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第四十七話

スペランツァとカングそして車内にカテーナと子供二人を乗せて馬車は動き出した。

風を切り颯爽と走る馬車の車内では、穏やかな外の空気とは裏腹に冷ややかな空気が流れているようだった。

「…………なぁ、アンタ等って目立ちたくないんだろ?

馬車になんて乗ってたら、それこそ目立つんじゃないか?」

「この馬車には馬車の所有者が許可を出すか、許可されたと証明できるのもを持っていない者には見えないようにする魔法が施されているので、心配には及びません」

「へー、そんな魔法が掛けられてるんですね。

それを使ったのってリーダー、スペランツァさんですよね?」

「それが何か」

「只の興味本位ですよー?

……………でも、あの人は魔法使いと言うより魔法と武芸を両立させた魔法剣士の方が合ってそうですよね。

そして貴方方は騎士だと言われた方がしっくり来ますね?」

ピクッ………と指先が僅かに反応したカテーナに、銀髪の子供はその顔に浮かべていた笑みをより深く楽しそうなものへと変化させた。

車内の冷ややかな空気に耐えきれず当たり障りの無い質問をしたにも関わらず、銀髪の彼が放った言葉で先よりも更に温度が下がり冷たくなった空気に、自身が出来得る限り体を小さく丸めフサフサとした尻尾に顎を乗せた人狼の子供は内心少しだけ泣きそうになっていた。

余計なことを言うなと隣に座る彼を睨みつけるが、睨み付けられている当の本人はソレをものともせずに更に言葉を投げつけた。

「あの場で別れた人は騎士とは違うけれどソレに似通った物があるように感じました。

貴方とスペランツァさんはどうやって出会ったんです?

何故貴方方は彼に付き従うのですか?」

空気が、氷のように冷めきった。

自分が氷漬けにでもされたんじゃないかと錯覚してしまいそうになる程に動けない。

今動けば、殺されるんじゃないかと思わせる空気だった。

「…………………………はぁ、最近の子供は質問が多くて困る」

「すみません。気になったことは聞かないと気が済まなくて」

_____張り詰めていた冷ややかな空気が拡散した。

しやすくなった息を大きく吸い込み、吐き出した人狼の子供はこの場の空気を作っていた二人を盗み見て、見なければ良かったと後悔した。

銀髪の彼は口元は笑みを浮かべているが、その目は笑っておらず興味深そうにカテーナにを見ていた。

そしてカテーナは無表情ながら呆れたように銀髪の彼を見ていたが、その目は少なからず何かを警戒しているようだった。

「それで?質問には答えてくれないんですか?」

「…………私達はあの人に忠誠を誓いあの人が護りたい者を護るように、あの人の事を護ると誓っただけの話しです」

「ふーん。

遥か昔に行われた忠誠の儀式をしてまで?」

「忠誠の儀式?」

聞き慣れない銀髪の彼の言葉に、思わずと言ったように声を出してしまった人狼の子供は、しまったとカテーナを見た。

だが当のカテーナはただ探るように銀髪の彼を見ていたため、人狼の子供が言った言葉は気にしていないようだった。

「忠誠の儀式。

それは自身が唯一と認めた主を離さない為のもの」

これは女神も妖精も、まだ地上に舞い降りる前のお話。

嘘か真か解明はされていないが、それでもその伝承だけは後世に受け継がれるお話。

遠い昔に心優しい王がいた。

王は民が食料がないと嘆けば自身の食料を渡した。

王は金が無いと嘆く民に自身の財を渡した。

王は国が戦に負けてしまうと嘆けば、自分の身を囮に使い民を避難させ最後まで戦った。

そんな王を道化だと笑う者がいなかった訳ではない。

ただ王は優しすぎた。

自身が騙されていると知っても、馬鹿にされていると知っても、王は民を見放さなかった。

だが、王の優しさで救われた者達もいるのだ。

彼等は哀しんだ。

何時も笑顔を浮かべている王が、その裏で涙を流しているのを知っていたから。

彼等は怒った。

王を道化だと嘲笑い王の優しさを利用する者達がいることを知っていたから。

彼等は辛かった。

王は自分は誰にでも手を伸ばし掬い上げるのに、王自身は手を伸ばされても自身に手など伸ばす者はいないと思い込んでいたから。

独りを選び、独り暗く深い闇に墜ちていこうとしていたから。

彼等は王に気付いて欲しかった。

貴方に救われた者が、貴方を慕う者がこんなにも沢山いるのだと言うことを。

貴方が救ってくれたように、自分達も王を救いたいのだと。

王と共にならば、例え深い闇の中でも笑って共に歩めるのだと。

そして、王は遂にその身を国の為に差し出そうとした。

世界のために、国の為に、自身を生贄に求めた厄災の元へと独り逝こうとしていたのだ。

民は喜んだ。王のお陰で世界には平和が訪れるのだから。

民は哀しんだ。心優しい王が、自分達の為にその身を犠牲にしようとしていたから。

そして悲しみ哀しみ怒った彼等は、厄災の元へと向かおうとしていた王を引き止めた。

何故、王が犠牲にならなければいけないのか。

それは私だけが、この厄災から皆を護れる者がいないから。

何故、王はそうまでして自身を犠牲にするのか。

民を、国を、この世界を愛しているから。

そう答えた王は、笑っていた。

だから王を引き止めた者達は、王を贄にさせない為に抗うことを決め、王を独りさせない為に動いたのだ。

王と自分達を繋げるための儀式を、行ったのだ。

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