第七十一話
「ただ今戻りました」
日が赤く燃え上がり夜の帳が引かれる頃、ルイーナはファウスト家へと帰ってきた。
「おかえりなさい、お兄様!」
「兄様!おかえりなさい!」
「ただいまルーチェ、アルバ」
扉をくぐり暖かな室内へと入れば、両脇からアルバとルーチェが駆け寄りルイーナへと抱きついた。
それに嬉しそうに頬を緩ませ二人を抱きしめ返したルイーナは、一度強く二人を抱きしめた後にその頭へと手を置いた。
「ルーチェ何か作ってたの?甘い匂いがするね。
アルバは剣術終わりかな?体幹もしっかりしてきたし良くは頑張ってるな」
「ケーキを焼いたんです!後でお兄様にお渡ししますね」
「今日はヴァレリオ卿からあと一歩のところで負けてしまったので、次こそ勝ちます!」
「ふふっ、ありがとうルーチェ今から楽しみだよ。
あのヴァレリオ卿にあと一歩何て凄いな!また今度一緒に手合わせしようか」
撫でられかけられた言葉にはにかむ様に笑うルーチェとアルバ。
その笑顔に癒やされたルイーナの顔はユルユルだ。
「……いつまでもそうしていないで、早く荷物を置いてきなさい」
「おかえりなさい。そろそろ夕食よ」
「はい父様、母様」
二階の階段から降りてきたラウルとアナスタシアに声を掛けられたルイーナは、名残惜しいそうにゆっくりとアルバとルーチェから離れ、二階にある自室へと荷物を置きに向かった。
「後でご報告したいことが」
「……分かった」
ラウルの側を通り過ぎる際にルイーナがその耳近くで言葉を発すれば、彼は一つ頷いた。
そして執務室とだけ放たれた言葉の意味を理解したルイーナは、頷き階段を登り部屋へと向かう。
「……あ、そうだちゃんと持っておかないと」
服を着替え、部屋を出ようとしたルイーナが忘れていたと再度部屋に戻った鞄の中から取り出したのは懐中時計だった。
中心に淡く水色に輝く水晶がはめ込まれた懐中時計は、その水晶部分から時を刻む銀色の秒針や藍色に輝く海を思わせる円盤が覗いている。
「やっぱり綺麗だよなぁ………」
掌で転がせば、その度にキラキラと輝くそれに思わずと言ったように呟いたルイーナ。
この懐中時計は、ファウスト家に帰る前にセルペンテから渡された物だ。
『コレをお持ちください』
『懐中時計?』
『持っている人間に、何かしらの危険が迫っている場合この中心部分の魔法石が赤く光ります。
普段はただの懐中時計として使えますよ。
………ルイーナ様の力を疑っている訳ではありませんが、何があるか分かりません。
なのでどうかお持ちください』
心配だと言葉に出さずともセルペンテにしては珍しくジュラルドやロドルフォの前で表情を分かりやすく崩していた為、二人の信じられないものを見るような目が今も忘れられない。
思わずその顔を思い出してしまい小さく笑ったルイーナは、最後に一度懐中時計を眺めてから胸ポケットへと仕舞い込んだ。
_____その時、懐中時計に嵌め込まれた水晶が赤く光ったのに気付かないまま………。
◇◇◇◇◇◇
「お兄様!こちらもどうぞ」
「ありがとうルーチェ。やっぱり家のご飯が一番だなぁ」
「父様、これを掛けても美味しいですよ」
「むっ………確かに上手いな」
「あらあら、やっぱり家族皆で食べる食事は賑やかで素敵ね」
普通の貴族ではあり得ない、まるで日本の何気ない食卓のように交わされる言葉や広がる笑顔。
それにルイーナが教えた、前世の食事もテーブルに並べられており、尚更日本感が増している。
違いを上げるとするならば、拭えない異国要素だけだろう。
貴族が鯖の味噌煮を食べて豆腐に薬味をかけて食べているなんて、普通なら想像もしないだろう。
ゲーム会社が日本のせいなのか、日本食は勿論様々な国の食材が充実している。
だがそれでも日本食をこの辺りで食べる者はおらず、そも他の国の料理は作り方が分からないのかメニューなんてものすら無い。
ただ食材があるだけで、この世界のメインはイタリアやフランスと言った外国の食事がメインだ。
だが、ファウスト家にはこの世界では知られていない料理を知っているルイーナがいる。
元々趣味で料理は勿論の事ながら、様々な調味料の製造や創作料理等もしていたルイーナだ。
食材さえあれば醤油だってマヨネーズだって、何なら味噌だって作れてしまう。
そしてその姿を見たアナスタシアやルーチェが料理に沼り、食卓は様々なこの世界ではあまりみられない料理の数々が並んでいるのだ。
美味しい料理に舌鼓をうち、お腹もいっぱいになり食後の紅茶やルーチェ特製のケーキを食べ終えたルイーナは、最後にアナスタシアやルーチェ、アルバと別れ先に部屋を出た父のラウルを追い掛けるように部屋を後にしたのだった。




