表情…
その時健也は初めて気が付いた。
みさとは起き上がろうとしなかったんじゃない…起き上がれなかったんだ…
食事に手を付けていなかったのは食べられなかったからなんだ…
しんどくて喋れなかったんだ…
健也はあれがみさとのただの意地だと思って気にしなかった自分が情けなかった。
なんでもっと早く気付いてあげられなかったのかと自分を責めた。
今みさとは集中治療室…
またあの日の様に人口呼吸器を付けられ、ありとあらゆる機会に繋がれている…
これは発作の様なものだそうだった。
これからこういうことが増えてくるだろうとのことだった。
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翌日みさとの意識が戻り体調も戻って来たので病室に戻ることになった。
いつもと変わらない声…場所…
だが1つだけ違うことがあった…
みさとが自分の足では歩けなくなったこと…車椅子に乗っていることだった。
正確には歩けない訳ではなくその体力がなくなってしまったのだ。
健也はみさとの笑顔をあれ以来見ていなかった。
話しかければ受け答えはするものの、笑うことはなくなってしまった。
健「ねぇみさと?」
み「ん?」
健「キスしよっか。」
み「…なんで?」
健(前なら照れて笑ったり恥ずかしがったりするのにな…)
健也から見た今のみさとは感情というものがなくなってしまったかの様に見えた。
いろいろな感情と戦ってきたからこそ、感情を持つことを恐れている様だった。
健「好きだから…じゃだめ?」
み「別に……」
健「愛してるよ…みさと…」
健也はみさとを抱きしめた。
みさとは黙っていた。
健也はそんなことは気にせず、もっと強く抱きしめた。
自然とみさとの手も健也を抱きしめ返していた。
健也にとってそれはとても嬉しいことだった。
彼女は感情をなくした訳ではない…感情を表すのが苦手になってしまっただけなんだ…
自分は彼女に嫌われた訳じゃないんだと思うと嬉しくて勝手に抱きしめる強さが強くなる。
みさとは抵抗せず、抱きしめられていた。
ゆっくりと健也はみさとから離れた。
一瞬みさとに服を掴まれた気がしたがほんの一瞬でもうみさとの手は自分の膝の上にあった。
健「みさと…」
健也は呟いてそっとみさとにキスをした。
心なしかみさとの頬がピンク色に染まった様に感じた。
ちょっと困ったような、驚いたような…でも嬉しそうな顔…
みさとは少し笑った。
健也が見たかったのはこの顔だった。
キスをした時に見せるこの表情…
健「その顔だよ…俺、みさとの笑顔…好きだよ?だからみさとにはずっと笑っててもらいたいって思う。だからね、笑ってよ…前みたいに毎日を楽しく過ごそうよ!」
み「私…笑えてた?」
健「うん!」
み「そっか…!」
みさとはいつの間にか笑っていた。
健也は嬉しくて、優しくみさとの髪を撫でて微笑んだ。
健「その表情、忘れちゃだめだよ。」
み「わかった。今までごめんな…」
健「いいよ。今笑ってくれてるんだから…」
健也もみさとも幸せそうだった。