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傾国の悪女になんかなりません! ~蛮族令嬢クリスティナは予言された破滅フラグを【カンスト】パワーでへし折ります~  作者: 川崎悠
四章 傾国の悪女になんかなりません!

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103 姉妹喧嘩

「浄化の黄金薔薇!」


 視界に捉えたレミーナ王女の周りに薔薇を咲かせようとする。

 でも、上手く咲かない!


「妨害されているわ!」


 私は再度、ユリアンに向き、睨みつける。


「ふふ、最も厄介なのはやっぱり君らしい。だからこそ愛おしいのかな」


 青い髪はそのまま、瞳の色だけ赤く染まったユリアン。

 チリチリと視界が歪むのは『予言』の【天与】の前兆……。

 私は今、それに気を取られるのはよくないと意思でねじ伏せる。


「完璧な隠蔽だったはずだよ。なのに君は誤魔化せなかった」


 パーティー会場は悲鳴と混乱で埋め尽くされ始める。

 レミーナ王女に起きた異変。それとユリアンが放つ空気。


「……! 私がレミーナ王女を浄化します! クリスティナ様!」

「任せるわ!」

「はい!」


 ルーナ様が状況を見て、あっちの担当を願い出てくれる。

 邪神の名を騙った以上、こいつは自由にさせられない。


 兄であるユリアンが相手だからか、フェリシア様は硬直しているのがわかる。

 でも離れてはいかない。その正体に確信が持てないのかも。


「エルト、武器は」

「……流石に隠してはいない」


 王族も参加するパーティーだ。許可もなく武器は持ち込めない。

 それを狙ってきたのだとしたら、今までの知性が欠落したか歪んだ邪神とは違うわね。


「彼では私には勝てないよ、クリスティナ」

「名前で呼ぶ許可は出していないわ。弁えなさい」

「ふっ……そんな君が、」

「あとエルトがあんたに負けているところなんてないからね!」


 ユリアンの台詞をぶった切って否定しておくわ!

 聞く価値があるとは思えないし!

 別に敵の本拠地を明かすわけでもなさそうだから、聞かない!


「…………」

「あんたにまったく魅力ないから! フェリシア様のオマケよね! レヴァンよりダメだわ!」

「な、何をおっしゃっているの、クリスティナお姉様……」

「ミリシャ、あんたって男を見る目がないんじゃない? 王子様とか、公爵令息とか、そういうところだけ見ているからハズレを掴むのよ! 反省しなさい!」

「なっ……!」


 状況についていけずに言葉を失っていたミリシャに感情が戻り、激昂する。


「なんですって! お姉様だって婚約破棄されて、捨てられて、英雄になった相手に飛びついただけじゃないの! 伯爵令息ですって! 騎士ですって! 情けない!」

「身分とかどうでもいいわよ! そういう次元の話じゃないし! あと騎士は格好いいわよ! 私も騎士になりたかったもの! 私のお母様だって女騎士なのよ! そういう家系なのよ!」

「私の家系を貶めないで! 一緒にされたくありませんわ!」

「あんたの家系と私の家系はもう別なのよ! 知っていたくせに何を混同しているの! あんたはもう私の妹なんかじゃないわ!」

「なっ……私はクリスティナお姉様の妹よ!!」


 ええ? そこは拘るの? 違うって知っているじゃないの。

 しかも、あれだけ疎んでおいて。


「あんた、私に暗殺者を送り込んだでしょうが! 知っているんだからね!」

「は? 暗殺……」

「忘れたわけ!? アマネにやり方を聞き出して、王家の影もどきを送り込んだでしょう! 証拠も残っているんだからね!」

「え……。予言の聖女……、……あ」


 この子、忘れていたわよ!? なんて子なのかしら!

 一気に顔色を青くするミリシャ。


「でも残念でした! あんたが送り込んだ暗殺者は私の幼馴染だったの!」

「は……?」

「今は足を洗って元気にやっているわ! とっても残念ね! 陛下のお墨付きをもらって自由の身になれば、もう完全に一般人よ!」

「幼馴染? 暗殺者が? 何を言って」

「あんたは私の邪魔をするつもりが、全部、私の手助けをしてくれていたってわけ! うふふ、ざまぁないわね!」

「なっ、なっ、ふざけないでくださいませ!」


 ミリシャが立ち上がってキーキーと叫んで突っかかってこようとする。

 私は近付いてきたミリシャの胸倉を掴んだ。


「え」

「フンッ!!」

「きゃああ!?」


 そして、そのまま後方に投げ飛ばす!


「よし! 人質救出、成功よ!」


 ミリシャったら、邪神の名を騙ったユリアンのすぐ足元にいるんだもの!

 危ないったらないわ!


「おや、そういうつもりだったのか。微笑ましいものを見ているつもりだったが」

「悠長に観察する余裕があってよかったわね! その間に人も武器も回していると思うわよ!」

「……へぇ? 考えていないようで考えているんだな」


 とはいえ、ジリジリと距離は取る。

 なにせ【天与】が使えない。どうにも詰まっている(・・・・・・)感じ。

 今はエルトがそばにいるから平気けれど、この感覚はどうにも不安を掻き立てる。

 かつて邪神の体内に呑まれた時、異能の力を引き剥がされて、一気に自信を失った感覚に似ているわ。


「きゃあああ!」

「!?」


 レミーナ王女とルーナ様とは別の方向で悲鳴が上がる。

 視線だけ向けると、黒い霧に纏わりつかれたような男性が一人。


「いやぁあ、なんなの!」


 それだけじゃない。あっちでもこっちでも悲鳴が。


「くくっ、どうする? 君たちの手は足りているかい?」

「……あんた」


 【天与】が使えればどうってことないはずなのに、妨害されている。

 ルーナ様の方は……いつもより出力が弱く見えるけれど使えている?


「なぜ、と思うかい?」


 混乱と喧騒は広がり、会場から逃げていく者たちと、中へ入ってこようとする騎士たちが衝突する。

 会場内のいくつかの場所から発生した黒い霧、瘴気は明らかに邪神の一部を思わせるそれ。

 レヴァンとルーナ様はレミーナ王女の救済にかかりきり。

 エルトは私のそばで警戒してくれている。【天与】が使えないなら私は戦力外だわ。


 ユリアンの狙いは私なの? さっきから私にだけ注目している。

 他のすべてがどうでもいいみたいに。そこが狙い目ね!


「あんたは本物のユリアンじゃないわね!」


 相変わらず【天与】由来の直感が働かないから、適当なことを言うわよ!


「あんたはその体を乗っ取っているだけ! でも、ユリアンの魂は無事だわ! だから、ここであんたをぶっ飛ばしさえすればフェリシア様の本当のお兄様も元に戻る!」

「……!」


 フェリシア様が息を呑む音が聞こえた。ハッとしたのでしょう。


「おかしなことを言うね? そう言えばフェリシアが君の味方になってくれると? 残念だが、私は私のままなんだ。ユリアン・ルフィス・リュミエット自身だよ。ねぇ、フェリシア」

「ユリアンお兄様……」

「私はね、フェリシア。君のために、」

「テンセイシャは! 邪神の欠片で! 記憶も仕草も乗っ取れるみたいね! だから、あんたはユリアンの真似事もできるし、共通の思い出だって騙れるのよ! でもね! 他ならない私が言うわ! あんたはユリアンじゃない! どんなに本物に見せようったってね! それは確定事項! 無駄なことをしない方が身のためよ!」


 もう一発殴ってやりたいんだけど、右手は痛いまま!

 【天与】が表に出てくるのを封じられている感覚が続く!

 こうしている間にも会場は混乱と、それに実質的な被害も出てき始めている!

 かといって、こいつを自由にさせるリスクが高いし、何より私狙いと見せかけてフェリシア様狙いだったら目も当てられない!


「……本当に思い通りにはいかない女だな」


 ユリアンの余裕は崩せていないけれど、少し苛立たせることはできたみたい!


「それで? どうしたい? このまま私と睨み合って、それですべてが解決するのかい?」


 打つ手は考えているけれど、どれもいまいち。

 騎士たちが会場に入ってきてエルトに剣を渡してもらえれば……。

 フェリシア様が【天与】を使えても抗う力になるかあやしいかも。

 でも、ないよりはずっといい。何より私たち、協力は前提な気がする。


「君も情けない男だな、ベルグシュタット卿。先程の蹴り以外は黙っているままか。すべて彼女任せなのかい? 見ての通り私は一人だ。王国一の騎士という自負があるなら、君一人で私くらい制圧してみせようとは思わないのかな」


 エルトに矛先を向ける。かといって歩いて近付いてくるでもない。

 邪神の力を使えるなら私みたいに遠隔でどうにかできる手段があるかも。

 エルトは警戒を怠っていないから黙っているのよ。

 彼に挑発を向けるってことはそこから崩したがっているの?


「どうした。言い返すこともできないほどか。私に怯えているのかな?」


 エルトに声をかけるか。ううん。私が声をかける必要なんてない。


「お前はクリスティナに相応しくないぞ」


 ようやく言い返したエルトが発したのは、そんな言葉だった!


「彼女は素敵な女性だからな。目が奪われるのも仕方ないが、彼女の伴侶は俺だ。残念だったな。お前は彼女に望まれていない」


 ミリシャと口喧嘩してみせた私に負けず劣らずの切り口ね!

 でも今日一番、ユリアンの余裕を切り崩せた気がするわ!

 表情にちょっと怒りが滲み出ているもの! 邪神の自我って男性なのかしら!?

 モテないって言われたら気にするタイプ?


「……そうか。二人揃って、その態度か」


 動く。


「クリスティナ!」

「ええ!」


 私はルーナ様を庇うように横に飛ぶ! エルトは反対側!

 私たちが躱したその場に黒い瘴気の塊が、地面から槍のように伸びる!

 薔薇槍と似たようなことをしてくるわね!

 いえ、これはまさか、そのもの?

 【天与】の力をそっくりそのまま黒く染め上げているような。


「フェリシア様! 戦えないなら逃げるしかないわよ!」

「く、クリスティナ……様、でも」

「言っている間に迫ってくるわ!」


 黒い薔薇の蔓が絡み付いてこようとする。

 フェリシア様を抱えてどうにか離れるけど、床からその都度、湧き出てくる!

 敵に回すと厄介な力ね!


「これは『毒薔薇』の【天与】……? どうして」

「さぁね! 逆に私のは使えなくなっている! フェリシア様は!?」


 距離を置きつつ、視線は外さない。

 反対側に交わしたエルトが足元に落ちた物を拾ってユリアンに投げつけながら移動している。


 それらはユリアンに当たることなく、その周りに発生した『黒薔薇』によって防がれる。

 もし、私の【天与】を盗んで使えるとしたら。


 ユリアンは私を見ながら、にやりとほくそ笑んだ。

 おそらく私がその結論に達したことに気づいたから。


「──開け、大地の傷よ」


 バキン!


 パーティー会場の中央、その空間に大きなヒビ割れが発生する!

 バキバキと音を立てて割れていき、異界につながる穴から顔を出したのは。


『グルゥゥゥ……!』


 ドラゴン? いえ、似ているけど違う何か。

 頭部はドラゴンのようで、でも体には翼がない。太い脚に鋭い爪。

 何よりも大きな頭部に、大きな牙……いかにも狂暴そうな魔獣の姿!


「あれはたしか、恐竜という……生き物?」


 フェリシア様がそんなことを呟いた。

 恐竜! なんだかわからないけど竜の一種みたいね!


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