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第三十九話

 苦しげに呟かれた言葉と共に、あれだけ大量に放出されていた魔力がまるで初めから何もなかったかのように消えた。

慌てて俺自身も魔力の放出を抑える。

未だ理解できない状況の中、二人を伺い見れば件の二人は疲れ切ってけして顔色が良いとは言えないが、それでもその口には笑みが浮かんでいた。

「はぁ?」

『ククク……面白い顔をしているぞ?』

「え、だってこんな簡単?は??」

意味が分からないよ。

何だってこの二人は笑ってる?

何で死にそうになってたっていうのに、笑えてるんだ??

「いやー、危なかったなぁ」

「成功してよかったですけど、彼が困惑してますよ」

「あや、ごめんね。ちゃんと説明するよ」

彼等が言うには、確かにこれは命の危険があるがけして蔑ろにしたわけではないらしい。

「それを信じろと?」

「俺達は別に何も考えないでやったわけじゃないよ?だって大丈夫だって確信があったからね」

「確信?」

「貴方が我々を助けようと動いてくれることを、です」

「は?」

出会って一年もたっていない、子供を信じる?

実力も何もかもが国内でも最高潮の騎士ともあろう人達が、自分達よりも劣る子供を信じる?

命を危険に晒してまで??

やっぱり、どう考えても意味が分からない。

「………もう知りません。俺みたいな子供の何を信じるっていうんですか。

俺は貴方達の事なんてどうでも……い”ッッ?!」

どうでもいいと言おうとした瞬間、身体中に電流が流れたような痺れが走った。

今日は何かと痛みが走る日だなぁと、ある種の現実逃避の言葉が脳裏に浮かぶ。

痺れにより立っていられなくなった体は、直後には地面に叩きつけられるだろう。

意識もモヤが掛ったようにハッキリとしない。

受け身さえも取れないだろうから、もしかしたら痣になってるかもなぁ。

「おっと」

地面に叩きつけられる前に、腹辺りに腕を回され引き寄せられたことによって何とか衝突は避けられた。

「嘘は駄目だよ?」

「嘘なんて……」

「でも今、嘘ついた?つこうとした?よね。

だからこうなってるんだから」

「先程のアレは互いを繋げるためのものなんです。

例えば今のように嘘をついたりすれば今のようになります。

それ以外にもありますが……それはまた今度お教えします。

因みにこれの成功条件は互いが信頼し合ってることですよ」

色々と爆弾発言が聞こえてきたが、未だ残る痺れによって話すことも考えることさえも億劫だ。

「これ、俺達も君を裏切ったりすれば色々と大変なことになりますから」

………さらっとやばいこと言ってる気がする。

寧ろさっきからやばい事しか言って無くないか?

「でもこれくらいハッキリとした形のものがなければ、貴方は我々を信用してくれないでしょう?」

「それに俺言ったよね?無理はしないって約束したのに独りで抱えて無理しようとしたね?

その場合、お仕置きだって言ったよね?」

笑ってるのに顔が怖いですぜ旦那。

あと顔が近いのと回された腕の力が強くて胃の中の物が出そうな気がします。はい。

「で、これだけ目に見える形にしてもまだ信用できない?」

「その顔はまだ納得してないですね」

……だって、だって信じれるわけないじゃないか。

それで何度失敗したか。

信じた先で裏切られることがどれだけ辛いか。

それに何より、信用して信頼もしていた人達が傷付いてしまったら、俺はどうすればいい?

「ふむ……。

私、ジュラルド・アーテルは未来永劫ルイーナ・ファウストに忠誠を誓い共に歩むことを誓います」

「私、ロベルト・テネブラエも未来永劫ルイーナ・ファウスト様に忠誠を誓い共に歩むことをに誓います」

右手と左手をそれぞれまるで祈るように持ち上げられ、その指先に軽く唇を当てられた。

『おぉ、騎士の誓いを受けた者は勝利が約束されると言われているからなぁ。縁起がいいぞ』

「フィン……」

「子供は大人を頼るものだ。

どれだけ精神的に成長していても、君はまだ子供なんだ。護られて良いんだ。

独りで抱えないで、その重さに押しつぶされる前に頼ってほしい。

君が家族を護りたいと思うように、俺達も君を護りたいし支えたいんだ」

「独りでいこうとしないで下さい。貴方が護りたいものを、我々にも護らせて下さい」

………止めてよ。そんな事言われたら、折角決めた覚悟が鈍って揺らいでしまうじゃないか。

「俺は、貴方方が思うような奴じゃない」

「それでも一緒にいたいんだ」

「俺といたら、貴方方にも迷惑を掛けてしまう」

「迷惑だなんて思いませんよ」

「俺は、何も返せるようなものを持ってない……」

「返しが欲しくてしてるんじゃない。

俺達がしたくて、俺達自身の望みを叶えるためにしたこと。

それに、愛にお返しを求めるのは違うでしょう?」

顔がイケメンな人は言葉もイケメンなんだな……狡い。

あ”あ”ぁーーーーーっ、もう降参だよ!

こんなにされたら、もう離せなくなっちゃうじゃないか。

頼りたくなってしまうじゃないか。

大人は狡い!大人と言うかこの二人、アーテルさんとテネブラエさんが狡い!!

「そんなに言われたら、断れないじゃないですか」

「頼って甘えたくなっちゃうじゃないですか」

二人はそれはもういい笑顔だった。

安心したような優しい眼差しがむず痒い。

視界の端に写るフィンも尻尾も嬉しそうにブンブンと風を切り振られている。

『子供は甘えていい。それはルイも同じだ。

独りで抱え込むな。人を頼る事を覚えなさい』

「…………うん」

先の痺れのせいかは分からないが、何故か眠くなってきた。

それに気付いたのか、俺を支えてくれていたアーテルさんが、それこそ子供のように俺を抱え上げた。

「眠いなら寝てていいよ」

「アルバ様やルーチェ様にはヴァレリオ卿に話をしてお伝えしておきます」

頭を撫でられてしまえば、眠らないようにとしていた抵抗が弱まり更に眠気が強くなった。

今度こそ抗えない眠気に、俺はそのまま眠ってしまった。





「寝たね?」

「ぐっすりですね」

己の腕の中で眠る子供を抱えなおしその顔を覗き込めば、スヤスヤと気持ちよさそうに眠る幼い子供の寝顔が見れた。

『それにしても、今代で忠義の義を見れるとはなぁ』

「こちらとしても、それを知っている況してや実際に見たことある方がいるとは思いませんでしたよ」

立ち上がりこちらに近寄ってきた白銀の狼は、俺の腕の中で眠る彼を見て嬉しそうに、安心したように目を細めた後に興味深いと言うように俺達を見遣った。

『もしお前達のようなこの子を支え共に歩む者が現れなければ、我が攫おうと思っていたんだがなぁ』

楽しそうに言っているが、その目は本気でそう思っている目だった。

『忠義の義は己の主と決めた者の枷となり守護者ともなる為のもの。

互いに嘘も付けぬ対等でありながらそうではない存在。

その意味を理解した上での行動であるな?』

「勿論ですよ。名実共に俺達は彼のもので彼の守護者。

そして彼を死なせない為に引き止めるための枷です。

俺達は……私達は彼を手放す気はありません」

『うむ。その言葉、努々忘れるでないぞ』

離さない。離せるわけがない。

今にも壊れてしまいそうなのに、自分の為と言いながら誰かの為に努力し続ける彼を見て支えたいと思ったのは本心だ。

傷付いてボロボロになっても笑う彼。

護るのだとその傷だらけの姿で笑う彼に胸が締め付けられた。

なら、誰かを護る彼を誰が護るというのだ。

彼を護りたいのなら、多少強引ではあるが彼自身に俺達は護られる対象ではなく、時に背を預け時に隣に立つ者であると知らしめなければならなかった。

眠る彼の首元から覗く二つの花の印。

あの儀式を行い成功した証は、俺達の首にもその印を残している。

「あの一度じゃなくて、俺達の主には名前で呼んでもらえるようにしないとね」

「そうですね」

初めて俺やロベルト君の姓を呼んだのは、無意識だったのだろう。

だが今度は姓ではなく名を呼んでもらえるようにしないとな。

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