EP8‐1 サイボーグ、暁に出撃す
今回から奴は旅に出ます。
城の部屋に戻った頃には夕方だった。
「では食事ができたらお呼びしますので」
「はい」
メイドさんが部屋を出たあと、俺は窓から城の屋根によじ登った。
そして、景色を眺めながら考えた。
この世界のどこかに帰る方法が存在しなかったらあいつらにどう説明しよう。
この世界で生きることをあいつらに強要するわけにもいかない。
かといって嘘を付くのも性に合わん。
「ど~したもんかねぇ・・・」
一方その頃
「さて。明日から忙しい。今日は早めに寝よう」
「真は大丈夫なのかな・・・」
「大丈夫だよ。あいつのことだ。きっと殺されても死なないだろ」
「それじゃまるでゾンビじゃん」
「似たようなもんだろ」
「なんでミーシャはそんなに冷静でいられるの?」
月子の問いにミーシャは
「慌ててもどうしようもないだろ?私だって本当はすごく心配だ」
「実は一番真のこと心配してたりして」
「それはない」
「ふ~ん」
「何だふ~んて!おい!こら待て!!」
なんて他愛もない会話だのなんだのが終わる頃・・・
「食事がで出来ましたよ~・・・あれ?いない?」
「あ、は~い。今降りま~す」
そう言って窓の外からぬっと顔を出す。逆さになりながら。
「!? 何やってんですか!?危ないですよ!?」
「大丈夫です・・・よっと」
窓から宙返りしながら部屋に入った。その場でまた「!?」なんて顔をされた。
「・・・アレですか?あなたは軽業師か何かですか?」
「いいえ。ただの苦学生ですけど何か問題でも?」
「いいえ。別にないです・・・」(なんだろう。私の知ってる苦学生と違う・・・)
「じゃ、行きますか。今日の晩ご飯はなんですか?」
「パンとサラダと野菜炒めとスープです」
なんて会話をしていたのであった。
そしてその翌日の明け方のちょっと前、いわゆる暁に彼は窓際に佇んでいた。
―アームズ、ウイングブースタ起動―
「・・・行くか」
誰にも後は追わせない。奴らには悪いが俺は先に行かせてもらう。
〈本当にいいんですか?〉
ああ。これでいいんだ。勇者御一行の中にイレギュラーは必要ない。
〈なんて言ってるうちに、ほら。来ましたよ〉
ガチャ ギィィ バタン
部屋に入ってきたのはミーシャ一人。
「行くのか・・・?」
「あぁ。悪いが俺は先に行く。心配するな。またどっかで会えるさ」
「本当に大丈夫か?月子が心配してたぞ」
「大丈夫さ。なんたって、サイボーグだぜ?そう簡単には死なんよ・・・。あぁ、そうだ」
「? なんだ?」
「これをお前らに渡しとくよ。口止め料・・・にしては粗末かもしれんがそれで我慢してくれ」
そう言って俺が渡したものは赤い小さな宝石のついた指輪と灰色の水晶が付いたペンダント。
「灰色のはお前にやるよ。月子には赤いやつ渡しといてくれ」
「・・・ありがとう。私からも渡したいものがあるんだけど・・・いいか?」
「あぁ。構わんよ」
「じゃ、その・・・目、閉じててくれ」
「? あぁ」
まぶたを閉じた。すると、数回の深呼吸が聞こえたあとに、唇に何かが。
・・・!?!?!?
「ハッ!!」
目を開くと、ミーシャの顔が真正面に。あっ。顔真っ赤になってら。・・・ヤバイ。なんか変な気分になってきた。
・・・って違う!!なんだこの気持ちは!?何なんだこれ!何なんだ!!
・・・おや?緊急放熱モード?あはは。頭がボーっとする~。
目を背ける二人。気まずい空気の中、太陽が顔を出し始めた。
「じゃ、じゃあ俺、行くから。その、なんていうか、月子にもよろしく言っといてくれ・・・」
「あぁ・・・。じゃあな。またどこかで」
そして、俺は気が動転したまま日の昇り始めた東の方角へと飛び発った。
TO BE CONTINUED ⇒
立った!フラグが立った!・・・のか?
8‐2につづく