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第七十ニ話

「森に魔力が?」

「はい。そのうちの一つの所有者は確認済みですが、

問題の魔力所有者については未だ不明です」

「魔力を取り込んだと言ったな。体に異変はないか」

「ありません」

 そうかと一言呟いて、ラウルは机に肘を置き組んだ手で口元を覆い隠すようにして息を吐いた。

ラウル自身も魔女の森についてはあら方知っていた。

だが、ルイーナから報告された森の現状は彼が思う以上に最悪だった。

「他は」

「採取した物を解析していますが、それらしい検査結果は出ていません。

現在の森では魔力の解析、警戒態勢及び警備強化を行いました」

「陛下には私から報告しておこう……。

お前ももう休みなさい」

「はい、失礼します」

 こめかみに指を置き唸るラウルに、ルイーナは思わず苦笑を溢した。

ラウルのその仕草は、ルイーナも初めて魔女の森の報告書を見た時にした仕草だったからだ。

「ふぅ……」

 ルイーナが執務室を去った後、一人となった執務室でらラウルはここに来る際にルイーナが、何時に部屋へと持ってきた緑茶を飲んだ。

ルイーナか好んで飲むようになったのこのお茶は、今までその香りの良さから部屋の扉香として焚かれていた。

ルイーナがそれは茶葉だと教えてくれなければ、自分達は今まで通りただの香としてしか使うことは無かっただろう。

 緑茶は紅茶とは違い甘さと言うよりは苦味や渋味が目立つ。

だが、それ以上に落ち着く香りと体の芯から温まるような感覚は、紅茶では味わえないものだ。

「さて、どう陛下に報告したものか……」

 ルイーナは変わった。

今まで体が弱くベットから起き上がる事もままならなかった子供が、ある日突然回復した。

あの子はもう死ぬだろうと勝手に諦め見限って、見舞いにさえも行かずファウスト家の為にとアルバに酷い教育を行った。

神の愛娘であるルーチェにも勉学や食事までも厳しくした。

アナスタシアにも神の愛娘を産んだ彼女が狙われると、彼女が好きだった茶会にさえも参加させず屋敷に閉じ込めた。

 そのせいで、自分が家族を壊していると理解すらしていなかった。

ただファウスト家の、家族の為だと信じて疑わなかった。

 だがあの日、ルイーナはそれは違うのだと言った。

父に怯え目を合わせる事も出来なかったあの子が、その父の目を見てハッキリとそう言ったのだ。

臆することなく堂々と自身の意見を言葉にし行動するその強さも度胸も、今までのルイーナからは想像もできないものだった。

まるで信念を貫き誰かの為に前に出て戦う歴戦の戦士を思わせる風格に気圧された。

 そしてアルバとルーチェの笑顔に自身は間違っていたのだと言う事実が叩き付けられた。

あの笑顔は見たことが無かった。

何時だって恐怖に染まり怯えた表情しか浮かべていなかったから。

 許されない事をした。取り返しのつかない事をした。

それでも子供達は良いのだと許しを与え、家族として温かな家庭に戻ろうと受け入れてくれた。

その後にあった賊に屋敷を襲撃された時も、ルイーナは自分だって傷だらけにも関わらず恨んでいたであろう親の心配をして、賊と戦っていた。

あぁ、あの子は変わったのだ。

あの子は、変わる事しか出来なかったのだ。

元より優しい子だったが、今のルイーナは失う事に誰よりも何よりも恐怖している。

だから強くなろうと必死で、生き急いでいるのだ。

それに気付きながらも何も出来ない己が歯痒かった。

今まで出来なかった分、どうにかしようと足掻いたがルイーナは先へ先へと進んでいく。

 そしてより拍車が掛かったのは、陰となった事だった。

陛下にあの子はまだ子供だと、護られるべき子供なのだと訴えても、お前もしてきた事だろうと聞き入れられなかった。

今度こそはと心に決めても、過去に己が行ってきた行為は消えはしないのだとこの身を以て知ったのだ。

「無理だけはするな………。

私を、私達を頼りなさい」

 こんな事言う資格が無いのは分かっている。

だが独りになろうとする我が子を放っておける訳がないだろう。

自分じゃなくても良い。家族の誰かじゃなくても良い。

あの騎士達やルイーナの友でも良い。

頼る事と覚えてくれとラウルは願う。

頼りにしていると言葉にしても、肝心の事は頼ってくれない我が子を少しでも護れるよう、今日もラウルはペンを握り机へと向かう。

 ラウルが引き出しから取り出した何十何百と言った書類には、この国を護る砦や要塞の事細かな詳細が所狭しと書かれていた。

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