第三十八話
「何で、俺は……俺は二人の為に頑張らないといけなくて……」
「頑張ってるじゃないか。でも、それが君が独りにならないといけない理由にはならないでしょう?」
何でそんな目で俺を見るんだ。
俺にはそんな価値なんてない。
俺は何も出来ない、何も護れない弱い奴なんだ。
アルバとルーチェを、弟妹を今度こそ護ると決めた時に、一緒に決めたんだ。
『これ以上、大切な人を作らない』と。
俺のこの手から、また大切なものが溢れ落ちるのを見たくはないんだ。
何も護れずに奪われるだけなのは、もう嫌なんだ。
なのに、なのに何で………。
放っといてよ。俺の事何か放っておいてくれよッッ!!!
俺は何も出来ないんだよ?
二人を護ると息巻いていても、俺はアルバみたいに魔法を上手く使えるわけじゃない。
敵を倒し誰かを導くカリスマ性も持ってない。
ルーチェの様に誰かの身も心も癒す力も、誰かを笑顔にする力も持っていない。
二人のように、運命に抗おうと、自分の未来を掴み取ろうとする強さを、俺は、持っていない。
「俺は、俺は……」
「貴方独りが犠牲となって何になりますか。
……貴方がいなくても世界は回り続けるでしょう。
ですが、貴方に救われ貴方と共にいきたいと願っていた者の中にある世界には貴方がいるんです。
その貴方が消えてしまったなら、その世界は回らなくなってしまう。
それだけ、貴方が大切なんです」
どうして放っておいてくれないんだ。
何で独りにしてくれないんだ。
これ以上、大切な人を作っても俺は多分きっと護れない。
陰となる俺は今後は危険な事と隣り合わせになってしまう。
そうなってしまえば、俺の周囲に危険が及ぶのは当然。
俺の側にいれば当主になれなかった落ちこぼれと笑われるのに巻き込まれるかもしれない。
そんな事に、この二人を巻き込みたくない。
「………止めて下さい。
俺はそんな事望んでいません。迷惑なんです。
アルバとルーチェを護衛して下さっている事には感謝しています。
ですが、その対象に俺を入れないで下さい。
俺は確かに貴方方よりも弱いですが、自分の身は自分で護れますので」
だから離さないと。
主だとか愛してるだとか、そんなものは優しいこの二人の同情心から来るものだろう。
………でもそれは、俺なんかの薄汚れた生き汚い奴に向けるべき感情じゃないんだ。
それは、本当に二人が心の底から大切だと想える人に向けるべきものなんだ。
「話はこれで良いでしょう。出口まで案内するので、そろそろ手を離して下さい」
顔を抑えてるため、俯くことは出来ないが目を逸らす事は出来る。
そして目を逸した先には、じっとこちらを見るフィンの姿があった。
『またそうやって逃げるのか?』
「………俺は事実を言っているだけで逃げてなんかないよ」
分かってるさ。これが只の逃げでしかないなんて。
だってそれを向けられる程の価値が云々じゃなくて、俺はそれを向けられて受け入れた先に失望されるのが怖いだけなんだって。
でも、護れずに失望されるより最初から離れて離してしまったほうが、俺にとっても相手にとっても良いでしょう?
『だが、その子らはそうでは無いらしいぞ?』
「せいかーい。俺達の覚悟はそんな簡単に崩れないさ」
「我々の想いや願いの強さは、貴方が思うよりは硬いですよ?」
「んっ……!!何をしてるんですか?!」
その瞬間、周囲がドーム状の空間に隔離されると同時に騎士の二人がその身体から魔力を大量に放出させた。
ドーム状のこれは、魔力を感知されない仕様らしいがそんな事は今関係ない。
こんなに大量の魔力を一気に放出させれば、彼等の身体が耐えきれず傷付くか、最悪の場合は魔力不足で命を落とす可能性がある。
頬に当てられた手や、腕を掴む手からも感じる魔力がビリビリと肌を伝い、それがただの見掛け倒しではないという事が嫌でも理解できてしまう。
『ほう?今代の人間でそれを知っている者がいるとはなぁ』
「わお、それを知ってる貴方が何なのかも気になるなぁ」
「そんなのほほんと言ってる場合ですか?!
早く魔力を抑えないとっ!!」
『無理だろうなぁ』
「何でッッッ?!!」
『それは神聖な儀式。途中で止めてしまえば問答無用で命は無いだろうなぁ』
「儀式って……何の儀式なんだよ?!」
「簡単に言うなら、君を縛るものかなぁ。
同時に俺達が君の絶対的な味方である事を証明する為のものでもある」
「そんなもの、只の迷惑でしか無い!そんなもの俺は望んでない!いい迷惑なんだよ!!」
「だってこうでもしなければ、貴方は信じないでしょう?」
だからと言って、簡単に命を危険に晒すような真似なんて……!!
「巫山戯るな!!そんな簡単に投げ出せるような命なんていらない!!
俺はただ笑って欲しい!幸せに生きて欲しいだけなんだ!
アルバもルーチェも、家族や友人…アーテルさんもテネブラエさんも、笑って幸せに生きていないと駄目なんだよ!!」
巫山戯るな巫山戯るな!!
また目の前で誰かが命の危険に晒されている。
しかもその理由が俺だって?
今でさえ手一杯なのに、二人の命を掛けられたら、俺は何をすればいいか余計に分からなくなるじゃないか!
何も出来ないんだと、護れないんだと言う現実が俺を潰しに来る。
力が弱まり離れていく二人の手を逆に俺が掴む。
「こんな事で死んだら赦さない!天国でもどこでも追いかけて引きずり下ろしてやる!
それ嫌なら死ぬ気で生きろ!!!」
二人以上に魔力を放出させ、冷めていく熱に弱まっていく命の灯に俺の魔力を注ぐ。
額から汗が流れ、身体が熱くなる。
痺れ始めた手で掴んだ彼等の手を離さないように強く握り締める。
「俺を縛る?寝言は寝てから言え!!
俺を掴めるのは血の通った腕だけで、死んだらあんた等の事なんかすぐに忘れてやる!
薄情で結構!俺は心優しい出来た人間じゃないんでね!!」
「あんた等が生きて、死にかけてもまだそんな事が言えるなら俺を好きにすれば良い!」
「______言質は、取ったからね?」




