が見ている前で!
「さらに」
陛下の視線が今度は私に向けられる。
「同じく、いくつもの【天与】を授かり、その力を用いて、王国で最も危険な地、アルフィナの平穏を取り戻し、多くの災厄を退けた女神の巫女、クリスティナ・イリス・リュミエットに、イリス神の威光を示す銀とルビーの装飾『イリスの祝福』を与えることとする。これもまたドゥメニム勲章に相当するものである」
あらあら! 私にも勲章をくれるのね! ディートリヒ陛下ったら意外と太っ腹だわ!
それに私の名にもイリスの名をつけてくれたわ!
ある意味でルーナ様ともお揃いね! フェリシア様にも名を冠するのかしら?
あと、流石にアルフィナはつけて呼んでくれなかったわね!
ドサクサに紛れて男爵位をゲット作戦、失敗かしら!
「三名は余の前に来るように」
「はっ!」
「は、はい!」
「はい!」
エルトにはドゥメニム勲章が。ルーナ様にはメテリアの祝福が与えられた。
私にはイリスの祝福。ルビーの宝石に銀で薔薇の形と剣を象っている装飾ね。
陛下から私はそれを受け取ろうと前に出る。
「クリスティナ」
陛下は私にだけ語りかけてくる。
「其方には三つの王命を課していた」
「……はい」
「そのうちの二つは其方にとって害あるものであり、すでに正式に撤回されている」
私は口を閉じ、陛下の目をまっすぐに見返す。
陛下の目には私の姿を懐かしむような、悲しそうな色が見えた。
私は王弟アーサーの娘。私はディートリヒ陛下の〝姪〟だったのよ。
私の姿に王弟の面影はあるのかしら。
「最後の一つをよく果たしてくれた。何より其方の戦う姿は多くの民に希望を与えた。それはまさにイリス神の現し身であるかのように。其方のことを余は誇りに思う」
「身に余るお言葉でございます、陛下」
私は流石に空気を読んで真面目に礼を取る。
「其方からも余に言いたいことはあるだろう。多くの理不尽を強いてきた。余は勲章を与える前に、そのことを其方に謝りたい」
そう告げて陛下は私に頭を下げる。国王陛下が、だ。そのことに動揺の声が広がる。
……すでにレヴァンから公式な謝罪は受け取っている。
しかも、その光景はフェリシア様の『光翼蝶』の【天与】で民に伝えられたらしい。
なら、私がこれ以上、王家から頭を下げられる理由はない。
「陛下、どうか頭をお上げください」
「…………」
頭を上げた陛下に、私はニコリと笑って姿勢を崩し、両手を広げてみせる。
何をする気なのかわからなかった陛下は、困惑した様子。
「イリス神の薔薇の祝福をリュミエール王国に。王国に暮らす民に、そして王家に」
パァアアっと光が溢れ、私を取り囲むように黄金の薔薇が咲き誇る。
「おお……」
国王陛下、私の出した浄化の黄金薔薇に驚いて目を見開いた。
「陛下の下した王命こそが、私に真実の愛を知る機会を与え、イリスの薔薇を、イリスの剣を、真に私に宿したのです。かつての私は、愛というものを真には知りませんでした。その一端をこの旅で知り、触れることが叶った。大いに価値のある旅でした。これからは愛する彼とともに、臣下の戦士として王家に仕えましょう。この祝福は私から陛下への感謝の証でございます」
「……ふむ」
エルトのことを少し匂わせると困ったように微笑まれたわ。
「では、クリスティナよ。このイリスの祝福を其方に」
「ありがたく頂戴いたします」
こうして私は『イリスの祝福』を陛下に賜ったの。
「では、改めて。ここに戻った英雄たちに栄光を!」
陛下の号令と共に『わぁああああああ!』という歓声が上がったわ!
ふふふ! やり切ったわね!




